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転生の魔女  作者: RUSA
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7生 ep.4

霧に濡れた路地裏の広場。そこには、先日エンヴァにパンを差し出した少年たちが、見るも無残な姿で縛り上げられ転がっていた。




「俺たちに逆らうと、こうなるからな。嘗められてるお前らが悪いんだぞ」


冷え切った声が響く。




少年たちは全員が縄で縛り上げられ、絶望に顔を歪めていた。




彼らがエンヴァにパンを奪われたことは、この地域を支配するアルテリにとって、自分たちのシマを荒らされたことに他ならなかったのだ。




見せしめとして、1人の少年が前へと引きずり出される。

「嫌だ!嫌だ!誰か助けて!死にたくない!」


泣き叫ぶ少年を助けようとする仲間は、いない。


アルテリの少年が手にしたのは、大工が使う錆びついた「のこぎり」だった。



仲間の手による肉と骨を削る、残酷で執拗な処刑。




ゴロリ




やがて首を落とされた骸が石畳に転がると、場には嘔吐の音と、すすり泣きだけが残された。


「……明日までに、今までの倍の『みかじめ』を持ってこい。できなきゃ、次はお前ら全員、こうなるからな」




アルテリの幹部が立ち去った後、生き残った少年たちは震えながら顔を見合わせた。


倍の支払い。そんなものは、靴を磨き、藁のパンを齧る彼らには逆立ちしても不可能だ。




「あの女を……あのヤバい女を探せッ!」


リーダーの少年が、半狂乱になって叫ぶ。




「あの化け物なら……なんとかしてくれるかもしれない!」






「あら? 私に何か用かしら?」


霧の向こうから、鈴を転がすような、場違いなほど美しい声が響いた。


まるで最初からそこにいたかのように、五歳の魔女が姿を現す。




彼女は少年の処刑を塀の上から見物していたのだ。




「た、助けてください! あなたの……あなたの配下になります! だから、あいつらを……あいつらを殺してくれ!」


血の海の中で、少年たちは地に頭を擦り付けた。




エンヴァは、無残に散らばった少年の残骸を冷めた瞳で一瞥し、それから跪く者たちを見下ろした。


「……配下、ね。その言葉にどれだけの重みがあるか、分かって言っているのかしら?」




クスクスと、少女は可憐に笑う。




「泣くのはおよしなさい。涙は、あいつらの血で拭えばいいのだから」




その背後で、夜の霧が生き物のようにうねり、黒い影を広げていった。








霧深い夜。街の喧騒から隔絶された、古びた倉庫街の一角。


そこは、この地域を支配するアルテリの本拠地だった。




鉄さびと煤の匂いが充満する広場に、六十人ほどの少年たちが、昼間の戦利品を品定めしていた。


そこへ、少年達から場所を聞いたエンヴァがツカツカと無人の野を行くように歩いていた。


「……なんだ、この乳臭いガキは?」


一人の少年が訝しげに声を上げた。


「ハハッ! 迷子か? お嬢ちゃん」


「……いや、待てよ。あの顔、あの髪、まるで人形みたいだ。……そういう『趣味』の奴には、高く売れそうだな」


「本当だ、まるで貴族のお嬢様みたいじゃないか」



ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた少年たちが、獲物を取り囲むように距離を詰めてくる。


だが、エンヴァの黄金色の瞳には、恐怖の欠片もなかった。




「リーダーはどこ?」


「……あァ? 何の用だ」


「ちょっと、貰いたいものがあるの」




五歳の少女の、あまりに淡々とした言葉に、場が一瞬静まり返る。


「面白い。連れてこい」


倉庫の奥、一段高い場所に座っていたリーダー格の少年が、興味深げに顎をしゃくった。




エンヴァは、怯える仕草一つ見せず、六十人の少年ギャングたちの視線を浴びながら、悠々とリーダーの前へと歩み寄った。




「何の用だ? メスガキ?お前みたいな奴は解体して食っちまうぞ」


実際にこのリーダーは「狂った人食い」と組織内でも呼ばれていた。

ギャング団では狂っていれば狂っている程に高いカリスマを誇示できるのだ。



「用? 強いて言うなら……」


エンヴァは、可憐に口角を上げた。その小さな人差し指を、リーダーの眉間へと真っ直ぐに向ける。




「貴方を、殺しにきたの」




「——ハッ? 何を言って……」


リーダーが嘲笑を浮かべようとした、その瞬間だった。




倉庫の床、壁、天井の隙間から、黒い津波のようなネズミの群れが湧き出した。




「ギ、ヒィッ!? な、なんだこれ!」


数百、数千という飢えたネズミたちが、悲鳴を上げるリーダーへと一斉に群がる。




響き渡る、肉を裂き、骨を砕く音。


「ギャアアアアア!あっ……あっ……喰われる!」




凄まじい悲鳴。


先ほどまでニヤついていた部下たちは、そのあまりの光景に、武器を落とし、腰を抜かしてガタガタと震え上がった。




「……一度、ストップ」


エンヴァが静かに指を鳴らす。




ネズミの群れが潮が引くように退くと、そこには、変わり果てたリーダーの姿があった。




全身の皮を食いちぎられ、内臓がはみ出し、血の海に沈んでいる。


腹の中で数匹のネズミがうごめいているのが解る。


けれど、リーダーの彼はまだ、かろうじて息があった。




「あ……バ、……ヒャ、ぱう……」


舌までも喰われ、まともに言葉を発することさえできない。




ただ、絶望に満ちた瞳でエンヴァを見上げることしかできなかった。


「食べられたのは貴方の方だったわね」




エンヴァは、血の海の中に横たわる彼を一瞥し、それから震える部下たちを見渡した。


「く、狂っていやがる」

少年達はエンヴァに恐れおののいている。



「今日から、このアルテリは私が仕切るわ。……文句は、無いかしら?」




「——ッ、ふざけるな! 何がボスだ、このクソガキがァ!」




一人の少年が、恐怖を振り払うようにナイフを構え、エンヴァへと突進した。


(……あら、威勢がいいのね)


エンヴァが冷ややかな視線を向けると、ネズミの群れがその少年に群がった。




倉庫中に、新たな悲鳴が木霊する。


残された少年たちは、もはや抵抗する気力さえ失っていた。




彼らは、五歳の少女の足元に跪き、地に頭を擦り付けた。


「……誰も、反対はいないようね」


エンヴァは、満足げに口角を上げた。




かつての帝国も、こうして恐怖と支配の上に築かれたのだ。


魔女は、血塗られた倉庫の中で、新たな「王座」へと腰を下ろした。

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