ワシの石像を直すのじゃっ!! 2
「オブジェクトリカバーっ!」
「『ウォーターリカバー』っ!」
湖水地帯にあった傾いた台座のナリ・アンテラの石像を修復した。周りの水の淀みもいい感じに改善!
全方位に光の波が放たれ、この地の魔力の流れが整えられ浄められた。
「持田君、地上でも敵意探知いけそう?」
「うーん・・」
だいぶ慣れてきた俺のアビリティーで湖水地帯全域の敵意を探る。
「・・特に取り零しはないよ。近くの冒険者ギルドに浄化後の状況をざっと報せよう。『コール・ストレンジピジョン』っ!」
俺は契約している中型犬くらいの大きさのカラフルで、どっちかと言うと鶏に見える鳩の伝書モンスター、ストレンジピジョンを召喚した。
「ポポーっ!」
鳴き声がデカいっ。
ま、ともかく、マグネットタクトで片足に付けられた『ウワバミ筒』から通信書を取り出して拡大させ、『無限羽根ペン』も空間ポケットから出し、
「『ショートハンド』」
一瞬で膨大なデータを絵図付きで書き上げて縮小させ、ウワバミ筒に戻し蓋をした。
「じゃ、よろしく」
「ポポーっ!」
ストレンジピジョンは飛び上がりある程度飛行して速度が乗ると、テレポートして書き消えていった。
俺は2つ、近藤さんは1つ魔法石の欠片を使って魔力を回復させた。
「ローンドア大陸はあと6ヵ所か・・いいペースだよな? 近藤さん」
「うん」
紫水晶の城を出て今日で4日目、俺達は既に17箇所のナリ・アンテラ像を修復していた。
このペースなら全部片すのに案外2ヶ月掛からないかもしれない。
「ずっと野営してるから18箇所目は街か街の近くにしない? ずっと『ウォッシュ』の魔法で済ませてるけど、お風呂入りたいよ」
僻地は治安や衛生的にアレなんで、旅慣れてない俺達は田舎の宿に泊まるのをビビってやたら野宿していた。
2人とも都会っ子だからさっ。
「この世界の文明的に、まともな湯船やシャワーとなると発達した所か観光地だな。素で温泉があれば田舎でもありそうだけど・・」
俺は空間ポケットから、ワシの像直しの旅の栞、を取り出し確認した。
「ちょっと予定の順番と前後しちゃいそうだけど、このツサク地方のギムリ山脈に都市国家があって結構離れた火山から温泉の湯をパイプで引いてるみたいだ。石像も1つある」
「温泉かぁ・・ん?」
~の旅の栞のページを横から覗いて『多くは混浴か内風呂である』の文の件を目に止める近藤さん!
「持田君?」
「いやいやっ、あくまで『多くは』だから!」
ジト目で見られつつ、俺と近藤さんは『いい風呂』に入るべく、ドワーフ族の都市国家『エルトパーズ』を目指すことになった。断じて邪心は無いっ!
転送門を1つ経由し、昼過ぎには、飛行絨毯でローンドア大陸、ツサク地方、ギムリ山脈の一角までやってきた。
「あれだ!」
この辺りはワイアーム(手足の無い蛇のような下位竜)が多くて少し緊張したが、杖を構えて軽く警戒しつつ、高度を下げるとドワーフの都市国家エルトパーズがはっきりと見えた。
岩山の中腹にぽっかりお空いた巨大な横穴に都市国家が丸ごと収まっている。横穴の側面の多くツララのような巨石の柱で歯抜けになっていて、口を開けた巨竜のようでもあった。
人口は4万を越える。アマラディア世界の亜人種族の都市としては多い方だ。
「凄い! ゲームだったらラスボスがいそうだよっ?」
前から思ってたけど、近藤さん、結構ゲーム好きだよね?
