75.市長会議の懇親会(アリッサ視点)
よろしくお願いします。
「こんばんは、お嬢さん。少し、よろしいですか?」
声をかけられて顔を向ければ立っていたのはプート・エキサイトだ。夜会用の服に着替えているが、キラキラした雰囲気は変わらない。
「ええ、なんでしょうか?」
「フェーレン市では今被り物が流行っているのですか。キップ市長も隣にいた事務官も顔を隠していたようでしたが」
「え、ええと、たまたま、そういう気分になってしまったかと思われます…」
うまい言い訳が全く思いつかず、アリッサは目を回しながら答えた。
どんな気分だと思わなくもないが。
「そうですか。ところで、あの事務官は名前をなんとおっしゃいますか?」
「え、彼ですか? 彼はーーー」
「市長のみならず、配下にまで気遣っていただきありがとうございます。申し遅れました、私はデミと申します。主からは『グラス磨きマスター』や『完璧ベッドメイキング』などと呼ばれております」
いつの間にか横にいたデミトリアスが、謎の自己紹介をしている。ちょっと誇らしげな様子だがグラス磨きなどは名前ではなく、クロゥインが褒め称えただけだと思うが、口を挟める空気でもない。
「ふぅん、デミさんとおっしゃいますか。私と面識ありません?」
「いえ、存じ上げませんが。どこかでお会いしましたか?」
「魔が月の丘で、白い花を一緒に見ませんでしたか」
「さて、心当たりがありませんが。誰かとお間違えでは?」
仮面をつけたままのデミトリアスの表情はわからないが、声は平静を保ったままだ。
だが、プートはニヤリと笑った。今まで上品な笑顔を浮かべていたのが、嘘のようだ。
「そうか、そうか。こんなところにいたんだな。久しぶりだっていうのに、仮面はとらないのか。相変わらず、失礼なやつだな」
「仮面は体の一部のようなものです、ご容赦ください」
しれっと嘘を吐くデミトリアスに困惑しながら、アリッサは成り行きを眺めるしかない。
「ふうん。では、この前の人間どもをどこへやったのかだけ、聞いてもいいか」
「市長が知らないと答えていたと思いますが」
「どこの誰とも言っていないが失踪事件と結びつけて考えるだけで、お前の仕業だと暴露したようなものだ。まあ、いいさ。僕もいろいろと忙しくてすぐには遊んであげられないからね。今後ともよろしく」
プートは笑って、その場を去っていく。
「忌々しい男が」
珍しくデミトリアスが悪態をついている。
いつも飄々としているところしか見たことがない。クロゥインが関わると恐ろしいほど感情豊かにはなるが。
基本的には冷静沈着な悪魔だ。
「お知り合いですか」
「まあ、少々。できれば会いたくはなかったですが。あなたも彼には注意したほうがいい。魅了を使いますからね。主が渡した魔道具を身に着けている間は大丈夫だと思いますが」
「ええ、と。了解しました」
アリッサは思わず背を伸ばしてきっちりと返事をする。クロゥインからもらった魔道具をつけて彼のいう魅了に掛かってしまったら、デミトリアスに殺されるような気がしたのだ。
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