92.銀色
よろしくお願いします。
とにかく、問答の末に、グラドはしばらく俺の肩の上で落ち着くことになった。すっかり俺が押しきられた形だ。アリッサは格好いいだのと誉めてくれたがそんなことで簡単に騙される俺ではない、はずだ。
なんとなくいい気分になってしまったのは内緒だ。
ただし、俺の中でペットはふわもこのマヤだけだ。それは譲れない。
「ネロはこの後どうするんだ? すぐにビーランド王国に戻るのか?」
「まあ、仕事が完了したなら戻るけど」
「よければ、転移で行きたいところまで送ってやるぞ?」
「怖いからヤダ」
え、怖いの?
というか、先ほど市長室まで転移した時には静かだっただろうが。
もしかして怖くて声が出なかっただけなのだろうか。
それとも近い距離なら大丈夫だが、遠い距離には不安を感じるという話だろうか。
「いや、何も怖くないだろ。さっきも平気だったんじゃないのか?」
「絶対ヤダ」
かたくなな様子に、俺のいたずら心がむくむくと湧き上がる。
「ふうん? じゃあ、試してやろう」
いうが早いか、ネロを抱き込むとそのまま転移魔法を唱えた。
「は、あ?」
降り立った場所で、ネロが目を剥いている。
一面の砂。見渡す限り、地平線の向こうまで続いている。
「熱い…」
「さっきの場所から馬車で半年進んだ場所だ。な、距離が遠くなっても怖くないだろ? どこに行きたいんだ?」
ネロはおもむろにしゃがみ込むと、砂を掴んで俺に投げつけた。
物理攻撃はそのまま無条件で跳ね返る魔法がかかっている。
ネロの投げた砂はそのまま彼女へと向かった。
「ぶふっ!」
「あ、いや、悪かった、のか? 俺には反射の魔法がかかってるから、たいていの攻撃は自分に返ってくるぞ…って、大丈夫か?」
そよ風の魔法をネロに唱えながら、頭から砂をはらってやるとネロの銀色の瞳から大粒の涙がこぼれる。
あとからあとから流れるそのしずくに、俺は慌てふためいた。
「目にも入ったのか?」
ネロはそのままうーうー唸っているだけだ。
わけがわからない。
仕方なしにひょいと小柄な体を抱き上げて、マヤにするように片腕に座らせると空いた方の手でゆっくりと頭をなでる。ついでに洗浄の魔法と回復魔法をかけておく。
「よしよし、もう痛くないぞ」
「子供扱いするな!」
「泣いてりゃ、どっちも同じだ」
泣きながらも怒鳴るのだから忙しいやつではある。
俺は思わず苦笑した。
「悪かったよ、嫌がってたのを無理やり連れてきて」
ぽんぽんと背中を叩くと首筋に顔を埋めたネロが呻いた。
さらりと銀色と黒色の髪が首筋をくすぐる。
銀色と一口に言っても色々な色合いがあるのだと知った。
ネロの髪も太陽の光に反射してキラキラと輝いているが、反射しているせいか白に近い色合いに見える。狼の毛艶は同じ銀色でも虹色の虹彩を放つ。
ベッドにおいて来た時にはまだ寝ぼけていたが、きちんと目覚めただろうか。
思考を半分遠くに飛ばしながら、俺は耳元の声を聴く。
「だって…」
「うん?」
「オレ、行きたいとこ…ないっ」
「そうか。なら、フェーレンにいてもいいぞ。好きな時に出て行ってもいいしな」
がばりと顔を上げて、銀色の瞳がまん丸く見開いている。俺の瞳をまっすぐに見つめてくる様子に、安心させるように頷いてやる。
「な、んで…?」
「住民を増やしているところなんだ。冒険者なら大歓迎だしな。そのかわり、こき使うぞ?」
にやりと笑えば、ネロはもう一度頭を俺の首筋に戻した。
「お前、笑わないほうがいいぞ。怖い」
「うるさい、余計なお世話だ!」
親切にしてやった恩を精神攻撃で返すのはどうなんだ??
お読みいただきありがとうございました。




