第九話 決意の炎
――光が収束し、焼きついた景色が闇の中に砕け散る。
視界が戻ったとき、セリアは膝をついていた。湿った岩壁、ひんやりとした空気。そこは、いつもの洞窟。
だがセリアの心は、今も炎に焼かれているかのようだった。
「これが、あんたの復讐……?」
声は震え、喉の奥に熱いものがこみ上げる。涙なのか怒りなのか、自分でも判然としない。だが、吐き出さずにはいられなかった。
村ができていく光景も、イーリアの笑い声も、あの血の色も――全部、自分のもののように胸の中にある。
《そうだ》
ラグルスの声は、いつもと何も変わらなかった。
「そうだ、って……なんだよ今の! あんたの気持ちが、まるで自分で体験したみたいに……!」
セリアは抑えきれずに叫んだ。胸の奥に混ざり合う熱と痛みは、追体験の余韻がまだ抜け切らない証だった。
《そういう術だ。我の復讐を語る上で、避けて通れぬ。力が戻らぬ間は使えなかったがな》
「いや! そういうことじゃなくて! ……あんたは今、なんともないのかよ!」
魂を揺さぶられたセリアと違い、ラグルスは揺らがない。いつも通りの冷静さを崩さない。
《なんともなく……見えるか。便利だな、魂だけというのは。あの日から千七百年――一時たりとも忘れたことはない》
淡々とした声色。だがその声の底には、触れてはいけないものがあるようにセリアは感じた。
《我は千年以上、お前を探し続けた。……それが答えだ》
「……ごめん。悪かったよ。でも……わたしも、気持ちがぐちゃぐちゃで、どうしたらいいかわかんないんだ……」
セリアの声が掠れる。心は焼け爛れたまま、まだ形を取り戻せない。
《当然だ。我の執念を、この一瞬で受け止められると思うのか》
「……そう、だな」
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暫くの沈黙ののち、セリアは拳を強く握り、膝の震えを叩きつけるように立ち上がった。
「……正直、まだ全部は飲み込めてない。あんたの痛みを、全部わかったなんて言えない。
でも……あいつは、ウィアードは許せない。あんたたちが守ったものを、あんなふうに踏みにじったのを見て、何も思わないなんて無理だ」
「だから、やる。わたしもあんたの復讐に付き合うよ」
《……我としては狙い通りだが、よいのか? 立ち上がるということは、また死線を潜るということだぞ》
「……正直、まだ怖いさ。でも決めたんだ。強くなるって」
セリアの瞳は炎のように力強く燃えていた。
「もう、なんとなく外に出たいから戦うんじゃない。あんたたちが救ったアルマルドが、今どうなってるのか自分の目で見たいんだ。そしてなにより――ウィアードの野郎に直接会わないと気がすまない!」
ラグルスの気配が、僅かに笑みに揺れる。
《良いだろう。では、岩巨人に挑むぞ。勝つまでな》
「あぁ、上等だ!」
炎が再びセリアの背を包む。決意は揺るがず、彼女は前を向いていた。
「……そういや、わたしの名前って、イーリアからとった?」
《無駄口を叩くな》
不意に口にした問いに対し、ラグルスは一拍も置かずに答えた。
あからさまに話題を逸らす声に、セリアは小さく笑う。
恐怖はある。だがもう心は折れていない。
《……立ち直ったようでなによりだが、
……ここまで我の思惑通りだとかえって不安であるがな》
「うるさい! あんただって、わたしがいなきゃ外に出られないくせに!」
《減らず口だけは一人前だな。ならば実力で示してみせろ》
「望むところだ!」
セリアは、また岩巨人に挑むべく歩き出した。




