77.市長会議2日目
よろしくお願いします。
「あれ、クロゥインくん、牛の被り物やめたのか。残念だな、すごく似合っていたのに」
出会い頭にアルトからしょんぼりされたが、心底がっかりしたように声をかけられた俺の胸中は複雑だ。
確かに、アスモデルは恰好いい。
それは認めるが、こうもがっかりされるといたたまれない。
しかし、牛の被り物とはどういう意味だ?
アスモデルは半牛半人の悪魔なので、被り物ではなく本物の頭なのだが。
「肩こりが解消したそうなんですよ!」
「は? 肩?」
「市長は黙っていてください!」
アリッサが必死で告げた言葉に首を傾げた俺をきっと睨みつけてぴしゃりと叱りつけてくる。
わかった。黙っていることが最善だということは。
有能秘書の意見には逆らわない。
だから、その怖い顔やめてください、アリッサさん。
「アリッサちゃん、おはよう。今日もかわいいね」
「おはようございます、サーヴィス事務補佐官。昨日はお忙しそうでしたのに、大丈夫なんですか?」
セイル・サーヴィス・マインデッド。
緑色の短髪に琥珀の瞳、柔和な顔立ちと長身とほとんどダグラスと一緒だが、軽薄そうな雰囲気をぬぐうことはできない。
とげとげしいアリッサの言葉にもめげずに眉尻をさげている。
「あれ、もしかしてヤキモチ? アリッサちゃんって本当にかわいいね」
鈍感なところもダグラスと似ているが、呆れるほどの前向きさはある意味才能なのかもしれない。
不快ではあるが。
「それよりキップ市長は噂のペットを連れて来てないのか。残念だな、心底見たかった。ぜひ撫でくりまわしたかったのに…」
噂のペットとはマヤのことだろう。誰が餌食になるとわかっているような場所に可愛い存在を連れて来ると思うんだ?
しかもマヤは市長館や冒険者ギルドのアイドル扱いでもある。今の発言は、熱烈な信奉者から八つ裂きにされかねない。
「アリッサ、今日の資料で確認したいことがあるからいくぞ。では、失礼しますね、アルト市長」
「ああ、いつもすまんね」
アルト市長が謝る必要はないのだ。馬鹿につける薬はないのだから。
しかしセイルは結婚しているはずなのだが、まったく結婚する前と態度が変わらない。
奥さんは相当に苦労していそうだ。
「そういえば、昨日デミトリアスは大人しくしていたのか?」
「心外です、マイ・ロード」
手綱を握るのが難しい部下というくくりでいけば、横に付き従う悪魔も同様だが。
いぶかしむ俺の視線にくだんの悪魔は傷ついたような声を出した。
「アスモデルが悪さしないように必死で見守っていた私をお疑いとは。詳細は昨日、彼女から聞いているでしょうに」
「聞いたが、イマイチ信用できないというか。アリッサにわからない範囲で、魔法かけたり報復してないよな」
「はははは」
「いや、笑いごとでなく!」
怪しい。
デミトリアスは幻術が得意だから、ひとまず魔力封じの面を被らせて送り出したが。
サンダルキア市にはとても腹を立てていたからな。ついてくるといってきかなかったし。
あの様子を思い出すだけで、こんな落ち着いて過ごしていることが謎である。
決められた席について、周囲を見回すと、幾人かの姿がなかった。
なぜか、会議室の職員も慌てている。
「定刻になりましたが、本日議長でもありますジェラス・クローバ市長の欠席のご連絡をさせていただきます。代わりに副市長のブロウト・レンジドアが議長を務めさせていただきますことご了承ください」
ほんと、何したんだ! デミトリアス…
お読みいただきありがとうございました。




