第六十九話 リンドウvsレティシエラ①
次回は9/11(金)を予定しています。
「若様っ! おやめ下さい!」
セリアたちを先導していた龍人の一人がたまらず声を上げた。
「この方たちはミリラーネ様から遣わされた正式な使者です!これ以上は若様といえど見過ごせません!」
リンドウはその言葉を意に介さずにレティシエラから目を逸らさない。
「見過ごせねぇってンなら、どうだってンだよ?
お前らじゃどう言おうが俺様を止められねぇだろうが!」
三節棍を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべ声を荒げる。
その言葉を受けて、周りの龍人たちは気まずそうに僅かに目を伏せる。
龍人の誰もがリンドウを止めようとはしない。否、できない。
「良いか! 俺様が言いてぇのはそういうことだ!」
リンドウがレティシエラを見据えたまま再び吼える。
「こいつらがあの筋肉デカアホ女の使者だろうが! マジの神だろうが! そんなことは関係ねぇンだよ! どれだけ身分や言い分が正しかろうが、力がなけりゃゴミと変わらねぇ」
一旦言葉を区切り、重心を低く落として三節棍を構える。
「重要なのは聖衛隊相手に勝てる実力があるかどうか、それだけだろうが!」
言い終えると同時にリンドウがレティシエラ目掛けて低い姿勢のまま地面を蹴る。
足元の土が弾け、一気に距離が詰まる。
「っ!」
レティシエラは透き通る細剣を素早く胸元へ引き寄せる。
――ガギィン!
細剣と三節棍が激しく衝突し、三節棍を覆っていた結界の青白い光が火花のように辺りに散る。
すかさずレティシエラは細剣で三節棍を上へ弾くと、そのままの勢いで肩口を狙い細剣を滑らせる。
しかしリンドウは、素早く左手で印を組み、肩口に結界を出現させ細剣の軌道を僅かに逸らす。細剣はリンドウの服の端を割くが、傷を与えることはできなかった。
返す動きで三節棍が横薙ぎに振るわれる。
レティシエラは身を屈めてそれを避け、すぐさま細剣を突き出した。
――ギィン! ガギィン!
細剣と三節棍が、立て続けにぶつかり合う。
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セリアは二人の激しい戦いに、剣槍を握る手へ力を込めた。
止めに入ろうと僅かに重心を前に移す。その時だった。
《止めようなどと考えるなよ》
セリアの心を読んだかのようにラグルスが制止の声を出す。
「何でだよ!? あのリンドウとかいう奴の言ってることが正しいって言うのかよ!」
セリアがすかさず反論する。
《勘違いするな、奴の言い分などどうでも良い。
……周りの龍人たちの反応から、あの小僧はこの里で相当な実力者で通っているのは間違いない。ならば、これは現在のレティシエラとこの里自体の実力を計る良い機会と言えるだろう》
ラグルスの普段と変わらない冷静な声が響く。
「……相変わらずだな、相棒は」
セリアは呆れたように呟きながらも、二人の戦いから目を離さなかった。
「確かに今のレティの実力も見ておきたいってのはあるけど、危なくないか?怪我とか……」
《何を寝ぼけたことを言っている?我らについてきた時点で怪我はおろか死すら覚悟しているだろう。
それにだ、仮にも守護者の力を得た者だ。共に戦う仲間の力くらい信じてやれ》
諭すようなラグルスの声にセリアは剣槍を握っていた手の力を少しだけ緩める。
「そう、だな。 悪い、なんかリレンヌの時のこと思い出しちゃってさ」
そして、気持ちを切り替えるように頬を軽く叩いた。
「うん! レティがあんな奴に負けるなんてないよな!そもそも別に殺し合いってわけじゃないだろうし!」
《……相変わらず、切り替えだけは早い奴だ》
ラグルスの皮肉にも気づかない様子で、セリアは少し気の抜けた表情で二人の戦いを観戦し始めた。
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――ガァァン!!
細剣と三節棍が激しく衝突する。その勢いで両者共地面を蹴り、それぞれ後方に大きく飛び距離を取る。
「なんだ、思ったよりは悪くねぇな」
リンドウは三節棍を肩へ担ぎ直し、余裕の表情を崩さずにレティシエラを見据えた。
「……今の動きだけで、悪くないという評価ですか」
レティシエラは細剣を構えたまま、無表情に呟く。
「あ? 何が言いてぇンだ」
リンドウの眉間に、わずかに皺が寄った。
「いえ、たいしたことではありませんよ。ただ……わたくしとしては、思ったよりは楽に済みそうだなと、そう感じただけです」
「はっははははははっ!!」
一瞬の沈黙のあと、リンドウが天を仰いで大声で笑った。
だが次の瞬間、笑みは跡形もなく消えていた。
リンドウは手にしていた三節棍を、無造作に地面へ放り投げる。
「闘結界 白虎矛」
その言葉と同時に、リンドウの全身から青白い光が噴き上がった。
光は激しく揺らめきながら身体の表面へ集まり、やがて輪郭を持ち始める。
現れたのは、リンドウの全身を覆う鎧のような結界。その腕や脚からは、牙や棘を思わせる鋭利な突起が伸びている。
「少し遊んでやったら勘違いしやがって……これだから女は」
リンドウは大きく足を開き、腰を落とした。
「もう良い。お前はさっさと寝てろや!」
強く踏み込まれた足が地面へ深く沈む。その衝撃で周囲の空気が震え、巻き起こった風が地面の砂を高く舞い上げた。
しかし、それでもレティシエラは表情を崩さない。
「勘違いに性別は関係ないと思いますが。それよりも、勘違いしているのはあなたのほうかと」
レティシエラはそう言うと、細剣を地面に突き立てる。
直後、地面が大きく隆起し人の胴ほどの太さを持つ木の根が次々と姿を現した。その鋭く尖った先端がリンドウへ向けられる。
「……俺様が、何を勘違いしてるって?」
リンドウがレティシエラを強く睨みつけて問う。
それに対しレティシエラはわずかに口元を緩めた。
「勿論、ご自身の実力ですよ」
――ドンッ!!
その言葉が終わるかどうかという瞬間、リンドウの足元が爆ぜた。
土と砂を後方へ巻き上げ、白虎の鎧を纏った身体が一気に加速する。
リンドウがレティシエラ目掛けて突進した。




