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十四話 すぐに動け


 二つ目のダンジョンゲートを抜けた先は、森だった。

 高い木が立ち並ぶ姿は、日本らしくない光景だった。

 まあ、一回目の草原だって日本らしくはないが。


 とは言え、今回のステージが森であることに密かに不満を覚える。

 ここに入る前に、警察は、誰かが先に入ってしまったと言っていた。

 そいつを探すのに、この見渡しの悪い森は最悪の条件だろう。


 まあ、正直、俺は勝手に入った奴を責める気にはならい。

 俺だって、恐らく同じ状況だったら、同じことをした。

 だって、どう考えても、リスクがあるにしろ、これからの世界でレベルが高いと言う事は重要なことだから。


 レベルが高いだけで、俺が国にダンジョン攻略を任せられるように、それだけで、リスク以上の恩恵は手に入れることが出来る。

 命をかけてまで、こんなことをするの馬鹿だろう。

 そう思う人もいるだろうが、このダンジョンは、ゲートであり、俺が後から侵入できたように、入ったら攻略するまで出られないなどと言った機能はない。

 それを考えれば、入り口付近で通用するかどうか試すくらいはリスクの内に入らない。

 そう思ったのだろう。


「ただ、俺からすればめんどくさいだけなんだが」


 自分が同じ立場なら、同じことをした。

 そうは思うものの、残念ながら俺の今立っている場所はそこではない。

 面倒くさいという感情がなくなることはない。


「と、人の前に魔物か」


 気配を感じた俺は、斧を取り出した。

 恐らく、左から、いや、右からも来ている。

 近づくにつれて、踏みしめる脚の音が、小刻みであることに気付く。


 恐らくこれは、四足歩行の生物。

 いままで、戦ってきた魔物が二足で歩いていただけに違和感が際立つ。

 コボルトは顔面は犬だったし、オークも豚だったが、どっちも二足で地面を踏みしめる音はこれよりテンポは遅かった。


「グレェア!!」


 瞬間、聞こえた鳴き声に俺は斧を叩きつけた。

 こいつ何かしやがった。

 先ほどの、進行スピードから考えられないほど、一瞬で間を詰めて来た。


 そのせいで、視界に入れる隙も無かった。

 木に叩きつけた後で、やっと、そいつが狼の魔物だと言う事に気付いた。

 だが、来るのはそいつだけじゃない。


 俺は、右からの攻撃を躱して、すれ違いざまに斧を叩きつけた。


「グラェキャ!?」

「他はいないか。狼のくせに、群れじゃねぇのかよ」


 第三の攻撃が来ないのかと、俺は確認して、息を吐いた。

 灰になった狼から魔石を回収して、俺は奥へと進んだ。

 そこで、ふと思いついた。


「木の上を跳んだほうが速いのでは」


 思い立ったら即実行。

 俺は、木の上へと跳躍して枝伝いに移動してみた。


 結果、あまり上手く行かなかった。


 高速で動くとなると、木に顔面をぶつけそうになる。

 ただ、まあ、徒歩より早いので頑張ったが。

 魔物も木の上なら遭遇しないし。


 そんなこんなで、移動していると不意に思う。


「あの、動きをする魔物がいたのなら、俺みたいにレベルアップしてない状態なら死んでる可能性もあるんじゃないか」


 正直、あの動きはまるで前に戦った加速系のスキルの持ち主の動きに似ていた。

 いくら初期ポイントがあると言っても、アレを回避して森を進める奴がいるとは思えない。


 まあ、どちらにしても、行けば分かるだろう。

 森の奥、そこを抜けた先に空間があるのが見えた。

 ひときわ大きな狼の魔物が佇んでいる。

 きっとあれがボスだろう。


「ん?いるじゃねぇか」


 ただその手前、そこに一つの人影があるのが見えた。

 でかいナイフを持った男が一人立っている。

 恐らく、俺と同じくらいの年齢だろうか。


 とりあえず、様子を見ようかと思い俺は、木の上で停止した。

 そうすれば、男は来ていた上着を脱ぎすてて構える。


「来い!」

「グラゥアア!!」


 それに呼応するように、狼は吠えて地面を蹴った。

 一瞬で、懐へ潜り込む狼。

 だが、男の方もスキルをとっているのだろう。


 攻撃を受ける手前と言ったところで、瞬間移動でもするかのように一歩距離をとった。

 空振りする狼、その隙を見逃すこともせずに、男はナイフを突き刺した。

