第1話 ~人生は暗闇~
僕は今、死のうとしている。
人生に意味を見いだせない。友達もいない。学校に行きづらくなって引きこもる。
そうやって一年が過ぎて僕は思った。死のう。高校二年でこれは詰んでいる。
金属製のラックに家の物置きにあったロープを掛け、あとは首に縄を掛けて椅子を倒すだけ。
……だけなのに体が震える。一人前に怖いという感情はあるらしい。
こういうのは勢いが大事だ。ええい、ままよ! 僕が首に縄を通そうとしたその時。
「ダメ~~~~!!!」
「!」
見間違いでなければ、何かがカーテンを閉めきった窓をすり抜けて僕に体当たりしてきた。しかし衝撃は無い。
恐る恐るその物体を見てみると……女子高生だった。制服を着崩し、しかも金髪。いわゆるギャルという種族だろう。
ギャルは長い巻かれたサイドテールを揺らし、青い目(カラコンか?)で僕を見上げる。
「自殺なんてしちゃダメ! ウチで良かったら話聴くよ?」
「……」
いきなりなんなのだ。展開についていけない。ていうか……。
「君、なんか透けてない?」
僕の事にギャルは、えへん! と佇まいを直して腰に手を当てる。そして得意気に言った。
「享年十八歳! 幽霊歴二十年! 実咲(みねさき) ネオン! 君を助けにやって来た! 今から君に取り憑くよ! 覚悟せよ!」
幽霊……幽……霊……?
僕は実咲と名乗ったその子に触れる。触れない、通り抜ける。
「……」
僕は気絶した。
「……」
う……ここは……? と目を覚まして一瞬思うがどこからどう見ても見慣れた自分の部屋である。一部を除けば。
「も~! いきなり椅子から落っこちるんだもん~! ひやひやしたよ~! 首に縄が掛かってなくて良かったけど~!」
見慣れない騒がしいギャルが僕を上から見下ろす。……夢じゃなかった。
とりあえず僕は起き上がる。落っこちたであろう際に打ったところが痛い。
「ねぇねぇ! 君の名前は?」
ギャル……実咲だっけ……は、ずいと顔を近づける。女子に耐性の無い僕には刺激が強かった為、顔に熱が上がるのを感じながらつい答えてしまった。
「岡田 奏(おかだ そう)……」
ギャルはそれを聞いてにっこり笑う。笑顔が眩しい。
「良い名前!」
「そう……?」
奏だけに。
とりあえず聞きたいことを聞こう。
「実咲さん……」
「ネオンでいいよ! さんとかこそばゆいから呼び捨てちゃって!」
ギャルってみんなこんな距離感なのだろうか……。ネオンが特別なだけだろうか。
「ネオン、はなんなの……?」
「もう言った!」
言葉を変えて聞いてみるが、答えは同じ。答える気が無いのか、ネオンが言った以上の情報など無いのか……。
「ウチのことじゃなくてさ! 奏のこと聴かせてよ。なんで自殺なんてしようとしたの?」
「……」
まあ……いいか。どうせ捨てる命。最後に何を言ったっていいだろう。僕は自分の気持ちをネオンに吐露した。
「つまり~人生つまんないし、友達いないし、学校行きたくないし、引きこもって詰んだ~って死のうとしてたってこと?」
「まあ、そんなもん……」
人生楽しんでます、っていうギャルにはわかんないだろうな。なんて返されるんだろう? 下らない? 下らないだろうけど、それが僕の人生なんだ。
「奏はさ、好きなことってないの?」
「?」
いきなりなんだろう? 好きなこと……好きなことは……。
「音楽」
「へー! 聴くの? 演奏するの? それとも作るの?」
ネオンはすごく食いつく。僕は少々気圧されながら答えた。
「ぜ、全部……」
「えー!! すごーい!! 奏の作った曲聴かせてよ!」
ネオンはそう言うが、自分の作った曲を誰かに聴かせるなんて初めてだ。演奏だって。自分の中で全て完結させていたから。なんだか恥ずかしい。
けど、ネオンのキラキラした目を見ていると、少し自我というか、自慢してみたい、なんて気持ちが芽生えてきた。
「しょ、しょうがないなぁ……」
僕は立ち上がって部屋の隅にある、誕生日とクリスマスとお年玉を全て合わせて買ってもらった相棒のアコギと、チェストに置いてあるピックを手に取る。そしてベッドに腰掛ける。
「『聴いてください、タイトル』っていうのやって!」
ネオンは無邪気にキャッキャとはしゃぐ。
恥ずかしい……。けど一度やってみたくもあった。僕はちょっとかっこつけてみた。
「聴いてください、『人生は暗闇』」
そう言うとネオンは黙って静かになった。アコギをポロンと鳴らして息を吸い込む。
「人生は暗闇の中を歩いている様で出口なんて無いただの地獄だ」
僕の想いを乗せた曲。誰に否定されたっていい。これが僕の音楽。
曲が終わると、部屋の中はシーンとした。ネオンがどういう反応をするのか気になった。
すると、ネオンは笑いだす。
「あはははは!! ちょー暗ーい!!」
……誰に否定されたっていいとは思ってるけど、実際目の前でされるとムカつく。
けれどネオンはその後、微笑んでこう言った。
「でも、良い曲。君の魂の音が聞こえたよ」
僕は目を見開く。
初めて、他人に自分の曲を披露した。初めて、人前で演奏をした。初めて、自分の曲に感想を貰った。初めて……他人に自分の曲を褒めてもらえた。それが……誇らしかった。
「ねぇ、他の曲も聞きたいな」
「まだこれしかないよ」
「じゃあ作ろうよ!」
ネオンの言葉に僕は満更でもなかった。
この日から、僕の人生は変わり始めた。




