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炎神少女は、歪んだ世界に火をつける  作者: ぱぱんむ
第三章 エルフの里編
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第四十九話 エルフの里

《……痕跡は消したな。それでは出発するぞ》


水浴びをした翌朝。

簡単な準備を整えたセリアたちは、再びエルフの里へ向かうため森の奥へと歩み出そうとしていた。


「了解。レティも問題ないか?」


セリアは短く返事をすると、隣に立つレティシエラへ視線を向ける。


「はい。いつでも出発できます」


その答えに、セリアは軽く頷いた。

そして迷いなくエルフの里がある方角へと足を踏み出す。

________________________________________


「はあ、はあ……。セリアさん、ラグルス様。あちらに見えるのが、エルフの里になります」


池を出発してから二日と半日ほど経ち、陽が登り始め、辺りが薄明かりに照らされた頃。

レティシエラの精霊術のおかげもあり、セリアたちは強い魔物や追手に遭遇することなく、ついに目的地を眼前に捉えていた。


「あれが……!」


レティシエラが指し示す方角を見て、セリアは思わず声を漏らす。


森の木々の隙間から覗くエルフの里は、深い森の中にありながらひと目で分かるほどの存在感を放っていた。

おそらく、もともと森の開けていた土地をさらに切り拓き広げたのだろう。


その外周を囲むように、魔物や人間の侵入を防ぐためと思しき岩の城壁が築かれている。

その高さはリレンヌの城壁よりも数メートルは上に思える。


そしてその内側。

数十メートルはあろうかという巨木がいくつもそびえ立ち、その太く伸びた枝の上には複数の木造の家が建っているのが見えた。


《ふむ……。この立地であれば、大群に攻められる心配も少なく精霊の加護も得やすいだろう。良いところに目を付けたようだな、ミリラーネの奴は》


ラグルスが、珍しく感心したように呟く。


「そうですね」


レティシエラは誇らしげに頷いた。


「この里は、以前は人間たちの侵攻を受けていたようですが、地の利と堅牢さ、そしてミリラーネ様のお力もあって被害を最小限に抑えてきたと聞いています」


一度、里を見上げるように視線を向けてから続ける。


「そのため、ここ百年ほどは人間が近づくこともなく、強力な魔物も少ない。比較的、平和を維持できている場所なのです」


「へぇ……」


セリアは感心したように息を漏らす。


「やっぱり凄いんだな。守護者ってのは」


「それはもう!」


レティシエラは、思わず身を乗り出す。

「全てのエルフにとって、ミリラーネ様は英雄であり憧れの存在ですから!」


普段のレティシエラにはない勢いで捲し立てられ、

「そ、そうなんだ……」


セリアは、そう返すのが精一杯だった。


《話は後だ。さっさと里に入るぞ》


「そうだな。中がどうなってるのか気になるし」


「では、向かいましょうか」

________________________________________


「そこの者たち! 止まれ!」


城壁が目前に迫った、そのとき。上方から鋭い声が飛んだ。


「わたくしです! レティシエラが戻ってまいりました!」


レティシエラが、城壁の上を見上げて声を張る。


「……レティシエラ様?」


一瞬の間。やがて、驚きを含んだ声が返ってきた。


「予定では、到着はまだ数日先のはず……。それに、他のお供の方々は?」


言葉が途切れ、視線がセリアへ移る。


「……そこの、見慣れぬ者は?」


一拍。そして、裏返った声が響く。


「ま、まさか――人間!?」


城壁の上が、ざわりと騒めく。

レティシエラはわずかに息を吸い、セリアの前に半歩出るようにして立った。


「皆さん、聞いてください!

 この方――いえ、この方々は、人間などではございません!」


城壁の上の視線が一斉に集まる。


「ミリラーネ様にお伝えください。ラグルス様が、再臨なされたのです!」


その言葉が駆けた瞬間。

里の入口を包んでいた空気がぴたりと凍りついた。


一瞬の沈黙。


そして――


「……ラ、ラグルス様?」


「ま、まさか……あの、伝説の神の名か……?」


「何かの罠ではないのか?」


ざわり、と城壁の上が騒めく。


驚きと困惑、そして僅かな畏怖が入り混じった声が広がっていく。


「……わ、分かりました」


ややあって、上から応える声がした。


「それであれば、直ちにミリラーネ様へ報告を行います。

 暫くの間、そこで待機していて下さい!」


「……効果てきめんだな」


セリアは口の端を上げ、冗談めかして言った。


「なあ、ラグルス様?」


《レティシエラが我の存在を把握していた時点で、この反応は至極当然だろう》


ラグルスは、いつも通り淡々と答える。


(冗談だってのに……)


肩透かしを食らった気分で、セリアは心の中で呟いた。


「お二人とも、お待たせすることになってしまい申し訳ありません」


レティシエラが申し訳なさそうに言う。


「ミリラーネ様に直接来ていただければ、問題なく入れてもらえるはずです」


「レティのせいじゃない。警戒するのは当然だろ。

それよりさ。ミリラーネさんって、どんな人なんだ?」


「ミリラーネ様は――」


レティシエラが、少し身を乗り出して答えかけた、その時。


《ミリラーネは、お前が抱いているエルフの印象とは大きく異なる存在だろう》


ラグルスが静かに言葉を差し挟む。


《……とはいえ。まもなく直接会うことになる。今はわざわざ説明する必要もあるまい》


レティシエラは一瞬だけ口を閉じ、そして小さく頷いた。


「……はい。お会いになれば、すぐに分かると思います」

________________________________________


エルフの里の城門前で待たされること、数刻。


――ゴゴゴ……。


低い音を立てて、城門がゆっくりと開かれた。


その奥から、一人のエルフが歩み出てくる。


近づくにつれて、その姿がはっきりと見えてきた。

女性のエルフ。だが、その体躯はセリアよりも頭一つ分ほど高い。


見た目の年齢は二十代後半くらいで顔立ちは整っているが、その眼光は鋭く研がれており、射抜くような視線を向けている。

白銀の髪は背中の中ほどまで伸びているが、結われることなく自然に垂れており、どこか野生的な気配を帯びていた。


袖のない上衣から覗く腕は、太く引き締まり、一目で鍛え上げられていると分かる筋肉が刻まれている。


(これが――エルフの守護者……)


セリアは、思わず息を呑んだ。

華奢で優美なエルフ像とは、まるで正反対。


そこに立っているだけで、場の空気を塗り替える存在感があった。


(……間違いなく、強い)


そのエルフの女性は、迷いなく歩み寄り、セリアたちの眼前で足を止める。


そして、ふっと表情を緩めて告げる。


「遅いぞ、ラグルス」


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