74.会議後の鬱憤(デイツ視点)
ドルトミン市冒険者ギルド長デイツ・マグワイア視点です。
よろしくお願いします。
デイツ・マグワイアはがんとテーブルを叩いた。
北部冒険者ギルド長会議のために、オミ・レンスがとってくれた宿は二間続きの上等な宿だった。
自分のギルド長としての力を見せつけているのだ、とはギルド長の補佐をしていた男が教えてくれた。彼は隣の部屋に控えている。
冒険者のことなど何も知らないので、そういうものかと納得するしかない。
今この部屋にいるのは、軍の方の副官だけだ。冒険者ギルドの長になったからといって軍を疎かにはできない。そのため、常に部下に定時報告をさせている。副官はよくわきまえているので苛立ちを隠すこともない。
だがデイツの荒れ具合に彼女が横で目を瞬いている。
「どいつもこいつもっ」
備え付けの椅子に深く腰掛け、酒をあおった。
今日の話の内容を思い出すだけで胃がむかむかする。
北部冒険者ギルド長会議は1日だけだ。その後、議長のオミ・レンスが北部と南部の集まりであるガンダル王国冒険者会議で今日の議題を上げて話を詰めていくのだが、ドルトミン市の議題はどうも軽く扱われそうな様子だ。
会議後の懇親会と称した食事会の席ではレンスとベルクがあの忌々しい男に素材の依頼をしていた。ベルクが小僧というのもうなずける。
年は30歳後半のように見えるが、尊大で傲慢。目上や貴族などの階級を敬わない姿は、なるほど冒険者の長と納得できる。納得できるからといってこの苛立ちをおさめられるかといえば、また別の話だが。
デイツはマグワイア男爵家の嫡男だ。もともと騎士の家系で、父親も王都周辺の警備についている。根っからの軍人気質で政治は疎いため、辺境の砦に配置されて戦いに明け暮れる日々を送ってきた。
冒険者ギルド長なんてものになったのは、単純に人がいなくなったからだ。
ある日、ドルトミン市の冒険者ギルド長が隣国がけしかけた魔物の討伐で命を落とし、冒険者の兵を募りたかったデイツが名を挙げれば、少しの抵抗はあったもののあっさりと冒険者ギルドの長になることができた。冒険者ギルド側の歓迎はあまりないが、軍隊でも人間関係は複雑だ。元来、細かなことを気にしない性格のため、日常の業務は事務補佐官にほとんどを押しつけ日々を過ごしていた。
そして、今日の会議に出席したのだ。
冒険者など所詮、有象無象の集まりだ。パーティ編成したところで、数十人が集まるのがせいぜいだ。一個大隊を任されていた自分が指揮すれば、さらなる増強を期待できると踏んだのだが、あの漆黒をまとう男がことごとく邪魔をする。
さらに、彼自身は興味がないから参加しないとはふざけているとしか思えない。
力があるのなら有益に使うべきだ。それが、大きな力であるならば、なおさら必要とされるところで使うのは当然だ。なぜ、それをあやつらは止めるのだろうか。
魔道具一つにしてもそうだ。
あの男は魔道具師ということらしい。最初は魔法使いかと思ったが、転移魔法が使えるので空間魔法士の魔道具師なのだろう。
それを駆使してレッド・カーニバルを乗り越えたようだが、しょせん空間魔法士ができることは限られている。
補給物資を運んだり、奇襲を組んだりすればすぐに使えなくなる。
だが彼が開発したという転移魔法の魔道具があれば、魔力を補うだけで誰でも使える。大きな物体の転移には膨大な魔力が必要になるところは改良の余地があるが、実用化されれば、戦況など一瞬で逆転するだろう。
あの男はさらに設置型の火魔法の魔道具まで開発しているのだ。
戦争に役立てたいと思って何が悪い。
それをよってたかって、まるでデイツが悪であるかのように責められる。
なぜ、それだけの戦力を戦争に活かさないのか、理解できない。
「戦に勝ちたくない軍人などいるものか。勝てる策があるなら、使うべきだろうが!」
「ああ、フェーレン市の冒険者ギルド長とやりあったんですね。少佐は、『眠りのクロゥ』をご存知なかったのですか? 彼の戦争嫌いは有名ですよ」
「冒険者だろう? むしろ、なぜおまえが知っているんだ?」
デイツの副官はマルグレート・レッテという。レッテ男爵の三女で、女性騎士だ。デイツが辺境に飛ばされた5年ほど前からの付き合いになる。
彼女はずっとドルトミン市の国境付近に配属されていた。
自分よりも中央の情勢は疎いと思っていたが、そうでもないようだ。
「知り合いが、王都の騎士で。魔王討伐部隊にいたのです」
「ああ、あの…」
デイツは詳しくは知らないが選ばれた100人の精鋭騎士が10年前に魔王のもとに送られた。彼らは魔王討伐という目的を果たしたが帰ってくる者はいなかったと聞いている。
だが、それとあのクロゥインと何の関係があるのだ。
「その際に助っ人として一緒に送られたのが、彼だと聞いています」
「何? では、魔王と戦って戻ってきた者がいたのか?」
空間魔法士ならば、一人だけ逃げ帰ってくることも可能だろう。
つまり、とんだ腰抜けということか?
彼に力があるわけではなく、逃げるのがうまいということだろうか。
「そうですね。彼以外は皆、アンデッドになってしまって魔王と一緒に討伐されたそうですから」
「そうか。王国の精鋭騎士たちが。悼ましいことだ」
誰がその魔王を斃したのか、デイツは考えられなかった。
クロゥインは逃げ帰ってきた腰抜けだと、単純に思い込んだ。
そんな臆病者が戦争参加を拒むなど許されない。
「これはぜひとも陛下に聞いていただきたいな」
決意を込めた瞳で、デイツはそう締めくくった。
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