「温泉地だけどさ」
「・・混浴はしないよ?」
「はいはい」
勝手に都市上空に侵入すると攻撃されかねないので、俺達はエルトパーズの城壁の外にある『飛行獣』等の着陸場へと絨毯を降下させていった。
ちょうど昼時ということもあって、街の大通りはかなり賑わっていた。
馬車や騎竜車(馬のように扱われている小型だが頑強な竜が引く車)が通る道と別れていることもあって、歩行者天国になっている。
道の左右には様々な露店商や屋台が出ていた。
行き交う人々の大半はドワーフ族だ。
成人男性は大体150センチメートル台後半。女性は前半。個人差はあるが全体的に骨太で軽量級の柔道やレスリングの選手みたいな体型をしている人が多い。
もちろん、特に鍛えてない人や年寄りや子供は別にムキムキじゃなかったが。
「文明は幕末から明治ってとこかな? 鉄道は無さそうだが」
「旅の栞の備考によると、産業用の『魔法式トロッコ列車』や『石炭式の魔力炉』があるみたいだよ?」
「へぇ? ドワーフ族は技術力あるから、ちょっと進んでるんだなぁ」
そもそもテレポート装置とかそこら中にある世界だしね。魔法が間に入ると、基準がグラグラしてくる。
「それよりもっ! 持田君、お昼食べたら温泉探すからね?」
「OK、混浴じゃないとこね」
実際、俺達はワイアーム肉のピザとルートビアで昼食代を取り、あるにはあった日帰りで入れる男女別の温泉にじっくり入り(この世界の温泉はガチで魔力と体力が即効で回復する!)、風呂上がりに近くの石の長椅子で自前の金属カップにテイクアウトした蜂蜜ミントミルクセーキを飲みながら紫水晶の城から大量に持ってきてる、たこ焼きを食べたりした。
「はぁ~、満足。私、もうこれで城に帰りたい」
俺もだが、満ち足りた顔でホカホカしてきる近藤さん。装備もウォッシュの魔法で綺麗にしているけど、今は貫頭衣(いわゆる『ぬののふく』)を着て楽にしている近藤さん。
「ははっ、俺も! ただせめて半分は終らせないと怒られナリ・アンテラに怒られちゃうよ?」
「・・あのさ、持田君」
近藤さんは急に真面目な顔をした。
「私、戦いとか、向いてると思うんだ。なんか、興奮しちゃうし。血が騒ぐっていうか」
「ああ・・」
確かに超回復のアビリティーがあるにしても痛覚はあるだろうに、近藤さんはガンガン攻めるタイプだった。
戦国武士の血か? おそらく元々アドレナリンが出やすいタイプなんだろう。
「俺は正直、未だに現実感薄いんだ。ただ元の世界に戻った時のことを考えると、近藤さんももっと回避やガードに気を付けて戦うようにした方がいいかもな」
「・・うん、だね」
そんなことを話したりして、俺達は食事と風呂を済ませた。
エルトパーズに設置された石像はちょっと特殊だった。高い建物からは石像が設置されている東屋は見えるのだが、『上』からそこへたどりつけない守りが施されていて、地表から正しい『入口』を通ってたどり着かなくてはならない。
都市の中に設置された為、無用な接触を嫌って守りを付与したようだった。
今ではたどり着けない石像の周囲には建物だらけになっていた。
夕方、旅の栞でカンニングできる俺達は(管理会社の人みたいなもんだよ)、ドワーフの子供達の遊び場になっている小さな広場の脇の廃材を退かした細い路地裏を進み、俺達のマントにも印されている紋章図案化した蛸のシンボルが描かれた壁の前に来た。
装備も今はバッチリ着込んでる。
「『リヴィル』!」
俺は千年杉の杖を振るって露呈魔法を使い、紋章の壁に隠された扉を出現させた。
「アンロック!」
近藤さんも一角獣の杖を振るって解錠魔法を掛け、扉の鍵を解いた。
鍵の解かれた扉は独りでに開いた。中は薄暗く、奇妙にねじ曲がった通路だった。
「ん~? 周囲の環境の変化と石像の劣化で通路が変質してるみたいだな」
「もう1段魔法必要そうだね。ライトボール」
近藤さんは照明魔法で作った光の球を操り、暗い通路に入れてみた。入口近くではなんともないが、進めるとグニャりと歪んで行き先が不安定になり、引き戻すのに近藤さんは少し苦労していた。
「入ってすぐに順路魔法か」
「あのレア魔法、クセ強いよね?」
「やるさ」
俺と近藤さんは光の球を1つキープしつつ、扉を潜って暗い通路に入った。
すぐに後ろで入口はしまって鍵が掛かった。うへぇ、ちょっとバグってるのに厳重だなっ。
「『ルートタートル』っ!」
俺が足元に魔法を発動すると、出現した淡く輝く幻の亀が、中々の速さで歪んだ暗い通路を物ともせず、走って進みだした!
