第30話 辺境からの出陣
辺境都市ランカのあばら家。その作業部屋からは、夜通し激しい金属音が鳴り響いていた。
「よし、これで完成だ!」
テオの声に、俺とステラは部屋を覗き込んだ。
机の上には、普段の銀色から少し黒みを帯びた、重厚な輝きを放つスライム形態のアマルがいた。
「辺境の迷宮で採れた希少鉱石を、アマルの流体金属に分子レベルで練り込んだんだ。これで物理・魔法問わず、防御力はこれまでの比じゃない。文字通りの絶対防壁さ」
テオが誇らしげに言うと、アマルも「ピュイ!」と自信満々に鳴いた。
「すごいね、テオくん。私も負けてられないや」
ステラは外の広場へ出ると、樫の杖を構えた。
王都の防衛線を突破し、中枢へ辿り着くには、広範囲の殲滅魔法ではなく、ピンポイントで障害を退ける力が必要になる。彼女はこの数日、自分の莫大な魔力を針の先ほどに圧縮する特訓を続けていた。
「いくよ……『魔力貫通』!」
ステラが杖を振るうと、目に見えないほど細く圧縮された魔力の線が放たれ、広場の奥にあった巨大な岩のど真ん中を、音もなく綺麗に貫通した。
「見事だ。それなら城の鉄扉でも撃ち抜けるな」
俺が声をかけると、ステラは汗を拭いながら嬉しそうに微笑んだ。
「うん。ルシアくんとテオくんの道を切り開くためなら、私はなんだって貫いてみせるよ」
準備は整った。
翌朝、俺たちは街の正門前に立っていた。
「本当に行くんだね、あんたたち」
ギルドマスターのメリルが、いつもより苦い顔でキャンディを噛み砕く。彼女の後ろには、街の冒険者や住民たちがズラリと並んでいた。誰もが不安と、そして俺たちへの期待が入り混じった目をしている。
「国ごと叩き斬るなんて馬鹿げたこと、普通なら止める。だが……お前らなら、あの腐った王都の連中の目を覚まさせてくれるかもしれないね」
「目を覚まさせるだけじゃない。全部叩き斬って、終わらせてくる」
俺が黒狼の柄を叩いて答えると、メリルはふっと口角を上げた。
「頼んだよ、辺境の英雄ども。必ず生きて帰ってきな」
「ピュイィィィッ!」
アマルが雄叫びを上げ、体長四メートルの巨大な銀狼へと姿を変えた。希少鉱石を取り込んだその体は、陽の光を浴びて神々しいほどの威圧感を放っている。
俺とテオ、そしてステラがアマルの背に飛び乗る。
「それじゃあ、行ってくる」
住民たちの歓声とメリルの視線を背に受けながら、アマルは力強く大地を蹴った。
目指すは、すべての元凶が潜む白亜の王都。
落ちこぼれと呼ばれた三人の、国家に対する反逆の旅が始まった。




