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よろしくお願いいたします。
市長会議の2日目が始まった。
2日目の議題は北部都市からの議案だ。
フェーレン市は一番最後になる。
ちなみに、1日目の南部都市の議題は、魔物の被害にあった建物の修繕費の補填がどうの、王都への人口流動率が増しており人材がどうの、落ちた橋を架けなおしてほしい、道を新たに設けてなど要望の嵐だ。
助けられる市があれば、援助を申し出、自分のところにも同じような話があれば対応策をだし、そうして1日の会議が終了したそうだ。
デミトリアスと一悶着あったプート・エキサイトは、会議自体は大人しくしていたらしいが、どうも彼が興味があるのは失踪事件とサンダルキア市を半壊させたデスマウスらしい。
どちらも関わっている俺としては、できるだけ関わりたくないのだが。
本日も熱烈な視線を感じるところをみると、逃がすつもりはないようだ。
確かにデミトリアスに通じる容姿をした男だ。というか、魔力の様子から魔族、それも悪魔だろう。
なぜ悪魔が堂々と市長会議なんぞに参加しているのかは不思議だが。悪魔が市長をやってメリットがあるのだろうか。
まぁ、人間で仮の魔王をやっている俺には言われたくないだろうが。
デミトリアスのように主が受けた仕打ちの報復というわけでもなさそうで、やはり目的がわからない。
「それでは、その線で行ってはどうですかね。まとまったところで、次の議題に行きましょうか」
サンダルキア市の副市長はのんびりとした性格の御仁のようだ。ゆったりとした微笑を浮かべている。聖職者でも通じるような好々爺だが、市長ほどの野心がないとは言い切れない。
「次は、バグロード市長アレンドロン・ミュウリッシュ・ザイアス侯爵どうぞ」
司会進行の女性が告げれば、サニーブロンドの髪をさらりと流して、さわやかに微笑む男の姿が目に入った。
市長の中では若い部類に入るザイアス侯爵は市民からの人気が高い。俺のように人相も悪くないので、彼のグッズなども飛ぶように売れるそうだ。
本当に、いけ好かない男だ。
「バグロード市の市長宛に、先日、このような物が送られてきまして」
ことりとザイアス侯爵は、テーブルの上に布で包まれた正方形の物体を置いた。しゅるりと布の結びめをほどくと、途端にざわりと俺の神経を逆なでするような嫌な気配がする。
「おい、それを開けるな。呪いがかかるぞ」
俺の静止の声と同時に彼は箱の蓋を開けていた。
ぶわりと濃い緑色の煙が周囲に広がる。
「契約を果たせ、対価を差し出せ」
「ここに示せ」
「ここに示せ」
煙を吸いこんだ者たちが虚ろな瞳で、唱えだした。ざっと見回して無事なのは、俺と加護の魔道具を持っているアリッサ、高位悪魔であるデミトリアス、同じく悪魔のプート。
そして―――。
「ザイアス侯爵、どういうつもりだ?」
俺は平然と場を見つめている侯爵に鋭い視線を向ける。
「先日、失踪された方の中に悪魔と契約された方がいたようですね。私も少し関わっていたもので、こうして白羽の矢が立ってしまったようだ。この箱を市長会議中に提出して蓋を開けろと渡されたが、どうにも処分に困ってしまって」
箱はすでに鑑定済なのだろう。でないと、戦闘職しか持っていないザイアス侯爵が呪いから身を守れるはずがない。だいたい、どこの市でも神殿はあるので神官に祈祷してもらえば、解呪はできるはずだが。
中身が何かわかっていて持ってきている時点で、箱を用意した者たちと同様に、罪だと思われるがこのまま放置するわけにもいかない。
「自分ばかり万全の対策をとってこの場に臨んでいるあたりで、有罪確定だろうが」
「ここにはご高名な方がいらっしゃるので、ひとつお任せしてみようかと思いまして。あなたなら簡単でしょう? キップ(仮)市長兼(仮)冒険者ギルド長?」
「依頼と受け取るぞ。俺を指名すると高くつくからな」
「同じ市長のよしみで割引をお願いしますよ」
何が同じ市長だ。
俺は仮の立場でしかないし、ザイアス侯爵自身が仮だと告げているではないか。それに、今は冒険者として扱われている。
どんな事態になっても落ち着いているところが、この男の腹が立つところだ。一度でいいから慌てるさまを拝んでみたい。
このまま彼の望みを叶えるのも癪にさわるが、もう一つ気になることもある。
「お前は、どういう立場なんだ?」
もう一人の悪魔に目を向ければ、彼は面白そうに笑う。
「僕は単なる見届け役だ。手を出すつもりはないから気にしないで欲しい」
