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剣士転生-たった一つの基礎魔法で世界を両断する-  作者: きゃみちゃま


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第44話 マイヤの流儀

外では鼓膜をつんざくような猛吹雪が吹き荒れ、洞窟の入り口を白い闇で覆い尽くしている。

しかし、俺たちが囲む焚き火の周りだけは、マイヤがくべた特殊な青い薪――「熱龍の落とし枝」と呼ばれる魔石の一種――のおかげで、芯から冷えを切るような温かさに満ちていた。


「ぷはぁっ! やっぱ命のやり取りの後に飲む『火酒かしゅ』は最高だね!」


マイヤは熊の毛皮を敷いた岩の上に胡座をかき、革袋に入った強い酒を豪快に煽った。

真紅のポニーテールが炎に照らされて揺れ、首筋に浮かぶ汗が艶やかに光る。彼女の傍らには、先ほどの白銀刃熊の分厚い装甲を叩き割った、全長二メートル近い黒鉄の肉包丁が立てかけられていた。柄には無数の傷が刻まれ、刃こぼれ一つない黒い刀身が、焚き火の光を鈍く反射している。


「マイヤ……あんた、どうしてそんな途方もないモン振り回してんだ?」

俺は食後の温かい茶をすすりながら、ずっと気になっていた疑問を口にした。

「あんたの身のこなしと膂力りょりょくなら、一流の騎士や冒険者として十分すぎるほどやっていける。なのに、どうして『料理人』なんて名乗って、雪山で魔物を解体してるんだ?」


俺の問いに、テオとステラも興味深そうに耳を傾ける。

マイヤは革袋から口を離し、口元を乱暴に拭うと、黄金色の双眸を細めてパチパチと爆ぜる青い炎を見つめた。


「……私の生まれは、大陸の東の果て。『灰の街』と呼ばれるスラムだ」


彼女の口から出たのは、意外にも重苦しい地名だった。

「年中、近くの火山の灰が降ってくるようなクソみたいな場所でな。土は死に絶え、作物は育たず、空はいつもドス黒い赤色をしていた。街の連中は、泥水をすすり、ネズミの骨までしゃぶって飢えを凌いでたよ」


彼女は自嘲気味に笑い、巨大な肉包丁の柄を撫でた。


「私が十の時だ。街の近くに、生態系を乱す巨大な『毒竜』が住み着いた。騎士団が討伐に来たが、あっという間に全滅さ。奴ら、剣の腕は確かだったが……持ってきていた保存食が毒気にやられて腐り、腹を下して、寒さと飢えで満足に剣も振れずに死んでいった」


マイヤの声が、少しだけ低くなる。


「その時、私は悟ったんだ。どんなに凄え魔法を使おうが、どんなに鋭い剣を振ろうが、人間ってのは『腹が減ったら死ぬ』し、『毒を食ったら死ぬ』んだってな。戦場において一番恐ろしいのは、敵の刃じゃねぇ。『環境』と『飢え』だ」


彼女はそこで立ち上がり、俺たち三人を真っ直ぐに見下ろした。

その黄金の瞳の奥には、猛烈な飢餓感と、世界に対する反逆の意志が燃え盛っていた。


「だから私は、剣を捨てて『包丁』を取った。この理不尽で過酷な世界で生き残るための、最強の術を身につけるためにな」


マイヤは黒鉄の巨大包丁を軽々と持ち上げ、肩に担ぐ。


「魔族だろうが、悪魔だろうが、凶悪な竜だろうが関係ねぇ。どんな猛毒を持っていようが、どれだけ装甲が硬かろうが、私がこの包丁で解体し、毒を抜き、極上のスパイスで最高の『栄養』に変えてやる。敵の理不尽な暴力を、そっくりそのまま私の、そして私の仲間の『血肉』に変えて喰らい尽くす。……それが、魔境の料理人、マイヤ様の流儀だ!」


豪快に笑い飛ばす彼女の姿は、俺たちが王都で直面した「敗北」の重苦しさを吹き飛ばすほど、強烈な生命力に満ち溢れていた。


「……敵の力を、喰らって血肉にする、か」

俺は膝の上に置いた、折れた黒狼の鞘をそっと撫でた。

俺たちは敗北した。だが、その悔しさも、絶望も、すべてを飲み込んで消化し、次の強さへと変えていけばいいのだ。


「すげぇよ、マイヤさんは。本当に強い人だ」

テオが尊敬の眼差しを向ける。ステラも「私も、マイヤさんみたいに強くなりたいな」と目を輝かせていた。


「ハッ、おだてても何も出ねぇぞ! ほら、明日も早いんだ。腹が膨れたらさっさと寝な! 明日はこの雪山の名物、『氷晶鳥』の巣を荒らしに行くからな。極上の卵かけご飯を食わせてやる!」


外の吹雪は、まだ止む気配はない。

だが、強固な信念を持つ頼もしい料理人を仲間に加えた俺たちの心には、吹雪など物ともしない、熱く力強い炎が確かに灯っていた。

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