79.里帰り
よろしくお願いいたします。
「ひとまず片付いたということで、次の議題に移りましょうか」
気絶していた市長たちを魔法で起こすと、皆一様にきょとんと眼を瞬いた。
ひとまずザイアス侯爵が議題の終了を告げれば、サンダルキア副市長も次を促す。
ようやく議題が移る。
なんのためにこの会議に出席したかわからなくなるところだった。
「では、次は(仮)フェーレン市長クロゥイン・キップさま、どうぞ」
「フェーレン市は、二月後に市主催の街コンを開催する予定だ」
「街コン?」
不思議そうにつぶやく声に、俺は胸を張って答える。
「フェーレン市で、大規模な合同コンパを開催する。フェーレン市の合同コンパ、略して『フェレ・コン』だ。参加者はどの市に住んでいてもいい。年齢も問わないが、まあ常識はずれでなければ構わない。希望するならば、期日にフェーレン市までくること、だ。ただし、一つだけ条件がある」
俺は、一同を見回して、重々しく口を開く。
「剛胆で、怖がりでない者を頼む。命の保証はしてやるけど、安全は確実ではないからな」
本当にこれ重要だから。
ポカンとした顔をするのはやめてほしい。
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事の起こりは、半月前になる。
マヤを連れて人狼の里に見舞いに行ったのだ。
ある朝、何かの話の拍子に行こうか、ということになった。半分以上は仕事をしたくなかったからだが。
マヤと深淵の大森林の入り口に転移し、人狼で『サーチ』をかける。反応があった場所に転移すると、丸太を組んだ大きな門の前に立つ。器用に組まれた門と続く塀を眺め思わず感心した。
「な、何者…巫女さま?!」
門の横に立って見張りをしていた人狼が、驚きからか茶色の毛を逆立ててマヤを凝視した。マヤは、俺の背中に隠れつつ、顔半分を出している。
お前は人見知りの子どもか。
「巫女さま、ご無事で何よりです! 里長のところにご案内しますので、こちらにどうぞ。魔王さまも、どうぞ」
普通に魔王呼びされてとまどいつつも、門番の人狼は茶色の大きなしっぽを振りつつ、門をくぐるので、それに続く。開けた場所には囲うように家が並んでいた。それなりに頑丈な造りだ。
「マヤはどこに住んでいたんだ?」
「マヤはあっちにある石の神殿だよ」
マヤが家の間にある白い建物を指差す。
なるほど、巫女だからか。
神殿の手前にはやや大きめの家があった。マヤに聞くと、里長の家だと教えてくれる。
そちらを見ながらも視界の端には人狼が、映る。遠巻きに人狼たちの視線も感じる。
しかし、俺たちが進むたびに、しっぽを巻いて逃げ出したり、青い顔して震えているのはどういうことだ。
「魔王さま、もう少し魔力を抑えてくれませんか? 威圧で、里の者が怯えているから」
里の奥から飛び出してきた黒い毛色の人狼が、俺の前で頭を下げる。見覚えのある大柄な人狼だ。よく見れば、耳の横に小さな傷がある。レッド・カーニバルの際に話しかけてきた人狼だろう。
「どうやって、魔力を抑えるんだ?」
「あ、無意識なんですか」
諦めたように息を吐いた人狼に、少しだけ申し訳なく思う。俺だって無駄に怯えさせたいわけではないのだ。普通にしているだけなのに、そんなに悲しげな瞳を向けないでほしい。
「ところで、魔王は仮の立場で一時的なものだ。名前で呼んでくれ」
「え? あ、あの、誰かに斃されるつもりがある、と?」
「俺より強いやつがいればいつでも譲るつもりだ」
「ああ、なるほど。つまり、譲る気はないってことですか」
え? なんで納得されるのか、わからない。
譲る気はある。そもそも人間ってだけで、魔族は気に入らないのではないのか。
気にしないのかな?
