第7話 新たな職業と、初めての“狩り”
「……上位職業、か」
黒瀬悠真は、スマホの画面を見つめながら呟いた。
雨宮との会話。
“上位存在”。
そして――淘汰。
頭の中で、何度も反芻される。
(……遊びじゃない)
はっきりした。
これは金稼ぎではない。
生き残りのための戦いだ。
「……なら」
画面を操作する。
《職業一覧》
今までとは違う表示。
増えている。
・資産運用者 Lv5(現在)
・戦略投資家 Lv1(NEW)
・情報解析者 Lv1(NEW)
・企業交渉者 Lv1(NEW)
「……増えすぎだろ」
思わず苦笑する。
だが、そのどれもが“上位”だと直感できる。
一つ一つ、確認する。
【戦略投資家 Lv1】
スキル:大口追従
補正:資金効率+40%、市場影響力+小
【情報解析者 Lv1】
スキル:情報抽出
補正:隠匿情報の発見率+30%
【企業交渉者 Lv1】
スキル:契約優位
補正:交渉成功率+25%
「……全部強いな」
だが、選ぶ必要がある。
(今必要なのは……)
思考する。
敵は、上位存在。
その配下の企業。
なら――
「……情報だな」
即決だった。
敵を知る。
構造を知る。
そこから全てが始まる。
タップ。
《転職しますか?》
YES。
《転職中……》
《転職完了》
《現在の職業:情報解析者 Lv1》
その瞬間――
「……っ!」
視界が、変わる。
今度は“情報”だ。
人の会話。
ネットの断片。
公開されていないデータ。
それらが、繋がる。
「……見える」
断片が、線になる。
バラバラだった情報が、意味を持つ。
「……あの会社……」
自分を切り捨てた企業。
その内部構造。
資金の流れ。
関係者。
すべてが浮かび上がる。
「……やっぱりな」
ただの会社じゃない。
複数の企業を経由した、複雑な資金ルート。
その先にあるのは――
(……でかいな)
一つの巨大なグループ。
名前は出てこない。
だが、確実に存在する。
そのとき――
《ターゲットを検出》
「……?」
画面に、新たな表示。
《対象:個人投資家(Lv1)》
《状態:資産流出中》
「……資産流出?」
詳細を開く。
すると――
「……は?」
明らかに不自然な取引履歴。
誰かが、意図的に資産を削っている。
誘導。
搾取。
(……これ)
第3話で見た動きと同じだ。
「……狩られてるのか」
小さく呟く。
そして、理解する。
これが、この世界の“現実”。
強い者が、弱い者から奪う。
「……なら」
少しだけ考える。
このまま見過ごすか。
それとも――
「……使うか」
決断は早かった。
《対象に介入しますか?》
YES。
その瞬間。
視界が切り替わる。
ターゲットの取引画面。
動きが、より鮮明に見える。
「……こいつか」
背後にいる存在。
大口。
意図的に価格を動かし、個人を追い込む。
「……潰す」
黒瀬の目が、細くなる。
ロング。
逆張り。
通常ならありえない選択。
だが――
(今なら読める)
その裏側。
その“仕掛け”ごと。
「……ここで動くなよ」
小さく呟く。
そして――
発動。
次の瞬間。
流れが変わる。
大口の動きが、一瞬だけ止まる。
「……通った」
その隙を突く。
一気に資金を流し込む。
市場が、反応する。
価格が反転。
「……いける」
さらに押し込む。
周囲のトレーダーも、動き始める。
流れが、変わる。
完全に。
「……終わりだな」
最後に、利確。
その瞬間。
大口が、撤退した。
(逃げたか)
画面を見る。
ターゲットの資産。
減少が止まっている。
むしろ――
「……増えてるな」
結果的に、救った形になった。
だが――
「……そんなのはどうでもいい」
目的は、別だ。
(通用する)
それが分かった。
上位の領域に、干渉できる。
「……面白い」
口元が歪む。
そのとき――
《警告:干渉を検知されました》
「……来るか」
背筋が、ゾクッとする。
次の瞬間。
スマホの画面が、ノイズに覆われる。
《UNKNOWNアクセス》
そして――
一行の文字。
『余計なことをしたな』
「……」
黒瀬は、笑った。
「……やっとか」
逃げる気はない。
むしろ――
「……来いよ」
その目には、明確な意思があった。
これは、宣戦布告だ。
黒瀬悠真は、静かに呟く。
「こっちは、もう準備できてる」
その言葉と同時に。
新たな戦いが、始まった。




