表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
炎神少女は、歪んだ世界に火をつける  作者: ぱぱんむ
第二章 リレンヌ篇
PR
38/64

第三十七話 弔い

一行は一通り周辺を探索したが、誰かが生き残っている形跡は見当たらなかった。


「……やっぱり、駄目か」


セリアは骨の山の端にしゃがみ込み、布切れを指先でつまんだ。

血と泥で汚れてはいるが、ところどころ縫い目の細かさが残っている。ごく普通の旅人の服だ。


「人間の骨と、獣人の骨が混ざっているようです」


エルフの青年が、表情を固くしたまま低く言う。


「どれも、かなり前に……」


「最近さらわれた人たちの分も、ここで片付けられてるってことッスね」


獣人の青年が奥歯を噛みしめ、拳を握った。


レティシエラは、しばらく黙って骨と布の山を見つめていた。

やがて、目をつぶり両手を胸の前で組む。


「せめて――安らかに」


小さな祈りの言葉を紡ぐと、足元から淡い光が広がり、骨の山と血の跡を優しく包み込んだ。


それは何かを派手に変える力ではない。

ただ、腐臭と血の匂いを少しだけ薄め、虫たちのざわめきを和らげる程度の、ささやかな術だった。


《……弔いか》


(派手さはないけどさ。こういうのが、一番守護者っぽいよな)


セリアは何も言わず、その様子を見守った。


「これ以上、ここでできることはありません」


レティシエラは静かに立ち上がると、一行を振り返る。


「生き残りがいないことも含めて、すべて仲間たちに伝えます」


「……了解ッス」


「戻りましょう。日が暮れる前に」


一行は森を後にし、来た道を辿ってリレンヌへと戻っていった。

________________________________________


隠し通路を抜け、再び拠点の地下室へ戻ってくると、残っていた仲間たちが一斉に顔を上げた。


「お帰りなさい!」


「どうでしたか!」


獣人や龍人たちの視線が、レティシエラへ集中する。


レティシエラは一度皆を見渡し、小さく頷いた。


「背骨狼の群れが原因のようでした。群れの中心は排除しましたので、これ以上、同じルートで行方不明者が出ることはないと思います」

「ですが……残念ながら、生きたまま助けられた方は、いませんでした」


短い報告に、あちこちから息を呑む気配が伝わる。

俯く者、拳を握る者。誰も声を上げて責めたりはしない。

ただ、それぞれの胸の内で悔しさを噛み殺しているのが、セリアにもわかった。


「……でも、ありがたいッス」


先ほどまで一緒にいた獣人の青年が、ぽつりと言った。


「これ以上、あそこで仲間が食われることはないんスから」


「そうですね」


エルフの青年も静かに頷く。


「この街の外を通る者たちにとっても、大きな変化になります」


レティシエラは二人の言葉を聞き、わずかに表情をやわらげた。


「今回の調査と戦闘は、セリアさんの協力があってこそ成し得たものです」


そう言って、改めてセリアのほうへ向き直る。


「改めて、お礼を言わせてください。……本当に、ありがとうございました」


「礼を言われるほどのことはしてないさ。わたしは、殴れるやつを殴っただけだよ」


セリアは頭をかきながら手のひらをひらひらさせた。

その一言に、獣人やエルフたちの視線が少しだけ柔らかくなる。


「でも、今日一日でよくわかったッス」


獣人の青年が、照れくさそうに笑った。


「レティシエラ様が『ミリラーネ様の再来』って言われる理由」


「本当にそうですね」


エルフの青年も続く。


「……もう、その呼び方はやめてくださいと言っているのですが」


レティシエラは困ったように眉を寄せたが、完全に否定しきれていないのが、セリアには少しおかしく見えた。


「ただのレティシエラです。皆さんと同じ、一人のエルフでしかありません」


「でも、頼りにしてるッスよ」


「そんなレティシエラ様だからこそ、ついていこうと思えるのです」


二人が笑うと、周囲の空気も少しだけ和らいだ。


(最初に会ったときは、ちょっと冷たい奴かと思ったけど……)


セリアはその光景を眺めながら、心の中で頷く。


(随分と優しくて、真っ直ぐな奴だったんだな)


レティシエラという存在に対して、使える駒でも利用する相手でもない、別の何かが胸の奥に小さく灯った気がした。


「それで、セリアさん」


レティシエラが改めて近づいてくる。


「ささやかではありますが、今回の護衛と協力への謝礼をお渡ししたいのですが……」


「いや、いらない」


セリアは即座に首を振った。


「今日は、わたしの暇つぶしみたいなもんだし。なんならストレス解消にもなったしさ」


「ですが――」


「どうしてもって言うなら、今度、情報の話をする時にでも、少し多めに聞かせてくれればそれでいいよ」


セリアはそう言って笑う。


「それとも、あんたの里の昔話でも。神様と守護者のやつ、結構面白かったしな」


「……わかりました。その条件なら、喜んで」


レティシエラは一瞬目を瞬かせ、それからふっと細く笑った。


「今度お会いするときまでに、ミリラーネ様や、ラグルス様とイーリア様の話を、もっと思い出しておきます」


「楽しみにしとくよ」


セリアは軽く片手を挙げると、踵を返した。


「じゃ、今日はそろそろ帰るよ。あんまり遅くなると、おばちゃんが心配するからな」


「はい」


レティシエラは深く一礼する。


「本当に、ありがとうございました。気をつけてお帰りください」


背後からの礼の言葉を聞きながら、セリアは地下室を後にした。

階段を上りながら、ふと振り返る。


扉の向こうには、まだレティシエラたちの声が微かに聞こえていた。


《……優秀だな。しかもまだ底を見せてはいまい》


「ははっ、これからも協力していくんだから、ありがたいことだろ?」


《そうだな。あの娘がいれば、この拠点は上手くやるだろう》


セリアはスラムの薄暗さを抜け、陽だまり亭のある通りへ向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