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炎神少女は、歪んだ世界に火をつける  作者: ぱぱんむ
第三章 エルフの里編
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第六十話 泡

クフスターが名乗りを上げた、その頃。


里を囲う岩壁の内側では、セリアとレティシエラが待機していた。

セリアは金火猫キンカビョウを壁の向こうに飛ばし、レティシエラは精霊術で外の気配を探っている。


七柱セプティム……!」


レティシエラが息を呑むように呟いた。


「いきなり聖衛隊の主力かよ……。

 でも、七柱の候補だったやつがあの程度だったからな。ミリラーネさんなら楽勝だろ」


セリアは以前戦ったセキトの姿を思い浮かべながら、そう口にする。


「……正直わたくしも、実際にセキトの戦いを見て、噂に聞く七柱の実力とは大きな差があると感じました」


レティシエラが不安げに目を細めながら続けた。


「セキトの七柱候補の話も、七柱の実力の話も、どちらも所詮は噂……。

ですが、仮に後者のみが本当の話だった場合、楽勝とまではいかないかもしれません」


《どちらにしても敵主力の底を知る良い機会だ。

ここで七柱とやらの戦いを見れることは大きな利点だろう》


ラグルスはこの場においてもいつもの調子を崩さない。


________________________________________



――バシィッ! ゴォン!


鞭と鉄球が、唸りを上げてぶつかり合う。


「どうした! 威勢がいいのは言葉だけか!」


ミリラーネの鉄球が縦横無尽に駆け巡り、クフスターを容赦なく追い立てる。


クフスターは鞭でどうにかいなしているものの、完全には防ぎ切れず、身体には細かな傷が増えていった。


「そらっ!」


再び放たれた高速の鉄球が、真正面からクフスターを捉える。


クフスターはぎりぎりで身を捻り、直撃だけは免れた。

だが、衝撃までは殺しきれず、そのまま数メートル後方へと押し流される。


「そろそろ見せたらどうだ?使えるんだろ?フィアス」


ミリラーネが、獰猛な笑みを浮かべた。


「……」


だが、クフスターは答えない。


ただ何かを考え込むように額へ手を当てる。


「流石に、守護者は強いな……」


ぽつりと、独り言のように呟く。


「殺すには惜しいが……あの筋肉量は、ボクの理想のご主人様像とはまるで違う。

もっと華奢で、見た目はか弱そうなのに、態度だけは大きくて――」


ミリラーネの問いかけなどまるで耳に入っていないかのように、なおもぶつぶつと続けた。


――ドゴォッ!


そこへミリラーネの鉄球が再び唸りを上げる。

だが、クフスターは直前で後方へ飛びそれを回避した。


「おい」


クフスターが、ゆっくりと顔を上げる。


「ボクがご主人様の理想について、せっかく楽しく話してやっているのに……。その態度はなんだ?」


その声音は、怒号でもなければ嘲りでもない。本気で疑問に思っている者のそれだった。


「……使わないってんなら、こっちは楽でいいけどな」


ミリラーネが鉄球を引き戻し、容赦なく告げる。


「死ね」


直後、地面が唸った。


セリアとの模擬戦でも見せたように、ミリラーネが地を操る。

クフスターの足元から岩がせり上がり、その両脚を一気に封じた。

それと同時に、ガルバーディンの鉄球がクフスターの眼前へと迫る。


「……フィアスなら、もう使っているんだけどね」


クフスターがぽつりと呟いた。

その足元に、いつの間にかひとつの小瓶が転がっている。

中身はすでに空だったが、瓶の内側にはまだ小さな泡がいくつも張りついていた。


次の瞬間。

鉄球とクフスターの間に、小さな泡の集合体が音もなく現れる。

その泡は、ぶつかった鉄球の表面をぬるりと滑らせ、その軌道をわずかに逸らした。


直撃するはずだった一撃が、クフスターの身体を掠めるように流れていく。


さらに足元の岩にも泡が群がった。

ぬめるような音とともに、クフスターの脚が岩の拘束から滑り抜ける。


「うーん……その容赦のなさは、かなり惹かれるんだけどね」


クフスターは、またも独り言のようにぶつぶつと呟いた。


「やっぱり、その体格は理想とは違いすぎる……。いや、繋ぎとしてなら――」




「泡、ねぇ……。そういや、セリアとの訓練のあと水浴びもしてなかったな」


ミリラーネが、見下すように口を開く。


「身体を洗うくらいには、使えるんじゃねぇか?」


その言葉に、クフスターの独り言がぴたりと止まった。

そして、じっとミリラーネを見据える。


「……良いね」


不釣り合いなほど明るい声が、森の空気を染める。


「決めたよ。殺すのは止めだ。君は『繋ぎ』として使うことにしたよ。

 よろしくね――ご主人様」


そう言うと、周囲に漂わせていた泡が一斉に鞭へと絡みついていく。


「そうと決まれば、時間が惜しい」


クフスターは、恍惚とした調子のまま呟いた。


「君に似合う名前と服と、それから鞭も考えないといけない……。

だから、さっさと終わらせよう」


直後。


鞭にまとわりついていた泡が、急速にひとつへ収束し始める。

膨れ上がったそれは、たちまち巨大な一つの泡となってクフスターの全身をすっぽりと包み込んだ。


泡の内側で、鞭の輪郭が溶けるように崩れていく。


手にしていたはずの神器が姿を消す。

だが、クフスターの右手はなおも何かを握るような形を保ったままだった。


「――ボクの、『グレンカイム』でね」


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