第七十四話 階級
目的地へ向かう道中、セリアとレティシエラは、自分たちの素性を簡単にツバキへ説明した。
「神……そうですか」
ツバキは前方の結界へ軽やかに飛び移りながら、思いのほかあっさりと答える。
「驚かないんだな」
セリアもその後を追い、青白い足場を蹴った。
「ラグルス様のお話は、父から耳にタコができるほど何度も聞かされましたから」
「なるほどね。それにしては、ツバキのお兄さんの方はあんまり信じてなかったけどな」
セリアは、リンドウのあの見下すような顔を思い出しながら苦笑した。
「そうでしたか……」
ツバキは少しだけ視線を落とす。
「でも兄も、きっと内心では気づいていたと思います。ただ、父のように気が長いわけではありませんから。待ち続けることを、途中で諦めてしまっただけなのだと思います」
「……」
ツバキのどこか棘のある言葉に、セリアは返す言葉がなく少し目を伏せた。
《今はそのような話は後回しにしろ》
ラグルスの声が割って入る。
《ツバキといったな。今回出向いている魔族の階級は把握しているのか?》
「階級、ですか……。申し訳ありません。そこまでは」
ツバキが走りながら僅かにセリアへ振り返り、直ぐに前へと視線を戻した。
「ですが、これまで里付近へ現れた魔族に爵位持ちは確認されていません。ですので、おそらく今回もコモナーかと」
《……そうか》
ラグルスは一瞬の間を置き短く返事をした。
「ちょっと待てよ相棒!何だよ階級って!?」
聞き慣れない言葉にセリアが割って入る。
《大声を出すな。……その名の通り魔族には階級がある。そしてその階級は、強さの指標そのものだ》
「つまり階級が高いほど強いってわけか」
《そうだ。奴ら魔族は所詮は魔物上がり。奴らにおいて最も重視されるのは力。故に強い個体から順に高い階級が与えられている》
「なるほどな……。で、話しぶりからするとコモナーっていうのが一番下ってわけだな」
《その認識で間違いない。だが、コモナーであっても魔族は魔族。その辺りにいる魔物とは一線を画す存在だ》
「わかってる。油断はしない」
ラグルスの言葉に、セリアは表情を引き締めた。
「皆さん、あちらが目的地になります」
ツバキが前方を指し示す。
セリアがその先へ目を向けると、そこは龍人の里の端だった。
それまで続いていた建物や畑は途切れ、広い草原だけが続いている。そのさらに先では地面が突然途切れ、地上へと落ち込む断崖が広がっていた。
付近には数人の龍人が待機しており、崖の外側へ鋭い視線を向け、何かを探るように空を監視していた。
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セリアたちは目的地――魔族が襲来している区域へ到着すると、待機していた龍人たちのもとへ向かった。
「状況は?」
ツバキが近くにいた龍人へ短く問いかける。
「姫様! お早い到着で」
龍人はすぐにツバキへ一礼すると、表情を引き締めた。
「現状、大きな動きはありません。しかし、諦める様子もなく、定期的に位置を変えながら周囲へ攻撃を続けております」
そう告げた龍人の男がちらりとセリアとレティシエラへ目を向けた。
その視線に気づいたツバキは、すぐにセリアたちへ向き直る。
「このお二人は、我らが神と、ミリラーネ殿より遣わされた使者だ」
「我らが……神?」
龍人の目が見開かれる。
ツバキはその反応を予想していたように、すぐ言葉を重ねた。
「……詳しい説明は後だ。今は、頼りになる味方戦力だとだけ把握しておけばいい」
「は、はい!」
龍人の男は、すぐに姿勢を正して返事をした。
「よし。それでは、ここは私たちで引き継ぐ。お前たちは少し離れた位置で待機してくれ」
「はい!」
ツバキの指示を受けた龍人は、すぐさま他の者たちへ伝達に向かった。
「さて、ラグルス様、セリア殿、レティシエラ殿。
あちらの方角に見えるのが、件の魔族たちになります」
ツバキの指し示す方向の遥か遠く。
セリアの視力でぎりぎり捉えられる程度の位置に、何かの集団と思しき影が見える。
「遠くてよく見えないな……。龍人って、あれが普通に見えてるのか?」
セリアは目を細めたまま尋ねる。
「あぁ、申し訳ありません。失念していました」
ツバキは自分の右目を指差した。
「特に龍人の視力が優れているわけではありません。結界術を応用して、視力を補っています」
セリアがツバキの右目をよく見ると、小さな青白い結界が眼球のすぐ前に展開されていた。
「へぇ!望遠鏡のレンズみたいなもんか。そんなこともできるんだな」
「お話し中すみません! 魔族の集団がこちらへ近づいてきているようです!」
二人が話している間も魔族の方角から目を離さずにいたレティシエラが、二人の会話へ割って入った。
その声につられてセリアとツバキもすぐさま魔族の方角へ視線を向ける。
先ほどまでは空中にぼんやりと浮かぶ影にしか見えなかった集団が、徐々にその輪郭をはっきりとさせていく。
「結構速いな! ツバキ! どんな様子だ!?」
「確認します」
ツバキは右目の前に浮かぶ結界へ意識を集中させる。
「っ!? 気づかれた……? いや、まさか……」
ツバキがその目を大きく見開く。
「どうした?」
「魔族の動きに迷いがありません。
結界に不備はないので完全には特定できていないと思いたいですが……それは楽観が過ぎるかも知れません」
「それならそれで――わたしたちがついてきた甲斐があったってことだな!」
セリアはそう言うと、右手にクライゲラクを出現させる。
(魔族が相手だろうと、関係無い。勝つ!)
迷いを振り払うように、その右手に力を込めた。




