第五十三話 セリアVSミリラーネ
――ヴォンヴォンヴォン
ミリラーネが神器の鉄球を高速で振り回す。
唸りを上げる鎖の先、巨大な鉄球はもはや輪郭を失い、ただの破壊の塊と化していた。
触れた地面は抵抗する間もなく抉れ、土砂と岩片が宙を舞う。
「そらっ!」
掛け声と同時に、鉄球が解き放たれる。
セリアは反射的に地面を蹴ろうとした。だが、
(!?)
足が、動かない。
一瞬の違和感。
視線を落としたその刹那、セリアの左足は地面からせり上がった岩に絡め取られていた。
(くっ……!)
回避は間に合わない。
その間にも、ミリラーネの鉄球は一直線に迫ってくる。
逃げ場はない。
――ガギィィンッ!
直撃の寸前、セリアはクライゲラクを己の正面に滑り込ませた。
鈍く、凄まじい衝撃が腕を通して全身に叩きつけられる。
足を固定されたままでは、衝撃を逃がすこともできない。
「……っ!」
後方へ弾かれ、地面を削りながら着地する。セリアの額から、温かいものが伝った。
「はっはっは! いいねぇ。さっきのを受けてそれだけなら、相当頑丈だ」
ミリラーネが嬉しそうに目を細めて声をかける。
巨大な鉄球は、いつの間にか鎖に引き戻され、彼女の足元に静かに転がっていた。
「……なるほどな、ミリラーネさん」
セリアは口元の血を手の甲で拭い、視線を上げる。
「この鍛錬場の岩壁はあんたの力か」
先ほど、足を絡め取った岩。
そして今も、地面そのものを自在に操っている感触。
「御名答」
ミリラーネが口角を上げる。
「私の力は『岩』。 さあ――次は、お前の力を見せてくれよ!」
そう言って、左腕を肘から突き上げる。
瞬間、セリアの足元が不穏に揺れた。
(来る――!)
次の瞬間、先端の尖った巨大な岩柱が地面を突き破り、真下から噴き上がる。
セリアは反射的に跳躍し、間一髪で岩柱をかわした。
だが――
宙に浮いたその瞬間を見逃す相手ではない。
鎖が唸り、ミリラーネの鉄球が空中のセリアへと迫る。
「くそっ!」
クライゲラクを振るい、鉄球を弾き返そうとする。
だが、鉄球の勢いが勝る。衝撃とともにセリアの身体ごと吹き飛ばされた。
(鎖……長すぎだろ!っていうか、伸びてるのか!?)
空中で体勢を立て直そうとする、その刹那。
「これは、どう防ぐ?」
ミリラーネが静かに言い、左手を地面へと叩きつけた。
セリアの背後。このまま吹き飛ばされる先――
巨大な棘付きの岩壁が、逃げ道を塞ぐようにせり上がる。
(挟み撃ちか……!)
一瞬、振り返って岩壁を確認する。
セリアは左手に火球を生み出し、背後へと放つ。
ゴゥ、と炎が岩壁に叩きつけられ、棘の部分が焼け崩れる。
次の瞬間。
セリアの身体は、その焼け落ちた部分へと叩きつけられた。
衝撃は激しいが棘は無いため大きな傷は免れた。
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「やるなぁ……」
崩れた岩壁の中から立ち上がりながら、セリアは小さく呟く。
一方的に押されている状況だというのに、その表情はどこか楽しそうな様子だった。
「さてと……今度はこっちから行かせてもらう」
そう言うとセリアは左腕に炎を纏う。
「お前の力は『炎』ってわけか。……いいね。来いよ!」
セリアの左腕の炎を見たミリラーネが楽しそうに叫ぶ。
セリアは左腕の炎を解き放つ。
紅蓮の炎が渦を巻き、咆哮のような熱を伴ってミリラーネへ襲いかかる。
それを見たミリラーネは、右足で地面を軽く叩いた。
瞬時に岩壁がせり上がり、炎を受け止める盾となる。
――ゴオオォォン!
岩壁と炎が激突する。
炎は岩を焼き、粉砕する。しかしミリラーネには届かない。
「それじゃあ……足りないなぁ」
ミリラーネが余裕の笑みを浮かべた、その瞬間。
「――っ!?」
砕け散った岩壁の左右。その影から、炎で形作られた二振りの剣――火磨鼬が、ミリラーネへと斬りかかる。
「ふんっ」
ミリラーネは神器の鉄球を振るい、迎撃する。
キンッ、キンッ――
炎の剣と鉄球が幾度も激突し、火花が散った。その隙を、セリアは逃さない。
一気に距離を詰め、クライゲラクに炎を纏わせ大きく振りかぶる。
ミリラーネは横目でそれを捉え、鎖を伸ばして火磨鼬を防ぎつつ、鉄球でクライゲラクを受け止めた。
「まだまだだ。これじゃあ届かないぜ?」
その言葉に、セリアは口の端を上げる。
「……だろうな」
低く呟き、告げる。
「大百火足」
その瞬間クライゲラクに宿っていた炎が、形を変えた。
燃え盛る炎は鎖となり、ミリラーネの身体へと絡みつく。
「ぐっ……!?」
ミリラーネは歯を食いしばり、力任せに引きちぎろうとするが、鎖は千切れない。
ジュゥゥ……と鈍い音を立て、炎の鎖が皮膚を焼いていく。
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「……これで降参、ってわけじゃないだろ?」
大百火足に焦がされるミリラーネを見ながら、セリアは半ば確信をもって言葉を投げかけた。
この程度で終わる相手ではないと、身体が理解している。
「当然だ」
そう答えるミリラーネは、焼かれながらも口元に笑みを浮かべていた。
そして彼女は目を閉じ、深く息を吐く。
「レインフォース――腕!」
詠唱と同時に、足元に淡い光の輪が生まれる。
光はゆらりと立ち上り、流れ込むように両腕へと吸い込まれていった。
――バキンッ!
乾いた破砕音とともに炎の鎖が引きちぎられる。
「精霊術か……!」
セリアは思わず目を見開いた。
目の前の相手もまた、レティシエラと同じ「エルフ」だったことをこの瞬間まで完全に失念していた。
(しかも……レティが使っていたものより、明らかに高度だ)
「いやぁ、楽しいねぇ。
正直、ここらで止めておくのが立場的にも正解なんだが……興奮が止められなくてなぁ!」
ミリラーネがそう叫ぶと、彼女の神器の鉄球に岩が絡みついていく。
みるみるうちに岩塊と化した鉄球は、彼女の両腕の前で浮かび上がった。
――バキバキッ
鈍い破砕音とともに、その岩塊が二つに割れる。
分かれた塊は、それぞれ形を変えながらミリラーネの腕へと纏わりついていく。
続けてバキンッ、と乾いた音。
岩が砕け散り、その内側から銀色に輝く籠手が現れた。
砕けた小岩は落ちることなく、籠手に纏わる形で空中で静止する。
鎖は両の籠手へと繋がれたまま、まるで天衣のようにミリラーネの背後で半円を描き浮遊している。
その鎖の周囲には、拳大から人の頭ほどの大きさまで、大小さまざまな岩塊が衛星のように巡っていた。
「これが、私の神器――ガルバーディンの纏だ」




