第七十話 リンドウvsレティシエラ②
次回は9/18(金)を予定しています。
リンドウが突進すると同時に、レティシエラの周囲から伸びた木の根がリンドウへ襲いかかる。
人の胴ほどもある巨木とは思えぬ速度で木の根がリンドウを捉え、巻き付いていく。
「甘ぇ!」
――ザシュ、ザシュ
リンドウは鎧の牙を瞬間的に伸ばし、巻き付こうとする木の根を触れた傍から切り裂く。
引き裂かれた木片が宙を舞い、砕けた樹皮が地面に降り注ぐ。
「どうした!大口叩いといてこの程度かよ!」
リンドウは全身の牙を振るい、迫る木の根を容易く切り裂いていく。
その足取りは止まらない。
木々を砕きながら、レティシエラとの距離を一歩ずつ詰めていった。
しかし、その様子を見てもレティシエラの表情は変わらない。
細剣を地面へ突き刺した姿勢のまま、真っ直ぐリンドウを見据えている。
そして、一言だけ小さく呟く。
「――レインフォース」
その言葉に辺りに淡い光が舞い始める。
光は木の根へ集まり、その一本一本へ染み込んでいく。
「っ!?」
リンドウが木の根を切り裂こうと腕を振るう。しかし、先ほどとは木の根の感触が変わっていることに気づく。
先程までは容易く切り裂けていた木の根が硬度を増している。先ほどと同じ力では切り裂くことができない。
結界の牙が樹皮へ深く食い込むものの、木の根は軋みを上げながら耐え、そのままリンドウの腕へ絡み付こうとする。
(これが精霊術か……!?)
リンドウは力を込め強引に絡みついた木の根を引きちぎる。
しかし、
「――インクリメント」
レティシエラの口から新たな精霊術が紡がれる。
千切られた木の根の断面が光り始め、そこから新たな木の根が枝分かれをしながら勢いよく飛び出した。
一本を切れば二本に増え、二本を切れば、さらにその先から新たな根が伸びる。
「チィッ!」
近づけば近づくほど勢いを増す木の根に、リンドウは思わず舌打ちをする。
いくら硬度や数が上がったところで白虎矛の牙で切り裂けている。そこに変わりはない。
(何の問題もねぇ。そのはずだ……!!)
リンドウは自分に言い聞かせるように心のなかで呟く。
しかし、際限無く襲い来る木の根の波にリンドウはレティシエラとの距離を縮めることができなくなっていた。
苛烈な攻防の最中、リンドウの視界に、数メートル先のレティシエラの姿が映る。
彼女は細剣を地面へ突き立てたまま、最初の位置から一歩も動いていない。
そしてその表情は、自分になど興味がないと言わんばかりの、冷たい無表情のまま。
「クソがぁっ!!」
その顔を見た瞬間、リンドウの怒りが一気に沸騰した。
――ザシュンッ!!
全身の白虎矛の牙を一斉に伸ばし纏わりつく木の根を一息に切り裂く。
そして、その断面から新たに木の根が生えてくるより早く左手で印を組む。
直後、切断された木の根の断面を塞ぐように、薄い青白色の結界が次々と出現した。その結界によって木の根が新たに生えるのが阻まれる。
その隙を逃さずリンドウは真上へ跳躍する。
一瞬遅れて、結界を破り生えてきた木の根たちがリンドウを追いかけ襲いかかった。
木の根が追いつく寸前、リンドウの足元に小さな結界が出現する。
リンドウはそれを強く蹴り、横方向へ身体を弾いた。さらに次の足場を作り出し、もう一度蹴る。
空中に次々と結界を生み出しながら、木の根の隙間を縫うように縦横無尽に駆けていく。
木の根の包囲をすり抜け、一気にレティシエラへと接近した。
レティシエラまで、残り僅か一メートル。
白虎矛の牙がその身体へ届こうとした、その時だった。
レティシエラを囲むように地面が盛り上がり、何本もの木々が一斉に突き出した。
幹と枝が瞬く間に絡み合い、リンドウの視界からレティシエラの姿を覆い隠す。
「それがどうしたぁ!」
リンドウは突如現れた木々へ構うことなく、白虎矛の牙をさらに鋭く伸ばした。
――ザシュゥッ!
進路を塞ぐ幹をまとめて切り裂き、砕けた木片の中へ突っ込んでいく。
木々に囲まれた、その中心へ。
「なっ!?」
だが、そこにレティシエラの姿はなかった。
先ほどまで彼女が立っていたはずの地面には、大きな穴がぽっかりと空いている。
「逃げやがっ――」
――ズゾォォッ!
リンドウが穴を覗き込もうとした瞬間、その奥から無数の細い木の根が噴き出した。
「くっ!?」
リンドウは咄嗟に白虎矛の牙を振るい、迫る根を切り裂く。
しかし、切り裂いた隙間を縫うように無数の根が伸び、リンドウの腕へ足へと絡み付く。そして、数瞬もしない内に白虎矛の鋭い牙ごと覆い尽くしていった。
「くっ……ざっけンな!」
リンドウが力任せに身体を捻る。
何本もの根が引き千切られたが、それ以上の速さで穴から新たな根が溢れ出す。
やがて無数の根はリンドウを中心に束ねられ、幹を形作りながら空へと伸び始めた。
枝が広がり、葉が生い茂る。
僅かな時間のうちに、その場には一本の巨木が組み上がっていた。
そして、巨木の根元に近い幹には――
「……っ、クソが!」
首から上だけを外に出したリンドウが、身動き一つ取れないまま埋め込まれていた。
――チャキ
首を左右に振り、喚くリンドウの首筋にひやりとした感触が走る。
「うっ……」
声が止まる。
リンドウが視線だけを首元へ向けると、透き通る細剣の刃が皮膚へ静かに押し当てられていた。
刃先に触れた首の皮が薄く裂け、赤い筋がゆっくりと滲んでいく。
リンドウは息を呑み、細剣を握る者へと目を向けた。
そこには、戦いの始めからずっと変わらない冷たい顔のレティシエラ。
彼女はふっと表情を和らげ、しかしその声は冷たいまま言い放った。
「暫くしたらこの木は消えます。そうしたら、後片付けはお願いしますね。
それくらいなら……あなたにも出来ますよね?」




