第3話 デイトレーダーと、桁違いの世界
「……次はこれだな」
黒瀬悠真は、スマホに表示された職業一覧を見つめていた。
転売で数万円。
確かに大きい。
だが――
(このままじゃ遅い)
目指すのは、復讐。
会社を潰すレベルの資金。
そのためには、この程度では足りない。
視線が止まる。
【デイトレーダー Lv1】
「……一気にいくか」
タップ。
《転職しますか?》
YES。
《転職中……》
《転職完了》
《現在の職業:デイトレーダー Lv1》
その瞬間――
「……っ!」
頭の奥に、何かが流れ込む。
数字。
チャート。
注文の流れ。
今まで“ただの線”だったものが、意味を持ち始める。
「……見える」
思わず呟いた。
値動きの先。
わずかなズレ。
人の心理。
それらが、繋がる。
(これ……)
すぐにアプリを開く。
仮想通貨のチャート。
いつも見ていたはずなのに、まるで別物だ。
「……ここだな」
あるポイントで指が止まる。
確信。
このあと、上がる。
理由は説明できない。
だが、“分かる”。
「……いくぞ」
残っている資金。
転売で増やした分も含め、全てを突っ込む。
ロング。
一瞬、躊躇がよぎる。
だが――
(どうせやるなら、全部賭ける)
確定。
ポジションが建つ。
心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
そして――
数秒後。
「……来た」
チャートが、動く。
上昇。
一気にではない。
だが、確実に。
「……まだだ」
冷静に見る。
ここで利確すれば、小さな利益。
だが――
(もっと伸びる)
その“先”が見えている。
握る。
さらに上昇。
含み益が、増えていく。
数千円。
数万円。
「……は?」
桁が変わる。
さっきまでとは、違う世界。
「……すげぇ……」
思わず声が漏れる。
だが、油断はできない。
「……ここだ」
あるラインで、指を動かす。
利確。
ポジションを閉じる。
次の瞬間。
チャートが、反転した。
「……危ねぇ」
鳥肌が立つ。
もし、あと数秒遅れていたら。
利益は消えていた。
「……マジかよ」
画面に表示された数字を見る。
利益――十数万円。
「……一回で?」
信じられない。
たった一回のトレード。
それだけで、これだけの金額。
(これが……デイトレーダー)
呼吸が荒くなる。
だが、止まらない。
「……もう一回」
次のポイント。
次のチャンス。
同じように“見える”。
ロング。
ショート。
完璧に決まる。
外れない。
まるで、未来をなぞっているかのように。
そして――
数時間後。
「……はは……」
力が抜ける。
ベッドに倒れ込みながら、スマホを見る。
表示された残高。
「……これ……」
数十万円。
いや――
「……一日で、ここまで……」
笑いが込み上げてくる。
普通じゃない。
完全に、異常だ。
(これなら……)
会社。
黒幕。
全部――
「潰せる」
その確信が、初めて現実味を帯びた。
《経験値を獲得しました》
《デイトレーダー Lv1 → Lv3》
「……2つ上がるのかよ」
思わず笑う。
そのとき――
ふと、違和感を覚えた。
チャートの一部。
ほんのわずか。
「……?」
動きが、ズレている。
今までのような“自然な流れ”じゃない。
(なんだ……これ)
目を細める。
その瞬間――
一気に大きな売りが入る。
ドン、と価格が落ちる。
「……!」
読めなかった。
初めてだ。
(いや……違う)
これは――
「……誰かが、動かしてる?」
背筋が冷たくなる。
その可能性が、頭をよぎる。
自分以外にも、この領域にいる存在。
「……まさか」
だが、否定できない。
むしろ――
(いる……)
確信に変わる。
この世界には、自分だけじゃない。
同じように“見えている”やつがいる。
黒瀬悠真は、スマホを握りしめた。
「……面白くなってきたな」
口元が、わずかに歪む。
ただの金稼ぎじゃない。
これは――
もっと大きな戦いだ。




