第8話 干渉者の反撃と、覚醒する力
『余計なことをしたな』
画面に浮かんだ一行の文字。
その瞬間――
空気が変わった。
「……来たな」
黒瀬悠真は、スマホを見つめたまま呟く。
ノイズが走る。
チャートが、歪む。
(……圧が違う)
今まで感じたことのないレベル。
ただの大口じゃない。
これは――
「……上位存在か」
確信に変わる。
次の瞬間。
価格が、暴れた。
上下に激しく振れる。
通常ではありえない動き。
完全に“壊されている”。
「……やってくるか」
黒瀬は、冷静に画面を操作する。
逃げる?
違う。
(迎え撃つ)
ロングでもショートでもない。
一旦、全てのポジションを切る。
静観。
「……まずは、見る」
動きの癖。
介入のタイミング。
資金の流れ。
すべてを、観察する。
(……雑じゃない)
むしろ、精密すぎる。
狙いは一つ。
“潰すこと”。
「……俺を、か」
小さく笑う。
いい。
それでいい。
そのとき――
《危険:資産減少を検知》
「……?」
自分の資産。
何もしていないのに、減っている。
「……は?」
ありえない。
ポジションは持っていない。
なのに――
「……直接削ってきてるのか」
理解する。
これは市場じゃない。
“システムへの干渉”。
(……やべぇな)
一気に状況が変わる。
だが――
「……面白い」
恐怖よりも、興奮が勝つ。
そのとき。
《対抗手段を提案》
「……?」
画面が切り替わる。
《防御系職業の解放条件を満たしています》
新たな選択肢が現れる。
・リスク管理者 Lv1
・システム監視者 Lv1
「……なるほど」
今までは攻め。
だが、これは――守り。
(ここで選択か)
一瞬だけ考える。
だが、すぐに決まる。
「……監視だな」
相手の動きを読む。
それが最優先。
タップ。
《転職しますか?》
YES。
《転職中……》
《転職完了》
《現在の職業:システム監視者 Lv1》
その瞬間――
「……っ!」
世界が、変わる。
今まで“見えなかったもの”が見える。
コードのようなもの。
流れ。
干渉。
すべてが、可視化される。
「……これが……」
システムの裏側。
そして――
「……いた」
見つけた。
黒い“線”。
自分の資産に繋がっている。
「……これが、お前か」
指を動かす。
その線に、干渉。
次の瞬間――
ブツン、と切れた。
《資産減少を停止しました》
「……通ったな」
静かに呟く。
だが、終わりじゃない。
その直後。
《警告:強制アクセス》
「……!」
さらに強い干渉。
画面が、一瞬で暗転する。
そして――
新たな表示。
《接続:上位領域》
「……は?」
次の瞬間。
視界が、完全に変わる。
そこは――
真っ黒な空間。
無数の光が、線で繋がっている。
「……なんだ、ここ……」
直感で分かる。
ここが――
(……上の世界か)
システムの“本体に近い場所”。
その中心。
一つの強い光。
そこから、無数の線が伸びている。
「……お前か」
黒瀬は、睨む。
そのとき――
声が響いた。
『……面白い』
直接、頭の中に。
低く、重い声。
『ここまで来るとは思わなかった』
「……」
黒瀬は、何も言わない。
ただ、見返す。
『だが』
光が、強くなる。
圧が増す。
『ここから先は、許可されていない』
その瞬間。
空間が、歪む。
押し出されるような感覚。
「……チッ」
舌打ち。
そして――
現実に戻る。
部屋。
スマホ。
すべてが元に戻っている。
「……逃げられたか」
いや、違う。
(追い出された)
あの領域は、まだ届かない。
だが――
「……場所は分かった」
それで十分だ。
スマホを見る。
《新情報を取得しました》
《上位領域へのアクセス条件が更新されました》
「……いいね」
口元が歪む。
敵は、強い。
だが――
届かないわけじゃない。
黒瀬悠真は、静かに呟く。
「次は、落とす」
その目には、確かな自信があった。
戦いは、さらに上のステージへ。
――ここからが、本番だ。




