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「言葉はいらない」
蓄えもない 日々の暮らしを
思い煩うことはなくなった
辛い記憶の中に 浮いて沈んだ
幾つかの名前も 顔も
思い出すことはない
何も持たず 生まれ また
一つ一つ手放して まっさらになる
あなたは 風のように自由に
生きたかったかも知れない
海のように爽やかに
生きたかったかも知れない
裏切りと貧苦に喘いで
故郷を捨てるような生き方を
したくなかったかも
知れない
傍らに 娘がいる事に
たった今 気づいたように
あなたは微笑む
「今日は いい天気」
それだけを 告げる
大部屋の片隅
病み疲れた父と
在ることの意味を探す娘
零れ落ちる時を
見つめる二人に
もう
言葉はいらない