「名前で呼ばせてもらえる名誉は、もっと力をつけてからでお願いしますよ。改めまして、俺はワルムといいます。里長のところに案内しますので、ついてきてください」
茶色の人狼がワルムに頭を下げて、門の方へと戻っていく。見張りが持ち場を離れるのはよくないよな。
しかし名前は丁寧にお断りされてしまった。
そういえば、デミトリアスたちも俺を名前で呼ばない。
魔族なりの何かルールがあるのだろうか。
マヤに目を向ければ、きょとんとこちらを見つめている。
「どうかした、クロ?」
「いいや、なんでもない」
名前の短縮呼びだが、マヤは俺を普通に呼んでいるが。
考えているうちに、里長の家に着いた。
「里長、魔王さまを案内しました」
「おお、わざわざ家にまでご足労いただきありがとうございます。人狼の里長フェルムと申します。今、お茶を淹れましたのでどうぞ」
すっかり迎え入れが整えられたテーブルを挟んで里長と対面する。
小柄な白毛の人狼だ。
年は感じさせるが、雰囲気は重々しく貫禄がある。
人狼をまとめるのも大変なのだろう。
脳筋の集まりっぽいしな。
「突然、すまないな。少しマヤのことで聞きたいことがあって」
「どのようなことでしょうか」
「巫女、というか最古の血統についてだ。俺がしっておくべきことがあるか?」
朝食を食べているときに、巫女はどういう仕事をしているのか聞いたところ、マヤは神殿にこもって祈りを捧げていたと話した。今でもやっているそうだが、場所が違うと効果がないのか、それとも場所が違ってもいいのか。そもそも神殿からほとんど外に出たことがないというマヤが、フェーレン市の市長館で暮らしていていいのかも疑問だ。
ようやくそのことに思い至って、マヤのことを聞きがてら里帰りとなったわけだ。
「魔王さまは、最古の血統についてはどれほどご存知でしょうか?」
おお、デミトリアスの前では一度も聞けなかった話を聞かせてくれるらしい。ありがたいことだ。
これであの側近悪魔に怯えなくて済む。
「ほとんど知らないな。神に仕えていた生き物なんだろう?」
「ええ、この大陸を興した創造神が最初に造った生き物だと言われています。竜、悪魔、人狼、魔女、バンパイア、神鳥、巨人の7種族がいて、それぞれが神から与えられた不思議な力を有していたと伝えられています。神の声を直接聞くことができるというのも、能力の一つですな」
「どういうことだ?」
「神は膨大な魔力量を持っていたため生半可な存在は近寄ることもできません。声を聴くだけで消し飛んでしまうと伝えられています。声や音は魔力を伝達する媒体ですから。最古の血統は魔力耐性がとても高く、他者の魔力の影響を受けにくいのです」
たいていの魔族が俺に恐れて近寄ってこないが、俺の横でマヤが平然としているのを不思議に思っていた。彼女が物凄く強いわけでも鈍いわけでもなく、魔力耐性が高かったのか。デミトリアスと同じだな。
「最古の血統を継ぐ者は体に特別な印を持って生まれます。人狼の場合は銀色の体毛ですかな。竜は金色の逆鱗、悪魔は紅玉の瞳、魔女は虹色の虹彩、バンパイアは紫紺の爪、神鳥は首周りと手足が黒く、巨人はアクアマリン色の髪と言われていますが、詳細は不明です。能力も種族によって様々ですが、総じて不老不死を得られると言われていますね」
知り合いの特徴に似ている気がするが、気のせいだろう。
本人たちからは、そんな話は聞いたことがない。
しかし、不老不死とは。
生まれかわりがあるくらいだから、本人たちは永遠の命を持っていないだろうが、本当に他人に与えることができるのか疑問だ。
「なので、不老不死を望む輩から守るためにも巫女には神殿にこもっていただいたのですが、結果このような事態になりまして、面目次第もございません」
「まあ、結果的には無事だったんだから気にするな。それより、マヤが神殿でやっていた祈りってなんだ?」
「祈りは精神統一をはかり魔力の安定と術を行使しやすくするためのものです。術は、最古の血統である銀の人狼に伝わる『幸運』です」
「幸運?」
「今回の襲撃で命を落とした者がいなかったのがその証拠かと。まぁ『幸運』というのは後でそうかなと思う程度のものですが、ありがたいお力です」
だから、マヤは銀の巫女と呼ばれるのだと納得した。
だからといって帰すことはできないが。せっかく手に入れた抱き枕兼ペットを手放してたまるか。
「巫女さまが望まれるのであれば、我らに否やはありません。たまに顔を出していただければ里の者は喜びますが」
「分かった」
「それと、魔王さまに相談したいことがあるのですが」
「なんだ?」
「バンパイアの始祖さまが亡くなられたのはご存知かと思いますが、新しい始祖さまがお生まれになったのです。そこで伴侶を探していただきたいのです」
何から何まで俺の中でハテナが乱舞する。
バンパイアの始祖?
亡くなって新しく生まれた?
生まれたばかりで伴侶が必要?
しかしバンパイアの始祖というのはどこかで聞いたような?
気のせいか?
「それで、ついでといってはなんですが、我が里の者にも伴侶を娶らせたく思いまして、ぜひ魔王さまのお力をお借りいたしたく…」
さっきから俺に一体何の関係があるっていうんだ?
お読みいただきありがとうございました。




