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第2話 ~いってきます~

 あれから僕は少しずつ曲を作っている。褒められてしまっては調子に乗るし、何より自分の曲を楽しみにしてくれる人がいると筆が乗るというものだ。

 僕は部屋でふよふよと浮いているネオンを見る。

「?」

 ネオンは笑って僕を見る。女子に耐性が無いのだからその笑顔は反則なんだってば……。

 とは言いつつも、こんな日常に少し慣れてきた頃……。


「ねぇねぇ! この近くに教会あるの知ってる?」

 ネオンが突然そんな事を言い出した。

「ああ……あの大きいのか小さいのかよくわからない」

 こじんまりとしているが、庭もあるし、信者? の人達がよく出入りしているのを昔見かけた事がある。

「そこがどうしたっていうんだ?」

「ボランティア募集しててさ、ほら!」

 ネオンがそう言った後、机に置いてあった僕のスマホが浮く。

「なななな何これ!?」

 僕はもちろん驚くが、ネオンはなんのことなしな様子。

「ポルターガイストってやつ! ネオンちゃんすごい!」

 ああ……ポルターガイストね、うん。なんて素直に受け入れがたいが受け入れるしかない。

 スマホの画面が勝手に光って、とあるホームページを映す。明るい色彩で『教会ボランティア募集』と書いてある。

「ふーん、で? これが?」

「応募しよう! 外に出よう! そして週末の集会で奏の新曲を披露しよう!」

 ……。え?

「決まり! じゃあ明日ね! ささ、早く寝てね~!」

 え?


 次の日。

「準備はOK?」

「あれ、冗談じゃなかったんだ……」

「マジだよ!」

 僕はネオンに背中を押される様に(実際は触れないけど)部屋から出る。

「そういえば……ネオンのこと、他の人にどう説明すればいいんだろう……」

 浮いている人間……幽霊など見つかったら大騒ぎだろう。

「大丈夫! ウチのことは奏か霊感の強い人しか見えない聞こえないから!」

「ならいいか」

 一安心したところで階段を下りると、台所には母さんがいる訳で。母さんは目を丸くしていた。そりゃそうだよな……一年、まともに顔合わせてなかったんだから……。

「奏……どうしたの……?」

 僕は気まずくて、空を見る。

「ちょ、ちょっとさ……外に出よっかなって……。教会のボランティアに行くつもり……」

 怒られるかな……学校にも行かないでそんなことって……。

 でも、いつまでも返事が無いのでちらりと見たら母さんは目を丸くしたまま涙を流していた。

「か、母さん!?」

 母さんは僕の声で涙を拭う。

「いってらっしゃい。母さんは奏のやりたいこと応援してるから」

 そう……言われて僕は……。

「いってきます」

 母さんの気持ちが嬉しくて、背中をしゃんとして玄関へ向かった。


 玄関の扉を開けた久し振りの外は、よく晴れていて春風が気持ち良かった。

「外はどう?」

 ネオンは僕に聞く。

「悪くないよ」

「良いって言いなよ~」


 そんなことを言い合いながら教会の前に着く。僕は緊張しながら扉を開けた。

「す、すみませ~ん……」

 そう言うと、掃除をしていた老齢のシスターが僕に気づいて近寄ってきてくれた。

「どうなされましたか?」

 シスターの声は優しげだった。

「あ、あの……ボランティア募集のホームページを見て……僕に何かできないかな、って……」

「まあまあ! ありがとうございます!」

 シスターは喜んでいた。

「何をすれば良いでしょうか……?」

「じゃあ、まずは掃除を一通り教えましょう」

「は、はい……!」

 するとネオンが「集会! 曲!」と小声で言うので、いきなり厚かましくないか……? と思いつつ、言ってみた。

「あ、あと! 僕、自分で曲を作って演奏できるんです……! 週末の集会で良かったら……演奏させてもらえませんか……? あの……すごく暗い曲なんですけど……」

 そう言うと、シスターは「まあ!」と口に手を当てて驚いていた。

「あなた、すごいのねぇ。ぜひお願いするわ」

 今度は僕が驚く番。

「良いんですか!? 暗いですよ!?」

 シスターは笑って言う。

「どんなことでも、神は笑って見てますよ」

 シスターっぽい言葉だった。


 それから僕は、毎日ちょとだけ教会の手伝いをしに行った。

 学校のことは……シスターは何も聞いてこなかった。シスターなりの優しさなのだろう。


 そして迎えた週末。僕の心臓はバクバクだった。

 まず、皆はシスターの教えを静かに聞いていた。たまに「ママ、まだー?」なんて子供の声が聞こえてくる。まあざっと十人くらいかな、うん。……多くない?

 いや、少ないっちゃ少ないかもしれないけど、僕にとったらいきなり十人の前で曲を披露することになる。

 僕は泣きそうになりながら隣で浮いているネオンを見る。ネオンは「大丈夫!」と両手の親指を立てる。大丈夫じゃない……。

 するとネオンは少し下りて僕の顔を真っ直ぐ見つめる。

「奏なら大丈夫だよ」

 ね? と屈託の無い笑顔で言うもんだから……ドキドキしてしまった。なんだか毒気を抜かれて大丈夫な気がしてきた。

 シスターが静かに聖書を閉じる。

「皆さん、いつもならここで集会は終わりですが、今日はサプライズがあります」

 シスターの優しげな声に皆は、なんだろう? と少しざわつく。

「教会のボランティアの岡田くんが自ら作った曲を演奏してくれます。楽しみですね」

 「えーすごーい」「どんな曲だろう」そんな声が聞こえてきて、ハードルが上がるが覚悟を決めろ、奏。ネオンにも応援されただろ。

「では、岡田くん、前へどうぞ」

 僕はアコギの鞄を背負って立ち上がる。小さくて、大きな一歩を踏み出した。

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