第11話 組織の力と、最初の案件
「……じゃあ、これを任せる」
黒瀬悠真は、資料をテーブルに置いた。
向かいに座る佐伯美咲が、それを手に取る。
「……これって」
目を通しながら、表情が変わる。
驚き。
そして、少しの緊張。
「企業の資金フロー……ですか?」
「そうだ」
黒瀬は頷く。
「ある会社の金の流れを追う」
「……調査、ですか」
「簡単に言えばな」
だが、内容は簡単じゃない。
対象は中規模企業。
だが、その裏には――
(繋がってる可能性が高い)
自分を潰した会社。
その周辺。
同じ資金ルート。
「……できるか?」
短く問う。
試す意味もある。
だが――
「……やります」
迷いはなかった。
その目は、もう“前職のときのまま”じゃない。
「いいな」
黒瀬は小さく笑う。
「やり方は任せる」
「……はい」
佐伯は頷く。
そのまま、すぐに動き始めた。
ノートPCを開く。
資料を整理する。
手が止まらない。
(……早いな)
無駄がない。
迷いもない。
やはり、能力はある。
ただ、環境がなかっただけだ。
「……いい感じだな」
小さく呟く。
そのとき――
《組織補正が発動》
「……?」
スマホに表示。
《メンバーの作業効率+25%》
《情報精度向上+15%》
「……なるほど」
組織運営者の効果。
個人じゃない。
“全体”で強くなる。
(これなら……)
さらに上を狙える。
◇
数時間後。
「……黒瀬さん」
佐伯が、声をかけてきた。
「出ました」
「……早いな」
画面を見る。
そこには――
「……やっぱりか」
予想通りの構造。
複数の企業を経由した資金移動。
その先。
(……ここだな)
一つの企業に集まっている。
名前は――
「……伏せてるな」
直接は出てこない。
だが、分かる。
「……この流れ、かなり不自然です」
佐伯が言う。
「通常の取引じゃない」
「だろうな」
黒瀬は頷く。
これは――
(資金洗浄)
そして。
「……繋がってるな」
自分をハメた会社。
その裏の流れ。
確実に、同じルート上にある。
「……ここ、深掘りできますか」
佐伯が聞く。
「できる」
即答。
だが――
「ただし」
少しだけ、目を細める。
「危ない」
「……」
一瞬、沈黙。
だが、佐伯は視線を逸らさなかった。
「……やります」
その答えに、迷いはなかった。
「……いいな」
黒瀬は、静かに頷く。
その瞬間。
《組織信頼度が上昇》
「……そういうのもあるのか」
思わず笑う。
だが、悪くない。
「じゃあ、次は俺がやる」
黒瀬は立ち上がる。
「え?」
佐伯が驚く。
「どこに……?」
「現場だ」
短く答える。
ここから先は、画面だけじゃ足りない。
(直接、触る)
それが必要だ。
◇
夜。
黒瀬は、一つのビルの前に立っていた。
例の企業。
表向きは、普通の会社。
だが――
(中は違う)
スマホを見る。
《情報解析者 Lv1 → Lv3》
「……上がってるな」
準備は整っている。
「……行くか」
一歩、踏み出す。
その瞬間――
「……来たな」
背後から声。
振り返る。
そこには、一人の男が立っていた。
スーツ姿。
見覚えはない。
だが――
(普通じゃない)
すぐに分かる。
「……誰だ」
低く問う。
男は、軽く笑った。
「通行人、ってわけにはいかないよな」
余裕のある態度。
だが、その目は鋭い。
「……ここに来るってことは」
一歩、近づく。
「分かってるんだろ?」
「……」
黒瀬は、何も言わない。
ただ、見返す。
男は、少しだけ楽しそうに笑った。
「ならいい」
ポケットに手を入れる。
そして――
「試させてもらう」
空気が、変わる。
圧。
明らかに、普通じゃない。
(……来るか)
黒瀬は、スマホを握りしめた。
これは――
初めての“現実での戦い”。
その目が、鋭くなる。
「……上等だ」
静かに呟く。
次の瞬間。
戦いが、始まった。




