91.ペット
よろしくお願いします。
「グラド、お前まさかとは思うが、そのままビーランド王国の城を占拠してたのか?」
「呼ばれてそのまま命令があるまで待機しておりましたが、何かありましたか?」
肩に乗った竜がちょこんと首をかしげている。
だが、その言葉の内容に、俺は思わず上ずった声をあげていた。
「はあ? 10年以上だぞ?! ずっと待ってたのか??」
「まあ、時には城の者たちが供物を捧げてくるので相手もしておりましたが。基本的には場所の移動はありませんな」
どこか誇らしげに話すグラドに俺はがっくりと項垂れた。
供物を捧げられて相手をするって、つまり討伐依頼が出て誰かが退治しようと向かってきたけれどそれを返り討ちにしていたということだろう。
「それで、竜殺しのオレに依頼が回ってきたんだ。城の兵士も周辺の冒険者もみんなコイツに殺られたらしい」
顰め面の少女とえらく得意げなドラゴンというシュールな絵面に、俺は呻くように告げる。
「とにかく今すぐ証明書を発行してやる。ダグラス、市長とギルド長とどっちから出すべきかな?」
「この場合は、市長名の方がいいんじゃないか? 一国の王相手なんだろう」
「じゃあ、アリッサに報告だな」
「転移するなら、俺はこっちに残る。門付近も人が集まってるし、この穴だらけの土地の修復依頼も出さないといけないしな。確認が終われば戻るよ」
ダグラスが周囲を見回してため息をつく。
それに了解と伝えて、俺は転移魔法を使った。
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市長室に転移した俺は、自席についていたアリッサを見やった。
「市長、門の騒ぎは大丈夫でした?」
「犯人はコイツらなんだが、ひとつ仕事を頼みたい」
「なんですか?」
「俺の肩に乗ってるドラゴンが無効化したとする書類を作ってほしい。で、こいつに渡してくれ」
周囲をきょろきょろとしていた少女を示すと、彼女はびくりとしてアリッサを見つめた。
「はい、わかりました。公印使いますね」
「ああ」
公印は市長の許可が下りたことを示すハンコだ。
魔法処理を施されているので、偽造防止にもなる。
アリッサが席に戻って書類を作成するのを確認すると、俺は少女に向き直った。
「さてと、おい―――あ、名前はなんだった? 俺はクロゥイン・キップだ。ここの(仮)市長をやっている」
「ネロ」
「じゃあ、ネロ。ここに座ってちょっと待ってろ。今、アリッサが書類を作ってくれるから」
続きの間の応接セットのソファを示すと、少女は言われた通りちょこんと座った。
「ジュースでも飲むか?」
「見かけほど、子供じゃない!」
「いや、悪い。獣人なんだったか?」
「小娘は、竜人ですぞ。まだ幼いようですが」
「竜人?」
グラドの説明にふうむと俺は唸った。竜人とは竜と人との間に生まれた子供だ。冒険者にも1人か2人ほど知り合いがいるが、珍しい種族ではある。
基本的に身体能力は高く、魔力量も豊富だ。だが、竜になれない竜人を竜たちは蔑視し、人より長命なためあまり人間にも寄ってこない。どちらかといえば、単独で行動していることが多い。
魔力量はあるが、グラドに傷一つ負わせられない程度でなぜ一人旅をしているのか、気にはなったが竜人だったのなら納得できる。
「まあ、こいつを連れてきてくれてよかったよ。まさか、ビーランド王国の城を壊してそんなところで待ってるなんて思いもしなかったからな」
召喚獣は呼び出すときに魔力を消費するが、元の場所に戻す際にも魔力を消費する。グラドが現れた時点で、すぐに俺たちは逃げ出したので、ずっとそのままだったというなら、俺たちに追手がかからなかったのもうなずける。俺たちを探し出して戻すような余裕など、竜に対峙している時点でなかったのだろうから。
「オレはそいつを斃そうとしただけだ。コイツが勝手に飛んできたんだ」
「小娘の黒髪を見たら、主さまを思い出してしまって…こうして飛んできた次第です」
ネロの頭は銀色と黒色のまだら色だが、どちらかといえば銀色の方が多い。
それなのに、黒髪に反応するのだから寂しかったのかもしれない。放置して悪いことをしてしまった。
「グラド、好きな場所に送ってやる。どこに行きたい?」
「主さまのお傍がいいです」
「え? 俺もうペットいるから、これ以上はいらないんだけど」
「そんな! ようやくこうして出会えたのにすぐに主さまから離れるなんて嫌です」
「市長、書類の文面ですが、市長がペットとして飼うことにしたので無力化されています、とした方がよろしいですか?」
アリッサが顔を上げて、俺の指示を待っている。
いやいや、待て待て。
その文面おかしいから。
絶対に俺はグラドを愛玩動物とは認めないからな!
お付き合いいただきありがとうございました。




