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炎神少女は、歪んだ世界に火をつける  作者: ぱぱんむ
第三章 エルフの里編
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第六十三話 出発

「龍人の里か!

 守護者のスイレンさんに会いに行けば良いんだな?」


セリアがすぐに明るい声で反応した。


《そうだな。こうなった以上はスイレンとの協力は早いほどよいだろう。

 ……とはいえ、準備もある。それに身体を休める必要もある故、出発は明朝とする》


「あの、わたくしも龍人の里について行ってもよろしいですか?」


レティシエラが遠慮がちに口を開く。


「何言ってんだ。私がさっき言った『お前たち』ってのにはレティシエラ、お前も含めてだ」


ミリラーネがあっさりと言い放った。


「お前の精霊術は必ず役に立つ。

 それに、ラグルスとセリアと居たほうが強くなれるだろうしな」


「ミリラーネ様……」


レティシエラがわずかに目を見開く。


「私はここに残って守りを固める。

探知が得意な奴を集めて常時周囲に精霊術を張っておく。だからこっちは心配すんな」


「……ありがとうございます」


ミリラーネの言葉にレティシエラは頭を下げて返事をした。


________________________________________



その日の夜。


セリアはレティシエラの家の客室のベッドに横たわりながら、ぽつりと呟いた。


「七柱(セプティム)、強かったな……」


《なんだ、先程は『七柱全員が相手でも勝てる』と威勢の良いことを言っていたのにもう弱気か》


ラグルスの返事は煽りとなって響く。


「そりゃ勝つ気ではいるさ。でも、想像以上だった。

正直……セキトが大したこと無かったしちょっと舐めてたっていうか、ウィアード以外は相手にならないって、どこかで思ってたんだよな」


セリアは天井を見つめたまま言葉を返す。


《ミリラーネによると、七柱やそれに準ずる存在は、少なくとも百年前までは確認できなかったようだ》


ラグルスは静かに分析を始める。


《つまり、七柱は組織の幹部というよりは、従来の常識を大幅に超える異常個体に対して設けられた特別枠、といった立ち位置なのだろう》


「……強すぎて、今までの枠に収まらなかったってことか」


《そうだ。セキトが幹部候補と言われていたようだが、恐らく七柱は入れ替わりや補充を前提としたものではない。纏まで使えるあの強さは、そう考えれば辻褄が合う》


「もし本当にそうだとしたら、運が良いな」


そう言ってセリアは、がばりと上体を起こした。


《……何故だ?》


「ふふん、相棒も察しが悪くなったか?」


セリアがいたずらっぽく笑う。


「わたしたちが迷宮から出てくる時期がもう少し遅かったら、皆やられてたかもしれない。つまり、わたしたちは間に合った、ってことさ」


《それは、運が良いとはいわん。

 そもそも異常個体が七人も同じ時代に現れていることは運が悪いと考えるのが自然だ》


ラグルスの口調が、わずかに早くなっていた。


「あー、はいはい。要は考え方ってことだって。

どうせ状況は変わらないんだから前向きに考える方が得だろ?」


セリアは軽く手を振って流した。


《……今回は、お前の考え方が……合理的、かもしれんな》


ラグルスの声が、いかにも不本意そうに響いた。


________________________________________



翌朝。


レティシエラの家の玄関で、セリアたちはレティシエラの両親と向き合っていた。


「お世話になりました。ご飯、凄く美味しかったです」


セリアは深く頭を下げた。


「もったいないお言葉。私たちにとって、この十数日間は夢のような時間でした」


レティシエラの父がやわらかな笑顔で答える。


「お父様、お母様。行ってまいります」


レティシエラは短く、だがはっきりとそう告げた。


「必ず、ラグルス様たちのお役に立ちなさい」


レティシエラの母は、厳しさを含んだ声でそう告げる。


だがその直後、表情をわずかに和らげて続けた。


「……無事に、帰って来るんですよ」


「必ず」


レティシエラは短くそう返し、扉へと向き直った。


________________________________________



「そういえば龍人の里ってどこにあるんだ?」


里の門へと向かう途中でセリアがふと口にする。


「それなのですが……龍人の里は特定の場所に存在しているわけではないのです」


レティシエラは少し困ったように答える。


《成る程……結界術か》


ラグルスが、すぐに察したように呟いた。


「その通りですラグルス様。

龍人の里は結界術の力で、常に空中を漂っていると聞いております」


「空中!?」


セリアが目を見開く。


「結界術って、あんまり想像できないんだけど……そんなことも出来るんだな」


「はい。さらに外部からの視認も遮断しているため、目視での確認もできません」


レティシエラはそう付け加える。


「凄いな……!」


セリアは素直に感嘆の声を漏らす。


《それほど大掛かりな結界術とは、スイレン以外にもそれなりの使い手がいるようだな》


「わたくしも実際には伺ったことはありませんが、結界の維持には相当な人員を割いていると聞いております」


セリアたちが話しているうちに、里の門へと辿り着く。


そこには、すでにミリラーネの姿があった。


「やっと来たか。 随分悠長じゃないか」


言葉こそ辛辣だったが、その表情はどこか明るい。


「いつから待ってるんだよ……。

 今より早かったら夜明け前だよ、ミリラーネさん」


セリアが呆れて返事をする。


「冗談だ」


ミリラーネはくっくと笑いながら軽く手を振った。


「龍人の里へはこれを使え」


そう言ってミリラーネは小さい鈴を放る。


「これは……?」


セリアは鈴を受け止め不思議そうに尋ねる。


「それを特定の場所で鳴らせば、龍人の里から接触があるはずだ。

 場所は……レティシエラ、知っているよな?」


「はい」


レティシエラが迷いなく頷いた。


「ってことで、必要な話は以上だな。ラグルス、スイレンに宜しく言っておいてくれ」


《期待はするな》


ラグルスが短く答える。


「はっは!勿論」


ミリラーネは豪快に笑う。


「それじゃあ、さっさと行け。ここでぐだぐだやるほど暇じゃないしな」


「……ミリラーネさん、ありがとうございました」


セリアは手早くお辞儀をして、門のほうへ身体を向けた。


「行ってまいります」


レティシエラも静かに頭を下げ、セリアに続く。





門をくぐりしばらく進んだところで、セリアはふと足を止めた。


ほんの少しだけ、振り返りたくなる。

だが、その気持ちを押し込みすぐに前を向く。


「……よし」


小さくそう呟くと、セリアは再び足を前へ進めた。


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