表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生の魔女  作者: RUSA
151/160

7生 ep.17


帝国軍と革命軍。


この国を二分する巨大な二つの意志は、今や一人の十歳の少女が握る「食糧」という名の首輪によって、文字通り飼い慣らされていた。




「……お馬鹿さんね。自分たちが食べれば、相手が死ぬとでも思っているのかしら?」


エンヴァは優雅に椅子を回し、窓の外に広がる灰色の戦線を見据えた。




やり方は常に一貫していた。 帝国軍がエンヴァの組織を「社会の癌」として摘出しようと動けば、彼女は即座に革命軍へ莫大な食糧を流し、彼らを盾として利用する。




逆に革命軍が食糧奪取を試みれば、帝国正規軍に特権的な配給を約束し、彼らを掃討させる。


右を叩けば左を太らせ、左が肥大すれば右を焚きつける。




「戦争なんて、勝たせちゃダメなのよ。……どちらかが勝って平和になれば、食糧の価値が下がってしまうもの。お母さまに毎日バラの花を贈るためには、この国にはもう少しだけ『飢えて』いてもらわないと」




革命戦争の行く末、国家の存亡。




そのすべては、帝都の一角で「理想の家庭」を演じる少女の手のひらの中で、転がされているに過ぎなかった。










あれからさらに二年の歳月が流れた。




エンヴァは十二歳となり、少女の可憐さに支配者の冷徹な美しさが混じり合う年頃になっていた。


そして母リーリャは二十五歳。 この年、リーリャはかねてより交際していた「運命の男性」とついに結婚した。




「……うーん。やっぱり、もう少し見栄えの良い人はいないのかしら? 私の義理の父親になる男よ?」


地下組織の極秘会議室。




十二歳のエンヴァは、差し出された男たちの履歴書を忌々しそうに放り投げた。




「そうは言ってもボス、社会的地位があって、若くて、性格も良くて、さらにはお母さまを満足させる色男なんて、そうそう市場には出回りませんよ」


「ボスのところのお母さま、本当に見惚れるほどお綺麗ですからね……。釣り合う男となるとハードルが高すぎます」




幹部たちが冷や汗を流しながら進言する。


そこで出た「身内を潜り込ませる」という案に、エンヴァは初めて指を止めた。




選ばれたのは、組織の構成員の中でも飛び抜けて「外面」が良く、かつ機転の利く男――カイルだった。




「いい、カイル。貴方が、私の父親になるのよ」


エンヴァの言葉は、祝福ではなく処刑宣告に近い響きを帯びていた。




「浮気なんかしてお母さまを泣かせたら、内臓を全部取り出して豚の餌にするわ。……分かっているわね?」


「……はっ、了解しました。ボス。命に代えても、リーリャさんを本気で愛します、そして世界一幸せにしてみせます」




そこからの「恋愛劇」は、すべてエンヴァが脚本・演出・監督を務める、壮大な喜劇だった。




リーリャとの「偶然の出会い」も、心を通わせるデートのコースも、プロポーズの言葉ですら、エンヴァの前で何度も何度もリハーサルを重ねたものだ。




「お母さまの前では私のことを『エンヴァ』と呼ぶのよ。私は貴方を『お父さま』と呼んであげるから」




「了解です、ボス」




パアン!


即座にエンヴァの平手打ちが飛ぶ。




「……不合格。やり直し。ちょっと『エンヴァ』って呼んでみて」


「え、えん……ヴぁ?」




パアン!




「固い。やり直し。実の娘を呼ぶように、もっと愛おしそうに呼べないの? 次にトチったら、足の指を全部落とすわよ」




カイルにとって、それは世界で最も恐ろしい演技指導だった。


夜を徹して行われたシミュレーション。


甘い愛の言葉を吐く練習。


夜の生活についてはカイルに妙な性癖が無いかどうかをエンヴァが直々にチェックする。


「ちょっと、この女を抱いてみなさい。私がチェックしてあげるわ」

「本当ですか?エンヴァ様?そこまでやるんですか?」

「当たり前じゃない、一番大切な所よ!いつもやっているようにやるのよ、良いわね」


パアン!


何が気に入らないのか、その日カイルはベッドの上で10発以上の平手打ちを喰らった。

「次に変な事をしたら切り取って犬に食わせるわよ!」

「はい、ボス……」


ようやく一通りエンヴァの「OK」が出た頃には、「おしおき」により、カイルの足の爪は二枚剥がされ、全身から生気が消え失せていた。




その3か月後、帝都の教会。


何も知らないリーリャは、優しく誠実な(に見える)カイルの手を取り、幸せそうに微笑んだ。




「お父さま、おめでとう! お母さまを幸せにしてあげてね」


純白のドレスを着たエンヴァが、天使のような笑顔で「義父」に声をかける。




カイルは引きつりそうになる頬を必死に抑え、剥がれた爪の痛みを思い出しながら、優しくボスの頭を撫でた。




「ああ、ありがとう、エンヴァ。……さあ、家族三人で幸せになろうね」


その言葉の裏で、カイルの背中には滝のような冷や汗が流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