「速っ?!」
「急ご!」
案内する亀は正解の道を示すだけでなく、通ったルートその物を少し間安定化させる。やたら速く進むのはそれだけ不安定な空間になっているんだろう。
亀を追って、暗く歪んだ道を抜けると・・
「眩し」
「あったよ! あれ?」
そこは多数の建物の壁に囲まれた石畳でできた中庭のような空間で、中央に今にも崩れそうに古びた東屋があり、そこに同じく古びて崩れそうなナリ・アンテラの石像があったが、
「・・人? ドワーフか?」
その足元に、座り込んで杖を持ったまま石化した女性らしいドワーフの石像が1つあった。
ナリ・アンテラの石像より劣化はむしろ激しい印象でだいぶ草が絡んでる。
「持田君、アレって」
光の球を消しつつ戸惑う近藤さん。
「ああ、・・マナサーチっ!」
俺はドワーフ像を探知魔法で探ってみた。間違い無い!
「生きてる! 恐らく、何らかの理由でここの歪んだ通路に入り込んで、ここまでたどり着いたけど帰る手立てが無くて、自分を石化して救助を待ったんだろう。ルートタートルは使える者が少ない」
「助けてあげよ、まず草を取らないとね」
「あ、でも、ナリ・アンテラの石像じゃないから、そんな強い魔法で石化した風でもなかったよ? 劣化がナリ・アンテラ像よりむしろ早いくらいだし、ちょっと慎重に」
「任せて! もう石像いくつも直したし、サイコキネシスっ!」
近藤さんは得意気にマグネットタクトに魔法を足して、高精度な念力でドワーフの女性に絡み付き浸食している草花を全て綺麗に一瞬で、鮮やかに取り払い、結果、
ボコォッッ!!!
「っい?!」
ドワーフの女性像は呆気無く砕け散った!!
「近藤さんっ! 補修っ!!」
「えっ??! はいっ、素材必要だよね? 霊薬? 不死鳥の羽根? 接着剤っ???」
近藤さんがパニクる中、砕けたドワーフの女性像に天から光がうっすら注ぎ、透けた姿の意外と若いドワーフの女性の魂らしいモノが穏やかな表情で天に登り始めたっ!
「『ソウルホールド』ぉっ!!」
俺は必死で霊体捕獲魔法で昇天しようとするドワーフの女性の魂を取っ捕まえて押し留めたっ!
「近藤さん早くぅっ! この人、逝っちゃうよっ!!」
「はわわっ??? これじゃないっ、これでもないっ」
近藤さんは空間ポケットから見当違いの素材や魔法道具やガラクタを取り出しっ、完全に混乱っ!
・・数分後、砕かれたドワーフの女性の石像は補修され、石像のドワーフの女性の魂は石像のドワーフの女性に戻され(ややこしい)、石像のドワーフの女性だった女性は意識を取り戻したっ!
ワイアームの鱗の前掛け(身体の前面だけ覆う鎧)、ワイアームの鱗のヘッドギアを被り、大きなリュックを背負い、左の腰のベルトには留め具で短剣の鞘を差していた。
右手には短い杖を握っている。赤い髪で、そばかすのある丸っこい顔付きの女の子だった。
「ううっ、ごほごほっ? なんか、すごく・・身体が分かれたり、縛られたりした気がする??」
「解放感ありましたね! 草が絡んだりもしたんでしょうっ! ねっ? 持田君っ」
「おおお、だなっ、近藤さん!」
「モチダ? コンドウ? ・・はっ!」
女性はようやく我に返ったらしく、跳ねるように起き上がったっ。
「生きてるっ! あたい、生きてるっ!! やったぁーーーっ!!! あたい優勝ぉーーーっ!!!」
本格的に跳び跳ねて大喜びしだすドワーフの女性、というか女の子かな? 同年代に見えた。
「優勝なんだ?」
「・・なんか、どっと疲れたよ」
ドワーフの女の子は喜び続け、俺はなんかの競技だったのか? と困惑し、近藤さんはグッタリとしていた。




