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第十七話 ネスヴィラ戦

――ガギィィン!!


セリアの剣槍とネスヴィラの大剣が激突し、金属が裂けるような音が洞窟全体を震わせた。

火花が弾け、衝撃波が岩肌をえぐる。

数度の攻防の末、両者は同時に距離を取る。

熱気と瘴気が入り混じり、空気が焼けるように歪んだ。


火磨鼬カマイタチ!」


セリアの周囲に十本の炎の剣が浮かび上がる。

それぞれが異なる形を取り、彼女の意志に応じて軌道を描くように宙を舞う。


次の瞬間、それらは意思を持つかのように一斉にネスヴィラへと襲いかかった。

対するネスヴィラは無言のまま、大剣に紫のオーラを纏わせる。


一閃。


放たれた剣圧が音を置き去りにし、数本の火磨鼬が一瞬で霧散する。


(……今!)

ネスヴィラの視線が一瞬逸れた、その隙を逃さず、セリアは投擲の構えをとる。


「はあああっ!!」


紅蓮の奔流を纏った炎の矢が轟音とともにネスヴィラへと一気に迫る。


――ズドォォオン!!


ネスヴィラは右手で大剣を振り抜き、火磨鼬を払いながら、左腕でその一撃を受け止めた。

紅蓮の矢が直撃し、左肩から胸元までを焼き裂く。

だが、クライゲラクはそこで止まる。


「……くそっ!」


セリアは瞬時にクライゲラクを自分の中に戻し、再び呼び出す。

そのわずかな間に、ネスヴィラの左腕は黒鉄の鎧ごと再生していく。

灼けた金属が音を立てて再び形を取り、傷口を覆う。


「ちっ、厄介だな!」


ネスヴィラが無言で大剣を構え、振り抜く。

刃を包む紫のオーラが脈動し、放たれた。


――ガギィン!


セリアは咄嗟に剣槍の柄でそれを受け止める。

だが衝撃の重さに押し負け、数メートル後方へと吹き飛ばされた。


「くそっ!」


《まだ来るぞ!》


顔を上げた瞬間、紫の軌跡がいくつも視界を裂いた。


「……っ!」


クライゲラクで斬撃を切り払うが、すべては捌ききれない。

一つの斬撃が右足に直撃、不知火が火花を散らす。


(なんとか防げた……!)


《過信するな。その不知火は長くは持たんぞ》


「わかってる。……あと、どれくらい持つ?」


《三分程だ》


「それだけあれば十分!」


セリアは歯を食いしばり、炎の揺らめきに力を込めた。

不知火の持続時間は、修行の果てにようやくこの領域にまで延びていた。


ネスヴィラが一歩、また一歩と距離を詰める。

紫の残光を引きずりながら、その巨体が一気に跳んだ。


――ガギィン! ガギィン!


大剣と剣槍が何度も衝突し、火花と熱風が洞窟を焼く。

セリアは受け流しながら後退し、岩肌に足を滑らせた瞬間――膝が折れた。


「っ……!」


《奴の武器は体力を奪ってくるようだ。長期戦は避けろ》


「そうみたいだな……。――アレで一気に決める!」


力の抜けた足に気合を叩き込み、セリアは大きく後方へ跳ぶ。

空中で炎を集中させ、両掌から放つ。


――ゴォォン!!


爆ぜた炎が奔流となり、ネスヴィラを呑み込む。

しかし、それはただの火炎ではない。

火柱が絡み合い、巨大な炎の鎖へと変わってネスヴィラの身体を縛りつけた。


「ラグルス! 頼む!」


《十秒が限度だぞ》


ラグルスの声と同時に、炎の鎖――大百火足オオムカデが淡く光を帯び強度が上がる。


ネスヴィラが拘束を解こうと暴れるたび、鎖が軋み、光の火花を散らす。

だが、振りほどけない。


「はあああああ!!」


セリアはクライゲラクを掲げ、頭上に炎を創り出す。


膨張を始めた火球は瞬く間に直径十数メートル。圧倒的な質量を感じる、紅蓮の太陽だった。


その火球の形成と同時に、ネスヴィラが大百火足を引き裂き、紫の瘴気を爆発させる。

その身の周囲に、暗紫のオーラが渦を巻き、彼の大剣がその力を吸い上げるように形を変えた。


ネスヴィラの背丈の三倍を超える、巨大なオーラの剣。


巨剣と太陽が激突するかに思えた、その瞬間――セリアが低く呟いた。


「奥義――」


その声とともに、頭上の火球がゆっくりと縮み始める。

ただ燃え尽きていくようにも見えたが、火球の中心では渦を巻く炎が一本の線となりクライゲラクの刃へと流れ込んでいた。

火球が小さくなるたびに、刃が赤白に輝きを増していく。

空気が焦げ、岩壁が焼け、熱が空間を歪ませる。


「――『火之迦具土ヒノカグツチ』」


名を告げた瞬間、炎の奔流が刃へと収束し、洞窟全体が一瞬で白光に包まれる。

クライゲラクの刃は灼けた太陽のように輝き、触れずとも岩壁を焦がし、黒く溶かしていく。


ネスヴィラが踏み込む。

紫の巨剣が振り下ろされ、轟音が地を裂いた。


セリアはその一撃に正面からクライゲラクを突き出す。


――ズゥン……ッ!!


光と闇がぶつかり合い、空間が押し潰されるように歪む。


一瞬の拮抗。


だが次の瞬間――


オーラの剣が、クライゲラクの刃に触れた箇所から音もなく崩れ始めた。


「うおおおお!!」


灼熱の刃がネスヴィラの大剣を溶かし、金属が流体のように形を失っていく。


「アアアアアア!!」


初めて、ネスヴィラが声を上げた。


その胸を、火之迦具土の刃が貫いた。


――ヌボッ。


高熱に焼けた肉が溶け、粘る音が洞窟に響く。

クライゲラクの熱が体内を駆け抜け、空いた胸孔から赤い光が漏れ、ネスヴィラの身体が内側から溶け崩れていく。


「ガアアアアアアアア!!」

苦痛とも断末魔ともつかぬ叫びが轟き、洞窟全体が震えた。


ネスヴィラの身体が崩れ落ちていく。

黒鉄の鎧は溶け、滴る金属が岩盤に落ちては音を立てた。

やがて、その姿はゆっくりと、炎に呑まれるように消えていった。


――静寂。


熱の名残だけが残り、空気が微かに揺らめいている。

セリアは膝をつき、深く息を吐いた。


不知火の炎が弱まり、衣の形を保てなくなっていく。

彼女の肌に触れる空気は、焼けた石の匂いと血の鉄味が混ざっていた。


《……終わったな》


「……あぁ」


長い修行の果て、百年越しの決着。

あれほどの圧を誇った迷宮の支配者が、今は跡形もない。

刃にまとっていた赤白の輝きが静かに消えていく。

セリアはゆっくり立ち上がり、クライゲラクを地面に突き立てた。


「でも、ちょっと拍子抜けだったな!これならもう少し早く勝てた気がするね」


《調子に乗るな。……だが、それだけお前が強くなったということだ》


セリアは笑いながら肩を回し、洞窟の奥を見やる。


「さて、次は――ウィアードの封印か」



その瞬間。


「……!!?」


空気が、変わった。


洞窟の岩肌が細かく鳴動する。


一瞬の沈黙ののち、背後から再びあの気配。

セリアは本能的に振り向く。


そこに立っていたのは。

――さきほど、焼き尽くしたはずのネスヴィラだった。


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