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転生の魔女  作者: RUSA
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6生 ep.27

「国民議会は解散。……今日から、私の『庭』のルールは私が決めるわ」


エンヴァの冷徹な一言で、歴史の針は力強く進められた。




逃げ惑う議員たちの背中を見送る者などいない。


民衆は熱狂し、軍靴の音は一糸乱れぬリズムで、たった一人の主君——女帝エヴァへと捧げられた。






かつての「救国の聖女」は、今や大陸を震わせる「黄金の瞳の支配者」へと変貌を遂げていた。


エンヴァがひとたび指を差せば、その方向にある国家は例外なく「清掃」される。




「随分と、大きな『工場』になったものね、クラリッサ」


漆黒の軍礼服に身を包んだエンヴァは、執務室に広げられた大陸地図を、黄金色の瞳で淡々と見下ろしていた。 そこには、かつて十五の国々がひしめき合っていた痕跡はない。すべてはエンヴァの「庭」として塗りつぶされている。




「ええ、エヴァ。……たった数年で、大陸のほとんどが貴女の工場の『下請け』になったわ」




クラリッサの言葉通り、進軍は止まらなかった。


死を恐れぬ狂信的な市民兵と、絶対的な忠誠を誓った正規軍が混ざり合った「エヴァ軍」。


その数は六十九万という、前代未聞の規模にまで膨れ上がっている。




連戦連勝。




難攻不落と呼ばれた要塞も、数百年続いた王朝も、エンヴァが放つ「アメーバ」のような人海戦術と、ピンポイントで心臓を握り潰す「魔女の指先」の前には無力だった。




大軍による蹂躙や銃と大砲による攻撃よりも、敵が大群であればあるほどに、そして堅固な要塞に対しても発生する「消滅の自然災害」による軍の壊滅を各国は何よりも恐れた。




「残るは、西の荒波に守られた島国。そして、東の地平に鎮座する大国……それだけね」


エンヴァは、地図の端にある二つの領域を、黄金の瞳でじっと見据えた。




「どう?楽しい?」


エンヴァは隣にいるクラリッサの顔を覗き込む。


「うん!とっても!」


二人はかつて立てた予定通り「おもしろ、おかしく」生きていた。








十五の国を平らげ、大陸の半分をその胃袋に収めた共和国。




人々は畏怖と敬意を込めてそれを「帝国」と呼んだ。




その中央でエンヴァは、今や生ける伝説——「神」として神格化されていた。






国民たちは夢想する。


黄金の装飾に彩られた壮麗な王宮で、数千の奴隷を従え、宝石を散りばめたドレスに身を包んだ「少女皇帝」が、贅の限りを尽くしている姿を。




だが、その予想は見事に裏切られることとなる。




「ほら、あーん! 食べて食べて、エヴァ! 今日のは特別に、私が市場で一番いい苺を買ってきたんだから!」




「……クラリッサ。声が大きいわ。それに、私はもう子供じゃないのよ」


煌びやかな王宮でも、冷厳な最高議事堂でもない。




使い古された歯車の回転音が心地よく響く、あの工場の執務室。


エンヴァは、困惑と、わずかな充足感を混ぜ合わせたような表情で、フォークを差し出す親友を見つめていた。




二人の目の前にあるのは、金箔入りの高級料理ではなく、近所の菓子屋で作らせた素朴な苺のショートケーキだ。




大陸の支配者と言うにはあまりにも庶民的な「ご褒美」を楽しむエンヴァ。


その傍らでは暖炉で豆を煮る鍋がコトコトと音を立てている。




「いいじゃない、たまには! 十五もの国を片付けちゃったんだもの。これくらいの贅沢、バチは当たらないわよ。ほら、あーん!」




「……全く。貴女、私の前でだけは遠慮という言葉を忘れるわね」


観念したように小さな口を開け、エンヴァは差し出されたクリームを口に含んだ。




舌の上に広がる、安っぽい、けれど普段の食事では経験する事のできない甘さ。


大陸全土の運命を左右する黄金色の瞳が、その瞬間だけは、どこにでもいる少女のそれへと緩んだ。




「……甘いわね」


「でしょ? 最高でしょ? 帝国中の貴族たちが、貴女に拝謁するために門前で何日も待たされているっていうのに。その神様が、工場の隅っこで豆を煮ながらケーキに夢中なんて知ったら、みんな腰を抜かすでしょうね」




クラリッサは愉快そうに笑い、自分も大きな一口を頬張った。


一つのショートケーキを分け合う二人。




「それでいいのよ。王宮なんて、埃っぽくて肩が凝るだけだわ。私は、ここが好き。……油の臭いと、ネジの巻かれる音と、貴女が淹れる紅茶。それがあれば、世界なんておまけのようなものよ」




「ふふっ。世界を『おまけ』呼ばわりするのは、世界で貴女一人だけだわ」


窓の外では、新しき「帝国」の誕生を祝う祝砲が轟いていた。






「失礼します、エヴァ様! 新しい商品の試作品が上がりました!」


勢いよく執務室に飛び込んできたのは、かつての工場主任の息子、今や帝国の生産ラインを一手に担う大工場の主任へと成長したクリフだ。




その手には、最新の織機で編み上げられたばかりの、雪のように白い大量生産用の肌着インナーが抱えられていた。


「……見せて。これが、例の新素材を使ったものね?」


エンヴァは黄金色の瞳を細め、差し出された布地を指先でなぞった。


絹のような滑らかさと、それでいて確かな強度。




「ええ。ですが……もう少し、首回りと胸元にゆとりが欲しいかしら。それに、もっと薄く、それでいて温かくならない? 冬の戦場でも、あるいは貴婦人のドレスの下でも、その存在を忘れさせるくらいに」


「は、はい! すぐに改善案を練り直します。ですが、ゆとり……ですか?」


クリフが首を傾げた。




エンヴァは無言のまま、自分の平坦な胸元に一度視線を落とし、それから隣で書類を整理していたクラリッサの、近頃目に見えて主張を強め始めた豊かな胸へと視線を移した。




「……私のような控えめなタイプならこれでいいけれど。クラリッサのような……その、発育のいい女性には、今の型紙では少し窮屈でしょう? 市場を独占するなら、あらゆる『規格』に対応しなさい」




「ちょっと、エヴァ! 何をじろじろ見てるのよ……!」


不意に比較対象にされたクラリッサが、耳まで真っ赤にして胸元を腕で隠した。


その「発育」は、この数ヶ月で明らかにエンヴァを追い越しており、少女二人の間には、友情だけでは埋められない物理的格差が生じ始めていた。




「……何よ。ただの市場調査よ。商品としての完成度を高めるためには、身近なサンプルを観察するのは当然の義務でしょう?」




「畏まりました、エヴァ様! 」


元気よく敬礼して部屋を飛び出していくクリフ。




その後ろ姿を見送りながら、エンヴァはふっと口元を緩めた。


15の国を蹂躙と侵略によって平らげた女帝。




……その仮面を脱ぎ、友人の胸のサイズに毒づきながら、より良い肌着の開発に没頭する。


このような、下らなくて、手触りのある時間を、エンヴァは好んでいた。

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