76.健全なペットライフの送り方
「今日はカルティアが悪かったな」
ベッドにごろりと横になると、ぎしりと軋む音が響いた。狼姿のマヤは丸くなりながら、俺の頭の上でしっぽを揺らす。銀色のふわふわした毛が頬を撫でる感触が心地いい。
温かなぬくもりが、心を落ち着ける。
「マヤ、パンケーキがおいしかった!」
「そうか」
彼女の認識としては知らない人がパンケーキをご馳走してくれたとなっているのだろう。なら、これ以上言うこともない。
マヤがいろんな人からお菓子を貰っているのは寝物語に聞かされている。甘い物に目がないことも知っている。
「今度、一緒に食べに行くか」
「お菓子?」
「ああ、食べたいものはあるのか?」
「ううん、クロと一緒ならどこでもいいよ」
俺はさして甘い物が好きというわけではないので、すぐさま思いつく店がない。
ここは社交性の高いダグラスやカルティアに聞くのが早いだろう。
あいつら、女子供が好きそうな店は国内のみならず他国だろうと詳細に知り尽くしている。
「じゃあ、明後日に出かけるか」
会議が終われば、しばらくは通常業務ばかりだ。
少しいなくなっても誰も困らない。
「うん!」
マヤがブンブンとしっぽを振りながら嬉しそうに笑う。獣姿でも表情が伝わるので羨ましくもある。
何故、俺の表情筋は仕事を放棄するのか。
困っているのに、仏頂面や不機嫌ととられるのは、疲れる。
今日の北部冒険者ギルド長会議を思い出しながら、思わず息を吐く。
明日の市長会議を思うと憂うつだ。
そもそも、ベルクが知っているくらいなのだから、情報が命の市長たちが知らない筈がない。
「残念市長ってひどくないか?」
思わず呟いたが、マヤは意味がわからなかったらしい。
「残念? クロ、残念じゃないよ?」
変態ロリコン市長と言われないだけましなのだろうか。
期待外れの変態で残念という意味だろうか。
何にしても俺は仮の立場なので、これで免責になっても一向に困らないが、手も出していないのに、ペットを可愛がっているだけなのに、この扱い、この誤解は正直いたたまれない。
ダグラスに言わせれば、昼も夜も体の関係を強要していると思われているらしい。
え、なにそのいかがわしい関係は?!
そんなの俺だってただれた関係だと、羨まし…ではなく、けしからんと怒りたくもなる。
だが、事実無根なのだから俺が気にしてもしょうがないのだが。
それに、昼寝はマヤが来る前から条例で定めていたはずだろうが。
なぜ、そんな誤解になるのか不思議だが、条例の撤廃案もあちこちで叫ばれているらしく、次回の市議会は紛糾するのではないかと言われた。
会議につぐ会議に息が詰まりそうだが、議題内容に頭痛がする。
切実に誰か代わってくれないだろうか。
そうしたら、マヤとの快適ペットライフが送れるというのに。
マヤの腹にぐりぐりと顔を押し付けると、やわらかい弾力が俺の顔を包む。
「んっ、くすぐったいよ、クロぅ」
甘えたようなマヤの声が、耳をくすぐる。
健全なペットライフを送っているのだが、どのあたりが誤解を招いているのか、真剣に教えて欲しい。




