第二十五話 鏡の中の自分
服屋までの道のりで、門番の男――レインズと世間話をしていた。
外に出たセリアの目に、初めて見る人の街の景色が広がる。
朝の光に照らされた石畳の道。両脇には木造の家々が並び、軒先からは花の鉢や干された布が風に揺れている。
道端では、パンを焼く香ばしい匂いが漂い、商人が馬車を止めて品を並べていた。
子どもたちが走り回り、母親が笑って叱る声が響く。
その何気ない喧騒に、セリアの胸はくすぐったくなる。
「……朝から賑やかなんだな」
「そうですね。この街はリレンヌといって、この辺りでは一番大きいですからね」
レインズは誇らしげに言う。
「とはいえ、この地域自体が田舎ですから。国全体から見れば、普通の規模ですけどね」
「へぇ……」
「なんでも大昔に、何かの封印を見守るために造られた街らしくて、その頃はもっと大きな街だったそうです」
歩きながら話していると、レインズがちらちらとこちらを見てくる。
「なあ、レインズ。わたしの顔に何かついてるか?」
「い、いえっ! すみません!」
なぜか慌てたように顔を赤らめ、視線をそらすレインズ。
「えっと、つ、着きました。こちらが服屋です。それと……これがお金です。少ないですが、この店なら一着は問題なく買えるはずです」
「ありがとう」
疑問に思いながらも、セリアはお金を受け取った。
「僕は外で待っていますので」
「あ、ああ」
(なんなんだ、あの態度……?)
セリアは首をかしげつつ、店に足を踏み入れる。
「いらっしゃいませ~!」
二十代後半くらいの女性が、明るい声で迎えた。
しかし、セリアの服装を見た瞬間、その笑顔がわずかに引きつる。
「あの、服が欲しくて。その、今の格好だと、ちょっと……」
「あ、あぁ~……そ、そうですよね。えっと、こちらにいろいろございますので、見てみてください~」
笑顔は保っているが、声が上ずっている。
セリアは苦笑しながら店内を見回した。
「えっと、これと……これがいいかな」
セリアが選んだのは、腹部が露出する半袖の上着と、脚を大きく見せるホットパンツだった。
「え~と、だいぶ露出が多くなってしまいますが……大丈夫ですか?」
店員は困惑気味に尋ねる。
「ああ、問題ない。なるべく布の面積が少ないほうが落ち着くんだ」
「そ、そうなんですね~……」
「では、あちらが試着室となります~」
今度はやや引き気味に答える店員。
「ここだな」
セリアは試着室に入り、カーテンを閉めた。
中には大きな姿見が立てられている。
セリアは鏡の前に立った。
そこに映るのは、見慣れぬ「自分」だった。
紅の髪が、淡い光を受けてゆるやかに揺れている。
瞳は透き通る金色。肌は白く、かすかな艶があった。
鏡に映るのは、十八歳ほどの完璧に整った顔立ちの少女。
若々しさを残しながらも、鍛え上げられた身体の線はしなやかで、呼吸のたびに腹筋の淡い影が波打つ。
(これが、わたし……?)
そっと指先で頬をなぞる。
冷たい鏡越しの感触が、現実を伝えてくる。
《見惚れるな》
「うるさい。……でも、相棒。これはちょっと気合い入れすぎじゃないか?」
《当たり前だ。最高の肉体を創り上げるうえで、妥協などしない》
「いや、でも美人すぎるだろ」
《我の最高傑作にふさわしいだろう》
ラグルスは誇らしげに言う。
(……見た目に気合い入れる必要あったか?ていうか、さっきのレインズの態度って、これか)
セリアは苦笑し、鏡に映る自分へ軽く頷く。
「よし」
服の感触を確かめながら、試着室のカーテンを開けた。
「どうだ?動きやすいし、涼しいし、悪くないな」
「すごくお似合いです……!」
「ありがと。じゃあ、これにする」
「は、はいっ!」
店員は妙に張り詰めた声で返事をした。
支払いを終え、セリアは外へ出る。
「お待たせ」
その声に振り向いたレインズが固まった。
「……っ、えっ?」
目をぱちぱちと瞬かせ、視線を彷徨わせながら、
何か言おうとして、結局声にならない。
「どうした? そんな変か?」
「い、いえっ! あの、なんというか……その、すごく……」
「すごく?」
「……健康的だと思います!」
「健康的……?」
(なんだそれ……)
《一応は褒め言葉だろう》
小声で突っ込む冷静なラグルスに、セリアは軽くため息をついた。
「ま、動きやすいし、それで十分だろ」
そう言ってセリアは街の方へ歩き出した。




