7生 ep.24
「お母さま! 見て、パンと干し魚をたくさん貰ってきたわ!」
エンヴァはその小さな体に抱えきれないほどの食糧を抱え、父カイルと共に玄関を潜った。
実際にはクリフが共和国の最奥から独占的に買い叩き、私兵が命懸けで運んできた最高級の備蓄品だ。
だが、この家においてそれは「幸運な配給の結果」でなければならない。
「革命軍の配給に出くわしてね。子供と老人が優先だと言うから、便乗させてもらったよ」
カイルが手慣れた様子で嘘を重ねる。
この国の物流の頂点に立つ男が、まるで一市民のように「配給の列」に並ぶ姿を演じる。
「それは助かるわね。最近は配給も滞りがちだと聞いて心配していたのよ」
リーリャは安堵の溜息をつき、愛おしそうにカイルへ口づけを贈る。
エンヴァはその様子を冷めた目でチラリと眺めながら、外套を脱いだ。
「戦争も終わるって、街の人たちが言っていたわ。少しはこの国も落ち着いてくれればいいんだけど」
リーリャが希望に満ちた声で笑う。
革命軍——今やリューコフの独裁政権——が流している「即時停戦」の宣伝を、彼女は純粋に信じているのだ。
(……はたして、そうかしら?)
エンヴァの脳裏で、大陸全土を俯瞰する精密な地図が展開される。
(この大戦は、最終的に同盟側の敗北に終わるわ。理由は明白……海の向こうにある「あの大国」が、まだ本格的に参戦していないこと。今は食糧支援に留めているけれど、彼らが鉄の雨を降らせ始めれば、同盟に勝ち目はない。……それなのに)
エンヴァの思索は、冷徹な軍事顧問のそれへと変質していく。
(今、負け組になるであろう同盟側と安易に和睦をしたところで、それは敗者の連帯に過ぎない。勝利するであろう連合側との関係性はどうなるの? 和睦の際にこの国が支払わされる「代償」は? ……民衆が『戦争は嫌だ』と言ったからといって、戦略的展望もなく戦争を辞めるのは、あまりに早計。リューコフ、貴方は目先の支持率のために、この国の未来を売り払おうとしているのかしら?)
小さな顎に手を当て、国家の寿命を算定し始める十二歳の少女。
だが、その大陸横断的な思考は、背後から響いたあまりに平和な声によって、一瞬で霧散した。
「今日はシチューにしましょうね、エンヴァ!」
「……えっ?!」
「ふふ、お魚もあるし、温かいシチューで身体を温めましょう。エンヴァも、お手伝いしてくれるかしら?」
呑気に、けれどこの世で最も尊い響きを持って、リーリャが微笑む。
「……うん! 私もお手伝いする!」
大陸を分かつ鋼鉄の意志も、国家を滅ぼすための謀略も。
すべては今夜のシチューの湯気の中に、音もなく溶けて消えていった。




