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「ある日」
私が母を殺した日は
雪など降っていなかった
滲みるような空でもなかった
私が母を殺した日は
ありふれた昨日が
今日に変わっただけだった
親であることも 妻であることも
脱ぎ捨てて
幼い私に 犬のように
「待て」をさせて
歩き去った
遠ざかる背の 微かな記憶
それから
母は鎖のように 重かった
いくつかの手続きと
無機質な時間を経て
失踪宣告が 成立した
もう どこにもいない
戸籍もない 名前もない
私が母を殺した日は
戸籍謄本に引かれた
黒い抹消線を
身じろぎもせず
見つめた日
伊東静雄賞 佳作




