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「猫は ーその時ー」
猫は 待っている
十日前までは 餌皿の前まで行った
数日前までは 水皿の前まで行った
もう食べたいとも 飲みたいとも
思わないことが 不思議で
長い間 皿を見つめてた
二日前までは 休む場所を変えた
窓際の陽だまり 押入の隅の暗がり
飼い主が名前を呼ぶ声を
まどろみの中で 聞いていた
今日は 体の向きを変えるだけ
飼い主が用意してくれた寝床は
大好きな段ボールにいつもの毛布
猫は 待っている
雨に濡れた 段ボールの中から
自分を抱き上げた手 それからずっと
一緒にいる飼い主の 優しい声に包まれて
もう 目覚めなくていいときを
痩せて骨が浮き出た体を
撫でる その柔らかな手の平は
暖かい哀しみに 満ちているから
猫は 待っている
安心して 待っている




