第十五話 外の世界
不知火の完成から、数ヶ月が過ぎた。
セリアはその性能を確かめるため、迷宮の奥で強敵との戦闘を続けていた。
倒した魔物の肉を火の上で炙り、骨の串をくるくると回しながらいつものように雑談をする。
《その不知火、持続時間が短いな》
「そうなんだよな。今のとこ持って一分かな。そのあとはしばらく上手く使えないし、ピンチの時にしか使えないな」
《今後の課題の一つといえるな。ネスヴィラ戦では一分以上の戦闘は確実だろう》
セリアは串をくわえたまま、焔の先を見つめる。火花がひとつ弾け、天井の影が揺れた。
多くの強敵に勝ち続け余裕が出てきた頃。ふと、心の隅に浮かんだ疑問をそのまま口にする。
「なぁ……外の世界って、どうなってるんだろうな」
《我が封印されてから千八百年近くが経過している。……正直、正確なところは不明だ》
「……千八百年経ってたらさ。ウィアード、生きてると思うか?」
《結論から言うと不明だ。だが、我の力を持っている以上、その年月を生きることは可能である。そして、我の力が失われた場合、我はそのことに気づくことができる。ゆえに、ウィアードは生きていると考えるのが妥当だ》
《……とはいえ、奴は気まぐれなところがある。確実なことは言えんな》
「そっか……。じゃあ、生きてるとしてさ。この迷宮から出た瞬間に待ち伏せされたりしないのか?」
《そうだな……。その可能性はあり得るだろう。しかし、いずれにせよこの迷宮から脱出する以外の選択肢はない。この千八百年の年月が、奴の警戒を解いてくれることに期待するほかないだろう》
セリアは笑いながら肩をすくめる。
「なんだよ、相棒にしては随分行き当たりばったりだな。まあでも、待ち伏せされててもそこで決着を付ければいい話か!」
《極論、そういうことだ》
「……もう一つ、気になってることがあってさ」
《何だ》
「ラグルスが元々いた神界ってあるだろ?そこの神々ってどうしてるんだ?ラグルスとイーリアがこんなことになって、何もしないのか?」
《……推測にはなるが、今も見ているだけだろう。神界が動くとなれば我にもそれは感知できるはずだからな》
「見てるだけ、ね」
《神とは、均衡を守る存在だ。我とイーリアによってアルマルドは均衡を得た。神界としてはそれで十分というわけだ。その後の騒動程度では手を出すことはない。神が派遣先の世界で死ぬことは、特に珍しい話ではないのでな》
「なんか、随分あっさりしてるんだな。仲間がやられても見てるだけなんて」
セリアは少しだけ眉をひそめ、火に焼けた肉を噛みちぎった。
《……そうだな。だが、無数にある世界のただ一つに構っているほど、余裕があるわけでもない》
「じゃあ神界の他の神たちは、手を出してこないってことなんだな」
《奴――ウィアードが派手に暴れない限りは、な》
火の粉がぱちりと弾け、二人の間に短い沈黙が落ちた。
《……だが、奴も神界の介入は避けたいところだろう。どのような世界となっているかは、出てみないことには分からぬが――少なくとも、世界が壊滅しているということはないだろうな》
「それじゃあこの千年以上は、ウィアードは上手くこの世界を運営してきたってことなんだな……。なんか癪だけど」
《まぁ奴のことだ。そのまま大人しくしているわけではないだろう。少なくとも我が創った種族たちに対しては、何かしらの行動を起こしているはずだ》
「……ウィアードからすると、外来種って奴だもんな」
《……》
炎が小さく揺らめき、赤い光がセリアの横顔を照らした。
彼女は炎の奥を見つめたまま、静かに呟く。
「外の世界、どうなってるんだろうな……」




