第31話 防衛線突破
アマルが王都へと続く大街道を爆発的な速度で駆け抜ける。
やがて地平線の先に、巨大な白亜の城壁と、王都の正門が見えてきた。
「ルシアくん、見えたよ! でも……すごい数だ!」
背中に乗るテオが叫ぶ。
正門の前には、蟻の子一匹通さないほどの大軍勢が陣形を組んでいた。
最前列には巨大な大盾を構えた重装歩兵部隊。その後方には、数百人の宮廷魔術師たちが杖を空に掲げ、幾重にも重なる巨大な魔法陣を展開している。
「賊軍に告ぐ! 貴様らは国家反逆の罪に問われている! 直ちに武装を解除し、投降せよ!」
防衛線の指揮官らしき男の魔法拡声器を使った声が響き渡る。
「あんなにたくさんの兵隊さん……でも、私、もう怖くないよ」
ステラが樫の杖を強く握り締め、真っ直ぐに前を見据えた。
「ああ。俺たちの的は、あんな兵士たちじゃない。城の奥底でふんぞり返っている腐った上層部だ。アマル、速度を落とすな。一直線に門を突破する」
俺の指示に応え、アマルは咆哮を上げ、さらにギアを一段階引き上げた。
「撃てェェェッ!!」
指揮官の号令とともに、数百の魔術師から一斉に魔法が放たれた。
炎、氷、雷。あらゆる属性の殺意が混ざり合った、空を覆い尽くすほどの巨大な魔法の津波が俺たちに迫り来る。
「ステラ!」
「任せて! 私の全部で、ぶっ飛ばす!」
ステラが樫の杖を天に掲げる。
その瞬間、彼女の内から辺境の空を揺るがすほどの莫大な魔力が、まるで間欠泉のように噴き出した。
「全属性同時展開……極大魔力相殺!!」
数百人のエリート魔術師が編み上げた魔法の津波に対し、ステラはたった一人で、それを上回る質量の魔法の奔流を正面からぶち当てた。
ズガァァァァァンッ!!!
二つの巨大な魔法が激突し、王都の空に太陽が落ちたかのような強烈な閃光と爆音が轟く。
空気が震え、大地が割れる。
そして、拮抗は一瞬で崩れた。ステラの規格外の魔力は、数百人のエリートたちの魔法を完全に呑み込み、色鮮やかな光の雨となって上空へ美しく霧散させてしまった。
「ば、馬鹿な……数百人の一斉魔法が、たった一人の小娘に力負けしただと!?」
驚愕し、腰を抜かす指揮官の声が聞こえた。
「前衛の重装歩兵部隊、構えろ! 物理的にあの獣を食い止めろ!」
魔法の盾を失いながらも、巨大な大盾を構えた兵士たちの鉄壁の陣形が、アマルの進行方向に立ち塞がる。
俺はアマルの背から立ち上がり、腰の黒狼をゆっくりと抜き放った。
「兵士の命は奪わない。武器と戦意だけを刈り取る」
俺は黒狼の刀身に身体強化の魔力を極限まで圧縮し、アマルの圧倒的な突進速度を利用して、横薙ぎに一閃した。
ただの物理的な斬撃。だが、極限まで練り上げられたその一振りは、空気を断ち切り、見えない巨大な刃となって国軍の陣形へと直撃した。
キィンッ、ガガガガガッ!!
鈍い金属音が連鎖する。
兵士たちが構えていた分厚い鋼の盾が、そして彼らの腰の剣や槍が、まるで紙切れのように綺麗に真ん中から両断された。
肉体には一切傷をつけず、武装だけを空間ごと切り裂く神業。
「あ……え……?」
武器を失い、真っ二つになった盾の残骸を持ったまま、兵士たちは呆然と立ち尽くす。
その隙間を縫うように、アマルは一気に防衛線を駆け抜けた。
希少鉱石を取り込んだアマルの装甲は、残った飛来物を完全に弾き返し、一切の減速を許さない。
「そのまま正門を突破する!」
俺が叫ぶと同時に、アマルは巨大な王都の城門へと体当たりを敢行した。
凄まじい轟音とともに分厚い鉄の門が吹き飛び、俺たちはついに、魔族と腐敗した権力が巣食う王都の内部へと侵入を果たした。
「よし、第一関門突破だね! 次はどこへ向かうの、ルシアくん!」
テオが興奮気味に叫ぶ。
「決まっている。あの白亜の城の地下、一番偉い連中が隠れている場所だ。行くぞ」
王都の石畳を砕きながら、銀狼が猛進する。
城の地下深く、星無き間へと向けて、俺たちは迷うことなく突き進んでいった。




