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剣士転生-たった一つの基礎魔法で世界を両断する-  作者: きゃみちゃま


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第67話 斬られた結界

霊山の頂を越え、盆地の底に広がる辺境の村『エルトラ』。

巨大な樹木群と一体化したような美しい建築物が並んでいるが、そこを包み込んでいるのは、のどかな森の静寂などではなかった。


「……おかしいね。村の規模のわりに、生活の音がまったく聞こえない」

機巧獣フェンリルモードの操縦席で、テオが緊張した面持ちで周囲を見回した。


結界のドームに近づくにつれ、その異常さは明白になっていった。

畑に農具が放り出されている。窓という窓は分厚い木の板で打ち付けられ、道端には遊んでいる子供はおろか、犬や鳥の姿すらない。まるで、村全体が「嵐」が過ぎ去るのを息を潜めて待っているかのような、張り詰めた死の空気が充満していた。


ドスゥンッ……。

エルトラの正門である、巨大な二本の神木が交差するアーチの前にアマルが着地する。テオが意識を解くと、巨大な銀狼はシュルシュルと手のひらサイズのスライムへと収縮し、テオの懐へと戻っていった。


「誰もいないわね……。すいませーん! 旅の者ですけど、門を開けてもらえませんかー!」

ステラがアーチに向かって声を張り上げた。


その瞬間だった。


ギリィッ……!!

アーチの上、周囲の樹上の枝葉、そして村を囲む防壁の隙間。

あらゆる死角から、魔力を帯びて青白く発光する数十本の「矢」が、一斉に俺たちの急所へと向けられた。


「なっ……!?」

俺は咄嗟に腰の純白の剣の柄に手をかけ、ステラとテオの前に身を挺した。マイヤも無言で背中の巨大肉包丁を抜き放ち、周囲を睨みつける。


「……剣から手を離せ、愚かな人間ども」


樹上から、音もなく一人の男が舞い降りた。

長く尖った耳。人間離れした美しくも冷酷な顔立ち。深い緑色の軽装鎧に身を包んだそのエルフの戦士は、殺意に満ちた瞳で俺たちを、いや、俺の腰にある『純白の剣』を鋭く睨みつけていた。


「俺たちは怪しい者じゃない。王都から魔族の足取りを追って、情報を探しに――」

「黙れッ!!」


エルフの戦士の怒声が、静まり返った村の空気を切り裂いた。

その声には、よそ者を嫌悪する感情だけでなく、抑えきれないほどの『恐怖』と『焦燥』が混じっていた。


「貴様ら……自分が何をしたのか、分かっているのか!? あの霊山の霧を……数百年に渡ってこの村を守り続けてきた『幻影のとばり』を、物理法則ごと強引に叩き斬りおって……!」


「……えっ?」

俺は息を呑んだ。

霊山の頂で、俺たちの精神を蝕もうとした幻怪鳥の霧。あれは魔物が発生させた自然の障壁ではなかったのか。


「あの霧は、ただのエルフの隠れ蓑ではない!」

戦士はギリッと歯を食いしばり、俺たちが越えてきた霊山の、さらに奥深くそびえる山頂を指差した。


「霊山の中心には、古代の神代戦争で封印された『邪神の傍ら』――魔族の最高幹部の一体が眠るほこらがある。あの分厚い霧と幻惑の魔力は、エルトラを外界から隠すためだけではなく、その大悪魔の魔力と波動を外界へ漏らさず、封印を安定させるための『巨大な魔力圧縮の蓋』だったのだ!!」


俺の頭を、鈍器で殴られたような衝撃が貫いた。

(俺が……あの剣で、システムごと両断してしまった霧が、魔族の幹部を封印するための蓋だった……!?)


「あっ……ああっ……」

ステラが青ざめ、口元を両手で覆う。

テオも「嘘だろ……僕たちが、魔族の封印を……」と絶望的な顔で後ずさりした。


「貴様がその呪われた白刃で霧の魔力供給路レイラインを断ち斬ったせいで、エルトラを隠す防壁は消え去った。そして今、祠の封印は急速に崩壊を始めている! 村の者たちが息を潜めているのは、貴様らのような羽虫を警戒しているからではない。いつ霊山からあの悪魔が目覚め、村を火の海にするか分からないからだ!!」


エルフの戦士が弓を引き絞る。周囲の数十人の弓兵たちも、一触即発の殺気を俺たちに向けていた。

よそ者への冷ややかな視線などという生易しいものではない。彼らにとって俺たちは、彼らの故郷を滅亡の危機に陥れた『大罪人』そのものだったのだ。


「……すまない」

俺は、純白の剣の柄からゆっくりと手を離し、両手を高く上げた。

弁解の余地はない。幻覚から仲間を守るためとはいえ、俺の力任せの行動が、この村に破滅を呼び込んでしまったのは紛れもない事実だ。


「ルシア……!」

マイヤが焦ったように声をかけるが、俺は首を横に振った。


「武器を捨てろ、みんな。俺たちは、取り返しのつかないことをした」

俺の言葉に従い、ステラは杖を降ろし、マイヤも舌打ちをしながら巨大包丁を地面に置いた。


「……殺したければ、俺の首を刎ねろ。だが、その前に」

俺は両手を上げたまま、エルフの戦士を真っ直ぐに見据えた。


「俺が斬ってしまった封印なら……俺が、その『邪神の傍ら』とやらを叩き斬って、お前たちの村を守る。俺たちの命を奪うのは、それからにしてくれ」


俺の狂気とも取れる提案に、エルフの戦士は目を見開き、そして深く絶望的なため息を吐いた。

「……人間の身で、大悪魔を斬るだと? 傲慢もそこまで行けば滑稽だな。貴様らごときに――」


ズゴゴゴゴゴォォォォォンッ……!!!!


戦士の言葉を遮るように。

霊山の山頂方面から、村の防壁を激しく揺るがすほどの、凄まじい地鳴りと黒い瘴気の柱が天高く噴き上がった。


「……遅かったか」

エルフの戦士が、弓を取り落とし、震える声で呟いた。

封印の霧が晴れた代償。

数百年の時を経て、最悪の魔族が今、この辺境の地で産声を上げようとしていた。

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