第12話 現実での衝突と、職業の力
「試させてもらう」
男の一言。
その瞬間――空気が変わった。
「……来るか」
黒瀬悠真は、スマホを握りしめる。
相手はただの人間じゃない。
(同じ側……いや、それ以上か)
直感が告げている。
次の瞬間。
男が動いた。
一歩。
それだけなのに、距離が一気に詰まる。
「……っ!」
反応が遅れる。
だが――
「……読む」
即座に職業を切り替える。
《職業変更》
【情報解析者 Lv3】
視界が変わる。
動きの“予測線”が見える。
「……そこだ」
身体をわずかにずらす。
ギリギリで回避。
風が頬をかすめる。
「へぇ……」
男が、少し驚いたように笑う。
「見えてるのか」
「……まあな」
黒瀬は、距離を取る。
まだ余裕はない。
だが――
(通用する)
それが分かった。
「なら……次だ」
男の雰囲気が変わる。
さらに重く。
さらに速く。
「……っ!」
また来る。
だが、今度は違う。
「……ここ」
タイミングを読む。
そして――
「止める」
《職業変更》
【企業交渉者 Lv1】
言葉を叩き込む。
「そこまでだ」
その一言。
だが――
男の動きが、一瞬だけ止まった。
「……は?」
明らかに、反応が遅れる。
「今だ」
その隙を逃さない。
《職業変更》
【資産運用者 Lv5】
「……流れを奪う」
手のひらを軽く開く。
見えない“流れ”。
それを、自分側に引き寄せる。
男のバランスが崩れる。
「……っ!?」
初めて、表情が変わった。
「……なるほどな」
男が、小さく笑う。
だが、次の瞬間。
「甘い」
一気に踏み込んでくる。
速度が違う。
「……!」
間に合わない。
そのとき――
《危険検知》
即座に切り替え。
《職業変更》
【システム監視者 Lv1】
視界に、線が見える。
相手の“干渉”。
そのルート。
「……これか!」
手を振る。
線を断つ。
男の動きが、わずかに鈍る。
その隙に、距離を取る。
「……やるな」
男が、息を吐く。
「ここまで対応してくるとは思わなかった」
「……そっちもな」
黒瀬も、軽く息を整える。
まだ余裕はない。
だが――
(勝てないわけじゃない)
そのとき。
男が、ふっと笑った。
「今日はここまでだな」
「……は?」
一瞬、警戒が走る。
だが、男はもう構えていない。
「試すって言っただろ」
軽く肩をすくめる。
「合格だ」
「……何がだ」
「お前が、“戦える側かどうか”」
そう言って、背を向ける。
「……待て」
黒瀬が呼び止める。
「お前、何者だ」
男は、足を止めた。
少しだけ振り返る。
「名前は……どうでもいい」
そして、軽く笑った。
「だが、一応言っておくか」
一瞬の間。
「“執行者”だ」
「……執行者?」
「ルールを守らないやつを、消す役目」
その言葉に、背筋が冷える。
「……じゃあ俺は」
「今のところは、対象外だ」
あっさりと答える。
「だが――」
視線が、鋭くなる。
「調子に乗るなよ」
その一言を残し、男は去っていった。
「……」
静寂。
黒瀬は、その場に立ち尽くす。
(……執行者)
新しい存在。
新しい役割。
この世界は、想像以上に広い。
「……面白い」
小さく笑う。
恐怖はある。
だが、それ以上に――
「……燃えるな」
スマホを見る。
《戦闘経験を獲得しました》
《複数職業の同時運用精度が向上》
「……強くなってるな」
確実に。
一歩ずつ。
上へ。
そのとき。
ビルの上を見上げる。
「……で」
誰もいないはずの場所。
だが――
「見てるんだろ」
小さく呟く。
風が吹く。
答えはない。
だが、分かっている。
(……次は、お前だ)
黒瀬悠真は、静かに笑った。
戦いは、もう始まっている。
しかも――
想像以上のスケールで。