悪魔の言い分を鵜呑みにするわけではないが、確かに彼からは仕掛けてくる様子はない。
「契約はなんだ?」
「それは、ザイアス市長に聞いてくれよ、僕は見ているだけなんだから」
契約は基本的には悪魔にとって有利になるように結ばれていることが多い。だが、契約内容を逆手にとって悪魔を追い込むこともできるため、契約内容をベラベラ話すとは思えない。
結果的に、落ち着き払っている男に視線を向ける。
彼は静かに首を横に振った。
「私はバグロード市の冒険者ギルド長を紹介しただけだからな。契約内容については知らない」
「まったく、役立たずだな! つまり、お前に聞くしかないわけだ、『コンフェス』」
余裕ぶって場を眺めていた悪魔が、一瞬にして顔色を変える。
俺の魔法に、驚愕しているようだ。
「バカな! 僕に呪いをかけるだと?!」
「呪いには呪いで対抗してやる。さあ、契約内容を聞かせろ」
ダグラスでもいれば、どちらが悪者かわからないようなセリフだとでも言っただろう。
にやりと笑ってやれば、なんでも素直に白状させられる呪いが聞いているプートはスラスラと答えた。
「幻獣3体を差し出す代わりに、銀の人狼を連れてくるように取引した。すでに幻獣は渡している。対価を差し出せ」
闇市のオークションで幻獣をさばいていたとはいえ、最古の血統なんて人間には馴染みのないものをウェルシー侯爵が知っていたことが不思議だったのだ。まさか、悪魔の入れ知恵だったとは。だが一方で腑に落ちたこともある。
マヤを保護した日に悪魔が監視していたのは、依頼の結果を見るためだったのだろう。
「銀の人狼をどうするつもりだ?」
「俺は知らない。主さまが欲しておられるのだから、黙って連れてくればいい」
「そうはいかないな。あれは俺の抱き枕兼ペットだからな」
「強欲な人間が不老不死の夢でも見たか!」
いや、マヤには癒ししか求めていないが。
それを目の前の悪魔に納得してもらうのは難しそうだ。
「俺の物を奪われるのは我慢がならないな」
「お前のものではない。我が主さまのものだ。対価が支払われなければこの場の市長たちは死ぬぞ。このまま見殺しにするのか?」
そうしても構わないが、この後の議題が進められないのも困る。
これ以上上位貴族の失踪が続くのも困る。
勝手にいなくなるのは構わないが、また俺のせいでいなくなると思うとさすがにツライ。回避できるのであれば、手をつくすほうがいい。
「仕方ないか。『ブレイクスペル』」
対象を絞らなくても、ぶわりとあふれ出た光は呪いを解除していく。
どさりどさりと机に倒れ伏す市長たちを眺めて、俺はプートを見つめる。
ついでにプートにかかった白状の呪いも解いているが、愕然と目を見開いている悪魔は気づいているのかどうかも怪しい。
「この程度で命をとったつもりになるのだから、最近の悪魔も優しくなったものだ」
「解いただと? かの方の呪いだぞ、人間ごときに解けるわけがないっ」
「我が主は、今代魔王ですから。さほど驚くことでもないかと…そもそも上位悪魔に呪いをかけられる人間など存在しませんからね。あなたも身をもって体感されたことでしょう?」
デミトリアスの発言に、プートは目を剥いたが、俺もぎょっとした。
「魔王、だと?」
言葉を発したのは、プートではなく、ザイアス侯爵だ。
聞き流してほしかったが、無理だったようだ。
だったら、訂正できるところはきっちりと訂正しておきたい。
「俺は仮の立場だ! 他に適任者がいるなら、いつでも代わってやる」
「そうおっしゃられて、もう10年ですから。諦めも肝心ですよ」
「うるさいっ、お前はこれ以上口を開くな!」
人の秘密をばらしておいて、しれっとした顔するのヤメロ!
「なるほど。デミトリアスがおとなしくしている時点で不思議に思っていたが魔王だったとはな。銀の人狼の居場所もわかったことだし、僕は報告に戻らせてもらうよ。また、改めて今回のお礼をさせてもらおう」
屈辱に顔を歪めながら、プートは立ち上がるとさっさと姿を消した。
悪魔が使える転移魔法だ。
爆弾をそのまま放り出すのはやめてほしい。
投げたのはデミトリアスだが。
「今代魔王は、沈黙の魔王と呼ばれているそうだが、まさか君だとはね」
「仮に、やっているだけだ。よそに吹聴するなよ、そっちが失踪事件にかかわっていたことをばらすぞ」
「困るのはお互いさまではないかな?」
確かにその通りなので、俺は思わずぐっと言葉に詰まった。
「ひとまず、依頼の報酬は無料にしてくれるだろう?」
本当に、いけ好かない男だ!
お読みいただきありがとうございました。




