第六十八話 リンドウ
次回は9/4(金)の投稿をよていしています。
《スイレンの息子がどういうつもりだ?我らは正式な手順を踏んでいるはずだが》
ラグルスの声は普段と変わらず淡々としているが、長年の付き合いからセリアには分かる。その声の奥にはわずかな苛立ちが混じっていた。
「ンなこたどうでもいいんだよ。重要なのは、ウィアードを倒そうとしているヤツがこの程度の不意打ちに対応できなかったって、そンだけの話」
龍人の里最強を自称する男、リンドウは片手で額を抑えながら呆れた声で返す。
その言葉に、セリアの眉がピクリと動く。
「おい、あんた。期待外れだのなんだの言いやがって。わたしがここから出られないとでも思ってるのか?」
セリアは結界越しにリンドウを真っ直ぐに睨みつけた。
「は?……俺様の話を聞いてなかったのか?テメェが出られるかどうかは本題じゃねンだよ。まぁ、だからって出られるとは言わねぇけど」
「こいつ!!」
リンドウの挑発に、セリアは直ぐ様右手にクライゲラクを出現させ結界に向かって突きを放つ。
――ィィイン!
「!?」
衝撃が結界の表面に届く前に散っていく。
突きに込めたはずの威力が、どこかへ吸い込まれるように消えていった。
予想外の感触に、セリアは思わず剣槍を握る手に視線を落とす。
(突きの威力が吸収された……?)
「はっ。だから言ったろ。その結界、玄武牢は里の結界の一部を流用してンの。よーするに俺様含め腕利きの使い手数人分の結界なわけ。そう簡単にゃ出られねぇよ?」
リンドウが顎を上げ、結界の中のセリアを見下す。
「億が一テメェが出れたとしても、その頃には連れのエルフを片付けて、こっちの味方でテメェを囲んでる状況を作れンだよ。だからこんな簡単に結界に捕まった時点で――」
――バリイィン!!
リンドウが言い終える前に、轟音とともにセリアを囲んでいた結界が砕ける。
半透明の結界の破片が空中へ弾け、青白い光とともに空中に溶けていった。
結界の残光の中、セリアはクライゲラクを肩に担ぐ。
「……ん?話の途中だろ? 口、止まってるぞ」
その言葉とともに先程のリンドウと同じように見下すような視線を返す。
「……ふ、ふーん?流石に神を自称するだけはあるってわけね」
リンドウは見開いていた目をもとに戻すが、その声は僅かに震えていた。
「けど、テメェが結界に閉じ込められたのは事実だろ?テメェと話なんかしてなかったらそこのエルフを始末するくらいはできたけど?」
「すみません。少しよろしいですか」
ここまで黙っていたレティシエラが唐突に口を開く。
口調こそ普段と変わらないがその表情はいつになく険しい。その銀灰色の瞳が、まっすぐにリンドウを捉えている。
「先程から、何故わたくしがあなたより弱い前提なのでしょうか?……百歩譲ってあなたの方が強かったとしても、セリアさんやラグルス様へのその言動、不敬と言わざるを得ません」
「はっ! ンだよ、何を言うかと思えば……」
先ほどの動揺した様子から一転し、リンドウは再び口の端を吊り上げた。
「そこの自称神ならまだしも、召使いの三下如きが俺様より?なんだって?……笑わせんなよくだらねぇ」
今度はレティシエラへと見下すように視線を向ける。
「お前いい加減に――」
セリアがクライゲラクに炎を纏わせて声を荒げかけたその時、
リンドウの周囲の地面が、ぼこりと盛り上がった。
「――あ?」
リンドウが視線を落とした瞬間、地面から木々が勢いよく伸びる。幹は一瞬で太さを増し、枝は互いに絡み合いながら、リンドウを囲むように広がっていった。
「セリアさん」
レティシエラが一歩前に出る。
「ここはわたくしに任せてください。……スイレン様もご苦労されていることでしょうし、御子息の躾のお手伝いをいたしましょう」
そう言って、レティシエラは右手を軽く開いた。
淡い光が、その掌に集まっていく。
やがて光は形を成し、一振りの剣となって現れた。
両刃の細剣の神器。
氷のように白く透き通った刃は細く、鍔の部分には大きな花の意匠が飾られていた。
レティシエラはその剣を静かに構える。
――バギィ!
突然の木々の出現に一瞬固まったリンドウだったが、直ぐに腰に下げていた三節棍を振り回し、周りの木々をなぎ倒す。
その三節棍の表面には青白い結界が纏っていた。
「ンだぁ?……神器かよ?それ」
リンドウはわずかに目を見開き、レティシエラの手にある細剣へ視線を向ける。
しかし直ぐに先ほどと同じような薄笑いを浮かべ、レティシエラを見下す。
「悪りぃ悪りぃ。三下は訂正するぜ?……二下に格上げしてやるよ」