 だが浅い。

 狼は、再び攻撃を入れようと体を動かした。


 ただ。


「遅い」


 男がそう呟くと、ナイフを突き刺した手元が一瞬光り、狼の身体を震わせた。

 恐らく内部で衝撃を与えたのだろう。

【ステータス】による恩恵、それも恐らくスキルと言うよりは魔法系統のものだろう。

 ただそれだけで、狼は毛を寝かせて絶命した。


 凄いななどと思っていると不意に男は振り向いた。


「手出ししないでいただいてありがとうございました」


 気付かれていたようだ。

 俺は、木から飛び降りると男の前に姿を現した。


「いや、気にしないでください。苦戦してたならあれですけど、一瞬で倒してしまったのでどちらにしても俺が首を挟む時間なんてなかったですし」


 恐らく同い年なのだろう。

 それでも、敬語で話されれば、ため口をきく気にはならない。


 ただ、そんな俺の思考をよそに、彼は俺の言葉を否定する。


「いえ、貴方なら。一撃でこれを葬ることが出来たでしょう。それに、俺の様に忍び込んだって感じではないですし。正当な手続きを踏んで入ったのなら、やはりお礼は言うべきでしょう」


 まあ、確かに、この人より俺の方が強いから、言ってることは本当ではあるが。


「ああ、それと、多分同い年ですよね。こちらから敬語で話しておいてなんですが、ため口で良いですよ」

「わかった。そっちも気軽に話してくれ」

「助かるよ。俺は、糸魚川正龍(いといがわせいりゅう)、高一。気軽に正龍って呼んでほしい」


 糸魚川正龍。

 強そうな感じ。

 ただ、一瞬名乗ろうかと考えて、少し言いよどむ。

 正龍が相手だから、とかではなく、俺の名前は、すでに世界規模でバレている。

 リスクがある可能性もあるが。


 まあ、良いか。


「俺は、河添正時。一応、高一」

「一応?」

「ん、ああ。不登校なんだよ」

「あーそう言う」


 納得したような顔を見せる正龍。

 つーかこいつやけにカッコいいなと思ったらイケメンかよ。ケッ!


「というか、河添正時って、あの二十三人に含まれてたっていう?」

「そう」

「通りで強いわけだ。まあ、とにかく助かったよ。今はレベルを出来るだけあげたかったし」


 そんな話をして少し、俺たちはダンジョンの外へと出た。

 ダンジョンは攻略すると消滅するが、外に出ないと巻き込まれる。

 まあ、一緒に消滅することはないが、外部に放り出されるのだが、下手すると地面に重なって死んだりするらしい。


「お疲れさまでした。彼が?」

「ええ。でも、ダンジョンを攻略したのはこの人だから、今回俺は何もしてないですけど」


 ゲートからでて早々に、俺は警察に問われた。

 まあ、聞かない方がおかしいだろう。

 それに、今の正龍は顔を隠している。

 怪しさ満点だ。

 メディアもいるし、警察がいる状況でそうそう顔をさらせないのもあるだろうが。


「じゃあ」


 それだけ言って早々に彼は去っていった。

 他のダンジョンに忍び込むのかはともかくとして、ここにいれば、少なくとも警察署には連れてかれるだろうしな。

 ただ、そんな様子に「ああ!」と声を漏らす警察陣だが、仕方ないとばかりに肩を落とした後で俺に話しかけた。


「一つ聞きたいのですが」

「?」

「ここにあるダンジョンゲートは、ギフトを持ったとは言え、レベルアップもしていない少年一人が対処できるようなものなんですか?」


 まあ、確かに当然の疑問だろう。

 だって、それならどう考えたって、訓練のしている警察が入った方が確実に対処できるのだから。

 でも、俺は首を振った。


「多分できません。でも、あいつは、運も才能もあって、しかも、こういう日が来るのを見越してスキルの使い方を試行錯誤してたんじゃないですかね」


 俺は、木の上で見張っていた時、正龍が複数のスキルを使っていたのを見ていた。

 単純な二工程しかないように見えた戦闘だったが、奴は地面には罠、あるいは拘束系のスキルを使い、相手の動きの誘導などもスキルを駆使して行っていた。

 恐らく、少ない効果しか持たないであろうスキルの組み合わせで強敵に勝ったのだ。


 それ故に、道中でレベリングした程度の強さでダンジョンを攻略した。

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