第10話 最初の仲間と、組織の芽
「……拠点はできた」
黒瀬悠真は、事務所の中央で呟いた。
机一つ。
椅子一つ。
まだ何もない空間。
だが――
(ここから始まる)
そう確信していた。
スマホを見る。
《影響力:小》
まだ足りない。
上位領域に届くには、もっと必要だ。
「……一人じゃ限界があるな」
小さく息を吐く。
今までは個人でやってきた。
だが、ここからは違う。
(人を使う)
そのための職業。
「……これだな」
画面を操作する。
【企業交渉者 → 組織運営者 Lv1(解放)】
「……組織運営者か」
タップ。
《転職しますか?》
YES。
《転職完了》
《現在の職業:組織運営者 Lv1》
その瞬間――
「……っ!」
頭の中に、新たな感覚が流れ込む。
人の配置。
役割。
効率。
個ではなく、“集団”としての最適解。
「……なるほどな」
自然と理解できる。
どうすれば、組織が回るか。
どうすれば、最大の結果が出るか。
「……なら」
黒瀬は、すぐに動いた。
スマホを操作する。
求人サイト。
条件を入力。
・即戦力
・柔軟性
・金に困っている人間
「……これでいい」
送信。
募集開始。
◇
翌日。
事務所の扉がノックされる。
「どうぞ」
入ってきたのは、一人の女性だった。
二十代半ばくらい。
スーツは少し古い。
だが、目は死んでいない。
「……面接、よろしいでしょうか」
「座って」
黒瀬は、簡潔に言う。
女性は、静かに座った。
「名前は」
「佐伯 美咲です」
「……佐伯」
どこかで聞いたことがある。
だが、それよりも――
(……能力はあるな)
一瞬で分かる。
処理能力。
判断力。
ただし――
(潰されてる)
環境か。
過去か。
理由は分からないが、本来の力が出ていない。
「前職は?」
「事務……です」
少しだけ、言葉が詰まる。
嘘ではない。
だが、それだけじゃない。
「……不正を見つけて、辞めたな」
「……っ!?」
顔が上がる。
驚き。
そして――警戒。
「……どうして」
「分かる」
それだけで十分だった。
沈黙。
数秒。
そして、女性は小さく息を吐いた。
「……はい」
認めた。
「内部の数字が合わなくて……指摘したら……」
その先は言わない。
だが、分かる。
切られた。
自分と同じだ。
「……いい」
黒瀬は、短く言う。
「採用だ」
「……え?」
今度は、完全に固まる。
「即決だ」
「でも、私……」
「能力はある」
遮る。
「足りないのは環境だけだ」
真っ直ぐに言う。
嘘はない。
「……」
女性――佐伯は、何も言えなかった。
ただ、目が揺れている。
「やるか?」
短く問う。
数秒の沈黙。
そして――
「……やります」
小さく、だがはっきりと答えた。
「よし」
黒瀬は頷く。
その瞬間。
《新メンバーを獲得しました》
《組織レベルが上昇します》
「……反映されるのか」
思わず呟く。
そして、続けて表示。
《影響力:小 → 中》
「……一気だな」
笑みが浮かぶ。
一人。
たったそれだけで。
だが――
(質が重要ってことか)
理解する。
数じゃない。
“使える人材”。
それが鍵だ。
「佐伯」
「はい」
「今日からここが、お前の職場だ」
周囲を見渡す。
何もない空間。
だが――
「これから全部、作る」
その言葉に、嘘はなかった。
「……はい」
佐伯は、小さく頷く。
その目に、わずかな光が戻っていた。
◇
その日の夜。
黒瀬は、一人でスマホを見ていた。
《影響力:中》
条件の一つが、クリアに近づく。
だが――
「……まだ足りないな」
そのとき。
《新通知》
送り主:UNKNOWN
「……来たか」
開く。
『面白い動きをする』
短い一文。
だが、その裏には評価がある。
「……見てるな」
黒瀬は、小さく笑う。
そして、打ち込む。
『次は、もっと見せてやる』
送信。
数秒後。
返信。
『期待している』
その一文を見て、黒瀬は静かに呟いた。
「……すぐ追いつく」
いや――
追い越す。
そのための準備は、もう整っている。
事務所の中。
まだ小さな組織。
だが――
確実に、“力”は動き始めていた。
黒瀬悠真は、静かに笑った。
「……ここからだ」
個人から、組織へ。
そして――
世界へ。
その第一歩が、今踏み出された。
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