88.召喚獣
「お前ら、本当にいい加減にしろよ?」
俺は目を吊り上げながら、南門の前に立って正座した三人を見つめた。いや、うち一匹は正座はせず首を下げているだけだが。
南門の出入りすら難しくなるほどの巨体なので、横にどいてもらっているが。それでも邪魔なことには変わりない。
ところどころ焦げているのは、隔壁とドンパチやった証拠だろう。
地面も抉れているところをみても、派手にやったらしい。
「ダグラスがついていながら、どういうことだ?」
「いや、これは俺の手には余るというか、そもそもクロゥインも悪い」
「はあ? 俺が何したって?」
「このドラゴン、お前の召喚獣だろうが。あの日以降放置するからこうしてやってきたんだろう」
「召喚獣?」
俺はポカンと、ドラゴンを見上げる。
青灰色の巨体のくせに黄金の瞳に浮かぶのはしょぼくれた光だ。
自信のなさそうな情けない顔で、ドラゴンは俺を見てくる。
「いやいや、記憶にないけど?」
「ほら、クロゥインが初めて召喚ができるようになったって喜んで、なんかの打ち上げの場?で呼び出したことがあっただろうが」
「はあ?」
「あれは、確かレミアルとサジェストもいたけど、アーベインはいなかったからビーランド王国らへんをウロチョロしてた時か? 魔物の討伐…いや、違うな、どっかのお姫さんの救出?の打ち上げで、城でほらお祝いの祝宴があっただろう」
「あ、ああ。あのいけ好かないじゃりガキ…ああ姫さまな」
わがまま放題で育った辺境の小国の姫で、救出されても文句ばかり言っていた。
やたらとダグラスにはなついていたのも腹が立つ。
ご友人は選んだ方がいいだの、冒険者風情ではダグラスが誤解されるだのと余計な忠告ばかりしていた。
「あーそうか。あまりに腹が立ってむしゃくしゃしてたから、召喚獣でも呼び出してやれって…あの、城を半壊させた…」
だんだんと思い出してきて俺の言葉は小さく消えていく。
確かにあの祝宴の日、姫の無事と救出した英雄たちを祝うとかでクロゥインたちも城の大広間に集められた。贅沢な食事が並ぶ舞踏会で、貴族に冒険者がこのような場にこられることを名誉に思えとかなんとかケンカを吹っ掛けられたのだ。
国王に余興と称して、召喚獣を披露した。
あっさりと城を壊せる大きな召喚獣だった。
みんなで逃げ出したのは言うまでもない。
それからは一切あの辺境の小国には近寄らなかった。なぜか、お尋ね者になることも追手がかかることもなかったので、記憶の彼方に封印した出来事だ。
「え? グラド?」
名前を呼べば、嬉しそうに黄金の目を細める。
「ああ、我が主さまよ! しばらく呼んでもらえないのでこうしてやってきてしまいました。お変わりないようですね」
「あ、ああ。まあ、そうだな、変わりはないかな」
グラドに出会ったときはまだ単なる冒険者で、それから仮魔王だの仮ギルマスだの、仮市長だのの役職は就いたが俺自身には変わりはない。
「んん、いや、魔力量が大幅に増えておりますが。ああ、主さま、お人が悪い。さらなるお力を得られた至高の存在よ。ぜひ、このまま僕をお傍においてください!」
「いや、こんな大きなペットいらないけど」
「大きさが問題ですか? ならば小さければよろしいか?」
「召喚獣がベッタリ傍にいるのはどうなんだ?」
「俺は剣士だからよく知らないが、召喚士によるんじゃないのか?」
力がある召喚士なら召喚したままの状態でも困ることはないだろう。
「そういや、アレンダランが召喚獣に世話焼かれてたじゃないか。ほら、シャドウを連れたロンダランゼットの冒険者だったやつ」
「ああ、そんなやつもいた、かな? でもシャドウとドラゴンじゃだいぶ違うだろう」
「大きさだけの問題の気もするがな」
大らかなダグラスにとってはそうかもしれないが、繊細な俺は困る。
ような気がする。
とにかく邪魔だ。
やはり、大きさの問題か?
「やっぱり面倒だから、帰れ」
「ええ? 主さまよ、そんな非情なことを言わずに!」
「はあ、仕方ないな。『タイニー』」
小さくなる呪文を唱えれば、ドラゴンはみるみる小さくなり、豆粒のようになった。
「あ、あれ?」
「相変わらず、クロゥの魔法はやりすぎだ。程度を考えろよ」
「あ、主さま! これほどの魔法が僕にかかるだなんて、信じられません!!」
「ドラゴンも文句言っているようだぞ」
小さくなったグラドの声は俺にしか聞こえないようだ。ダグラスが明後日な方向で苦情を言っている。ドラゴンは喜んでいるので放置したいところだが、このままだと踏みつぶしてしまう。
仕方なく大きくなる魔法をかければ、手のひらサイズに落ち着いた。これで文句ないだろう。




