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剣士転生-たった一つの基礎魔法で世界を両断する-  作者: きゃみちゃま


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第45話 白雪の隠れ里

翌朝。俺たちはマイヤの先導で、切り立った氷壁を登っていた。

目指すは雪山の中腹、せり出した岩棚の上に作られた巨大なすり鉢状の巣だ。


「しーっ、静かにしろよ。家主のお帰りだ」

岩陰に身を潜めたマイヤが、上空を指差す。


猛吹雪の空を裂いて舞い降りてきたのは、翼幅が十メートルはあろうかという巨大な怪鳥――「氷晶鳥ひょうしょうちょう」だった。

その姿は圧巻の一言に尽きる。鳥というよりは翼竜に近い骨格だが、全身を覆っているのは羽毛ではない。分厚い水晶のように透き通った、鋭利な「氷の刃」の集合体だ。鳥がバサリと翼を羽ばたかせるたび、氷の刃同士が擦れ合い、まるで無数のガラスが砕けるような、美しくも甲高い不気味な音を山肌に響かせている。


「あんなのの巣を荒らすの……? 怒らせたら、氷の羽がミサイルみたいに降ってくるよ」

ステラが息を呑む。

「安心しろ。あいつはこれから狩りに出る。親が留守の隙に、巣の中にある極上の『青玉卵』をかっさらうんだよ」


マイヤの読み通り、氷晶鳥は巣に何かをポイッと吐き出すと、再び鼓膜を劈くような鳴き声を上げて、猛吹雪の彼方へと飛び去っていった。


「よし、今だ!」

俺たちは岩棚をよじ登り、巨大な巣の中へと滑り込んだ。

凍りついた大木や魔物の骨を編み込んで作られた巣の中心には、マイヤの言っていた通り、淡い青色の光を脈打つように放つ、ダチョウの卵ほどの大きさの青玉卵が三つ転がっていた。


だが、俺たちの目は卵ではなく、その傍らで丸くなっている「小さな影」に釘付けになった。


「……嘘だろ。おい、子供じゃないか!」

俺が駆け寄ると、そこには獣の毛皮で作られた民族衣装に身を包み、寒さで唇を真っ青にして震えている、七、八歳くらいの小さな少年が倒れていた。氷晶鳥が後で食べるための「保存食」として、どこかから攫ってきたのだろう。


「ひぃっ……! く、くわないで……!」

少年は俺たちの姿を見て、恐怖に顔を引きつらせて後ずさる。


「大丈夫だ、俺たちは人間だ。食ったりしない」

俺が剣を収めて両手を広げると、マイヤが背後からドカッと歩み寄り、少年の口に無理やり温かい水筒を押し当てた。

「ほら、特製の『生姜と火竜草のスープ』だ。胃袋に流し込みな」


少年は咽せながらも温かいスープを飲み込み、みるみるうちに顔色に赤みを取り戻していった。

「あ、ありがとう……。ぼく、村の外で探し物をしてたら、いきなりあの大きな鳥に掴まれて……」

「そうか。もう大丈夫だ。お前たちの村はどこにある?」


少年が指差したのは、ここから少し下った谷底――一見するとただの雪原にしか見えない場所だった。

テオが目を凝らし、「……すごい。雪と氷の反射を利用した、大規模な光学迷彩の結界だ。あの中に村が隠されてるんだ」と呟いた。


俺たちは青玉卵を一つだけ頂戴し、親鳥が帰ってくる前に、少年を背負って崖を駆け下りた。


結界を抜けると、そこには雪を掘り抜いて作られた、かまくらのような石造りの家々が立ち並ぶ小さな隠れ里があった。

「カイ!! おお、神よ……生きていたのか!」

村の広場に出るなり、杖をついた深い皺の村長らしき老人が、泣き崩れながら少年を抱きしめた。


村人たちに手厚く迎えられた俺たちは、村長の家で温かい暖炉の火に当たっていた。

村長は俺たちに深く頭を下げた後、ふと、俺の腰に差してある「折れた黒狼」を見て、ハッと息を呑んだ。


「旅のお方……。その黒い剣の折れ口。まさか、物理的な衝撃ではなく、強大な『瘴気』に触れて内側から砕け散ったのでは?」

「……分かりますか。俺たちの力不足で、魔族の力に剣が耐えきれなかったんです」


俺の言葉に、村長は震える手で自身の首元から、古びた赤銅のペンダントを取り出した。それは、精巧な歯車の形をしていた。


「この村は古くより、北の霊峰の奥地に住まう『ドワーフ』たちと密かに交易をしてきた一族の末裔です。旅のお方、あなた方の目的がその折れた剣の修復であるなら……霊峰の奥にある大門をくぐり、『狂腕きょうわんのバルゴ』と呼ばれる鍛冶師を探しなさい」


「狂腕のバルゴ……?」

「ええ。ドワーフの中でも異端とされ、今は工房を追放された男。ですが、魔族の瘴気によって変質した鋼を打ち直せる神代の技術を持つのは、世界広しといえど、もはや彼ただ一人です」


村長は、その赤銅の歯車のペンダントをそっと俺の手に握らせた。

「これを大門の門番に見せれば、中へ入る許可が得られるはずです。カイの命を救っていただいた、せめてものお礼です。今日は外も吹雪が強くなる。村で1日休んでいきなさい。」


俺たちは顔を見合わせた。

思いがけない氷晶鳥の巣での遭遇が、厳格なドワーフの国へ入るための「鍵」と、修復の要となる「特定の人物の名前」を引き寄せてくれたのだ。


「恩に着る、村長さん」

俺はペンダントをしっかりと握りしめた。

北の霊峰の冷たい風の中で、俺たちの目指すべき道標が、今、はっきりとその輪郭を現していた。

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