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炎神少女は、歪んだ世界に火をつける  作者: ぱぱんむ
第三章 エルフの里編
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第五十九話 七柱

――ガァンッ! ドゴォン!


鋼が激しくぶつかり合い、大地が割れるような音が鍛錬場に響き渡る。

セリアとミリラーネは、今日も鍛錬場の中央で模擬戦を繰り広げていた。


「はあっ!」


セリアの剣槍が、真正面からミリラーネの岩壁を打ち砕く。

砕けた岩片が四方へ飛び散り、土煙が舞い上がった。


《そこまでだ》


ラグルスが鋭く言い放ち二人を制する。


「やるなぁ、セリア」


ミリラーネは、肩で息をしながらも楽しげに笑った。


「この短期間で、さらに強くなってやがる」


「ミリラーネさんこそ。日に日に技のキレが増してるよな」


セリアも剣槍を軽く下ろし、息を整えながら言い返す。


「はっはっはっ! まあ私の場合は、勘が戻ってきてるって感じだろうがな」


ミリラーネは豪快に笑い、肩を回した。




「ミリラーネ様っ! ご報告です!」


エルフの男が、肩で息をしながら鍛錬場の入口から駆け込んできた。


「つい先ほど、バランティン聖衛隊を名乗る人間が二名、里の門前に現れました!」

「リレンヌで聖衛隊を殺害した赤髪の女を差し出せ――そのように要求しております!」


「……ついに来やがったか」


ミリラーネが、低く吐き捨てるように呟いた。


「よしっ! わたしがさっと片付けて――」


「いや、待て」


セリアの言葉を、ミリラーネがすぐに遮った。


「まだ奴らは、セリアたちがここに来ているって確証までは持っていないはずだ。それに人数もたった二人。最初から戦う気で来たようには見えねぇ」


「まずは白を切って、様子を見る」


《……あるいは、二名で十分だと判断した可能性もあるがな》


ラグルスが、低く付け加えた。


「ま、どっちにしろだ。セリアは隠れてろ。

あと、レティシエラも顔が割れてるだろうからな。あいつにも待機するよう伝えておいてくれ」


レティシエラは今、この場にはいない。

力の調整のため、別の場所で訓練を行っていた。


「……わかった」


セリアは、いかにも不満そうに眉を寄せる。


「でも、危ないようならわたしもすぐ出るからな」


「ふっ。誰に言ってんだ」


ミリラーネは、獰猛さすら感じさせる笑みを浮かべた。


「よし。これから門へ向かう。お前は着いてこい」


報告に来たエルフの男に声をかけると、ミリラーネは背を向け鍛錬場を後にした。


________________________________________



その頃、エルフの里の門前。


女は変わらず、四つん這いの男の背に腰掛けたまま高い岩壁を見上げていた。


「はぁ~……いつまで待たせんのよ……」


女は露骨に苛立った声で吐き捨てる。


「もう、壊していいんじゃない?」


「い、いえ、ご主人様……。 め、命令では、殺すなとの――ぐぇっ!」


背に乗せた女を揺らさぬよう耐えながら、男が怯えた声で答える。

だが、言い終わる前に女は首輪に繋がった鎖を乱暴に引き上げた。


「そんなことは分かってんのよぉ!」


女の目が、鋭く吊り上がる。


「私は『殺せ』なんて一言も言ってないでしょ。ただ少し暴れるだけよ」

「そんなことも分からないなんて、ほんとお前は頭まで悪いグズね」


「――おいおい」


不意に、門の上から声がかかった。

岩壁の上に立つミリラーネが、呆れたように二人を見下ろしている。


「どんな奴が来たのかと思えば……とんだ変態どもじゃねぇか」


「……あら?」


女がゆっくりと顔を上げる。

その口元には、小馬鹿にしたような笑みが浮かんでいた。


「誰かと思ったらその筋肉ダルマ……あなたがミリラーネってやつ?」


「その通りだ」


ミリラーネは、気圧された様子もなく言い返す。


「悪いが、お前らの探してる奴はここにはいない。

大人しく帰るならよし。だが、そうじゃないってんなら――」


ミリラーネの目が、すっと細くなった。


「殺されても、文句は言うなよ?」



「……殺す、だって」


女は、椅子にしていた男へ確かめるようにそう言った。

口元の笑みが、ぐっと深くなる。


「上等じゃない!

こっちは赤髪のメスガキ以外なら、殺しても構わないって言われてん――」


――ドゴォォン!!


言い終えるより早く。

ミリラーネのガルバーディンが唸りを上げ、女の身体へ直撃した。


「が――」


悲鳴すら最後まで形にならない。

女の身体は男の背から弾き飛ばされ、そのまま鉄球ごと十数メートル先の大木へ叩きつけられた。


鈍い音とともに、木肌が大きく裂ける。

そこに残った女の姿は、首が不自然な方向へ折れ曲がり、胴は潰れ、手足もあらぬ方向へ千切れかけていた。

とても、生きているようには見えない。


「何をべらべら喋ってんだ?」


ミリラーネは、神器の鎖をゆっくりと引き戻しながら、淡々と口にする。


「大人しく帰らねぇなら、殺す。そう言ったはずだろ」


そして、視線を四つん這いのまま固まっている男へ向けた。


「で? お前はどうするんだ?」


________________________________________



時は少し遡る。

セリアたちがエルフの里で鍛錬を積んでいた頃。


王都アナンドール、玉座の間。


「ハルザー」


玉座に腰掛ける黒髪の青年――ウィアードが、眼前の男へ声をかける。


「何用でしょうか、陛下」


ハルザーは、表情ひとつ動かさず平坦な声で応じた。


「リレンヌの暴動の件……。あれには、誰を向かわせたんだい?」


ウィアードは、ハルザーの方すら見ない。

退屈そうに、玉座の肘掛けへ視線を落としたままだ。


「……意外ですね、陛下」


ハルザーは相変わらず無表情のまま答える。

ただ、返答までにはわずかな間があった。


「その後をお聞きになるとは」


「ふふっ……。そう思うなら、僕への理解が浅いな」


ウィアードは少しだけ口元を緩める。だが、目線は依然として変わらない。


「いいから勿体つけずに教えてくれよ」


「はっ。クフスターを向かわせました」


「……へぇ。 七柱セプティムを使うなんて、お前こそ意外なことをするじゃないか」


そこで初めてウィアードが顔を上げた。

視線が、真っ直ぐにハルザーを捉える。


「恐れながら、最適はクフスターだと判断しました」


ハルザーは、事務的な口調で述べる。


「奴は基本的に命令には忠実ですし、フィアスの性質としても偵察に向いております。

……まあ、性格には多少難がありますが」


少しの間を置き続ける。


「加えて、仮にミリラーネと戦闘になったとしても、あの男なら問題はないかと」


「ふぅん……。 まあ、守護者対七柱っていうのは、少しは面白いかもしれないね」


________________________________________



場面は戻る。


ミリラーネの問いかけの直後。


「……ど」


しばらく四つん這いのまま固まっていた男が、ふらりと立ち上がった。


震える声で口を開く。


「ど、どれだけ……。

 どれだけ大変だと思っているんだ……!」


声は震えている。

だが、その奥には、先ほどまでの怯えとは別種の熱が混じっていた。


「彼女ほどの、理想のご主人様を創り上げるのが……!!」


その直後――


鋭い風切り音が走り、ミリラーネの頬を何かが掠めた。

一拍遅れて、そこに細い赤線が浮かび上がる。


「……」


ミリラーネがゆっくりと男へ視線を戻す。


男の手には、いつの間にか黒い鞭が握られていた。

硬質な鱗のような棘をいくつも備えた、禍々しい神器。


「まずは名乗っておこう。

ボクは、バランティン聖衛隊七柱が一人、クフスター」


長身で痩せたその男は、眼を覆っていた前髪をゆっくりと後ろに掻き上げた。

現れた眼に浮かぶのは、先ほどまでの卑屈さとは似ても似つかぬ、歪んだ光だった。


「お前を殺して――次のご主人様は、エルフから探すことにしよう」


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