90.黒竜(ネロ視点)
竜人のネロ視点です。
よろしくお願いします。
獣人が多いこの世界で、竜人の数は非常に少ない。
竜人は純粋に、竜と人との間で生まれた子供のことだからだ。
竜の個体数が少ないうえに、繁殖能力が低いため、竜と人がつがっても子供が生まれることが少ない。そもそも竜という特別な種族が人間を好むことが珍しい。
異種族間で姿が違う者同士の繁殖行為も出生率低下につながっている。
卵で孵るドラゴンの種が、人間の女の胎に着くのだから確率が低いことはわかってもらえるだろう。
だから、ネロは自分以外の竜人にこれまで会ったことはなかったし、周囲が蜥蜴人だと勘違いしても訂正したこともない。仲間を持ったことはないし、いつも独りでいた。
ほかの竜人を知らないのでいくつまで生きられるのかは知らないが、長命ではあるようだ。
自分で年齢など数えていないけれど、鑑定されたときに年齢が40歳となっていて、鑑定した者が驚いた様子だったので、見かけ上年を取りにくいようだった。
長年、独りでいたネロだったが、たった一つだけ心に誓ったことがあった。
それは人間である母を殺した、黒竜を斃すことだ。
ネロの父親が黒竜だった。つまり、母は夫であるはずの者に殺されたことになる。だが、まったく不思議な話ではなかったし、母も父に殺されることをずっと覚悟していた。
そもそも、黒竜は残虐で嗜虐性が強い。言葉より行動で示すことが多く、気分屋で狂暴だ。
母を気に入って傍に置いていたというよりも、気まぐれに捕えてたまたま孕ませただけのようだった。けれど、母は気丈な女性だったようで、自身の胎で大きくなる子供の命を救おうと身重でありながら黒竜の住処から逃げ出して村里でネロを産んでくれたのだ。
そして、そのまま村里に住み着いた。つつましやかな母娘の生活は貧しいけれど、穏やかに過ぎて行った。
ネロが5歳になるまでは。
ネロが5歳の頃に、黒竜が思い出したかのように母の前に姿を現したのだ。
自身の子供になどまるで興味を示さず、母を食らい村里を壊滅させるとさっさと姿を消した。
残されたのは手の施しようのないくらいに荒れた村と、数人の村人だけ。
もちろん、原因とみられるネロが住めるはずもなく、逃げるように村を出て森をさまよい飢えを凌ぐ。
母との思い出だけを頼りに、なんとか生き延びて体がそこそこ大きくなった頃、黒竜を斃すすべを学ぶべく人里へと向かった。
そこは獣人の集落で、狐人から気功術なるものを教わり、冒険者として一番近い国に登録した。それなりに日々の暮らしを送れるほど稼げるようになったが、黒竜を斃せるほどの実力ではないことはわかった。
だからこそ、しばらくは大陸をウロチョロしていた。
そんな時に、また黒竜に出くわしたのだ。
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