十二話 協力要請
木下と名乗った男の首をはねた。
それに対して、思うことはなかった。
ただ、嘲るような、声を聴きたくなかった。
「…………は?」
だが、俺は転がる首を見てそんな声を出した。
まるで、切れた断面から蒸発でもしているかのように、煙が黙々と上がっていたからだ。
そして、段々と木下のか身体は煙に変わっていき、完全に姿を消した。
幻覚、複製隊、変わり身。
何でもいいが、その事実の表すところは、未だ木下が生きているであろうこと。
『地下駐車場大量殺人事件』
11月6日に起きたこの事件は、ギフトと言う存在が現れてから始めて起きた大量殺人事件だった。
海外では、テロや紛争、そう言ったものに活用されることが多く、その限りではないのだが、こと、日本においては、その国民性からかギフト所持者による犯罪は極めて少ないものであった。
そんな中、状況証拠的にギフトによる戦闘、そののちに行われた殺人事件として、世間は注目していた。
そんな話題は、今日も今日とてテレビに流れて、朝のニュースもそればかり。
そして、そんな光景を珈琲片手に眺めていた。
「で、これやったの正時?」
不意に、俺の対面、麻耶から放たれたこの言葉に、俺は珈琲を噴き出しそうになるのを我慢した。
「なんで、そう思った」
「今現在、日本には、ギフト所持者八人と渡り合って全部殺せるのは、正時だけ。まあ、一応もう一人日本にもいるらしいけど、その人は国と深く絡んでいるらしいから無理」
人を殺した。
などと、態々話したくはなかった。
人殺しと言う側面でも怖がられたくないという思いもあったが、それ以上に、力を手に入れたとたんに犯罪を起こしたことは酷く滑稽だと自分でもわかっていたからだ。
ただ、麻耶はそんなことには興味の無いように見えた。
「で、どうやったの?」
「殺し方ってこと?」
「違う。未だにメディアが犯人不明って言ってる理由。正時の動きぐらいなら、国でも把握できているはず。それなのに、犯罪を起こしてなお実名報道はともかく、事実自体が秘匿されている理由」
まあ、確かにそうか。
少なくとも、地下駐車場にはカメラがあったし、それ以外の方法でも俺を割り出すのは簡単だ。
ギフトもあると考えれば、尚更に。
「実は──」
麻耶には話しても良いだろう。
そう思って俺は口を開いた。
あの日、木下の身体が消えてすぐ、接触があった。
スーツ姿の男たち、先ほどの件もあって多少警戒したのだが、国の人間だった。
そして、提案を持ち掛けられた。
「今回の事件。罪をなかったことにする代わりに、我々にご協力願えませんか?」
事件自体を、隠蔽することは難しい。
だが、その代わり、犯人である俺の罪をなかったことにしてくれるという。
犯人不明、あるいは、ギフトを使って犯罪を犯す凶悪犯に無理やり被せる。
何でもいいが、そう言った処置をしてくれるという。
そして、その代わりに、協力してほしいと。
「協力って」
「一応、信用できない奴以外にはあまり言わないでくれと言われてるんだが、国は、現在ダンジョンと呼ばれる空間を発見している」
それは、承諾した際に聞いた話だ。
ゲームやネット小説などでよく聞く、ダンジョン。
その形式は様々だが、そう呼ぶにふさわしい代物が、局地的ではあるが現実世界にも表れているらしい。
「今のところ、発見例は市街地にはないために、秘匿しているらしいが、時間経過とともに、数が増えると考えているようだ。人の目に触れる前に、そう言ったものを管理する機関をつくりたいんだとさ」
どうやら、発見されたダンジョンは、建造物が現れるタイプではなく、空間に歪ができてその中に出来る物らしい。
そこには、当たり前のように、魔物が湧いていて、ダンジョンにいるボスを倒すと消えるようだ。
「まあ、いわば、冒険者ギルドだな。そう言うのを作って、力を持て余すギフト所持者を制御する。本来なら、自衛隊などの限られた人員だけで何とかしたいとは言っていてけど。それは不可能だと見てるみたいだ」
そもそも、ダンジョンは突如として現れるという。
で、あれば、市街地に、日常的に現れるなんてことになった日には対応しきれない。
それに、もしもの時、魔物を倒してレベルアップ出来たものがいれば、自衛も可能だ。
そう言った考えのもとに、動いているのだという。




