73.苦い夜(ダグラス視点/カルティア視点)
よろしくお願いします。
「おーい、ダグラス、こっちこっち!」
広い店内を見回せば女の子たちに囲まれてにこやかに笑うカルティアが大きく手をふっていた。
「あら、いらっしゃい。ダグラスさんは、エールでよかったかしら」
店のママが、入って来たダグラスに艶やかに微笑む。軽く頷いてから、カルティアの横に座る。
初めから頼んでいたのだろう、ごゆっくりと告げてカルティアを囲んでいた女の子たちは別のテーブルへと向かっていく。
運ばれてきたエールを見つめ、カルティアが魔法を呟く。一瞬にして冷えたエールをダグラスは一気に半分まで飲んだ。
「会議、邪魔してごめんね」
「どうせ、レミアルかメルディアナに聞いてタイミング合わせたんだろ?」
「バレてたか…だっていきなり二人一緒にいるところみるのは辛いかなって思ってさ。結局、すぐにクロゥインが、跳んできたんだけど」
カルティアが一気に杯をあおって、息をはいた。
「騒ぎの件は片付いたのか?」
「クロゥインが魔法を使ったらヤバい相手だと察してすぐに大人しくなったよ。まぁ、最初から戦闘目的じゃなかったのも大きいかな。いくつかアドバイスしてなんとか帰ってもらったよ。彼がいればもっと話は早かったんだけどね」
「あんまりアイツにばかり頼るなよ」
あのあと彼女から連絡はなく、クロゥインが普通に会議に出席していたのでどうなったのかと思っていたが、無事に済んだらしい。
だがカルティアは、暗い表情のままだ。
「どこで間違ってたんだろう? もっと早く会っていれば良かった? それとも、人だからダメだったとか? まさかクロゥインに好きな人ができるなんてさ…」
「こればかりは他人がどうこうできることじゃないからな」
クロゥインは自分の気持ちに気づいていないんだが。マヤもよくわかっていないみたいだし。
なので、すぐにどうなるというものではないのだが、クロゥインの周囲は色々と気を揉んでいるようだ。
クロゥインが作ったイヤーリングで情報を回し、その一助になっているだなんて皮肉な話ではある。
「分かってるけど、あのときああしていればな、とか思うだろう?」
「心当たりが多すぎてどれのことを言ってるのかわからないけど、どれも結局は伝わらないとは思うけどな」
以前に一緒に冒険者をやっていたときに、カルティアとクロゥインが二人で、川に落ちたり、ダンジョンの隠し部屋に閉じ込められたり、酔ったカルティアがクロゥインを部屋に連れ込んだり色々あったことがダグラスの脳裏をよぎった。
いずれもクロゥインは烈火のごとく怒っていたような気がする。
「そもそも、いつもナンパした女の子の自慢話をクロゥインにしてる時点で、あいつから羨ましがられて恋愛は対象外になってるんだろ? 揉め事が起こればすぐにクロゥインに押し付けてたしな」
「それとこれとは話が違うんだ! ウサギちゃんってのは愛でて楽しむものだろう? 僕のライフワークなんだ」
「カルティアにとってはそうかもしれないけど、クロゥインには伝わらないから。もう27歳なんだし、そろそろその格好もやめたらいいんじゃないか?」
「年の話はするなよ?! 永遠の二十歳だって言ってるだろ!」
カルティアの右ストレートの拳を鳩尾に受けながら、それは無理があるだろうとダグラスは心の中でそっと呟くのだった。
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「おーい、ダグラス、こっちこっち!」
店に入ってきた大柄な男を見やって、カルティアは大きく手を振った。記憶の中にあるダグラスは、記憶よりも大きく見える。もしかしてまだ成長しているのだろうか。
「あら、いらっしゃい。ダグラスさんは、エールでよかったかしら」
店のママが、入って来たダグラスに艶やかに微笑む。ダグラスはそれに軽く頷いてから、カルティアの横に座る。
カルティアを囲んでいた女の子たちはダグラスが来たら他のテーブルに行ってくれと頼んでいたので、ごゆっくりと告げて去っていった。ダグラスも女の子と話したいだろうけど、この店の常連っぽいからそれは次回にしてもらいたい。
ダグラスの注文したエールを見つめ、カルティアは魔法を呟く。射導師だから弓だけでなく魔法も使えるので、こういうときは便利だ。クロゥインほどの力はないけれど。
一瞬にして冷えたエールをダグラスは一気に半分まで飲んだ。
「会議、邪魔してごめんね」
「どうせ、レミアルかメルディアナに聞いてタイミング合わせたんだろ?」
鈍い癖に変なところで察しのいいダグラスが当たり前のように口にした名前は、どちらも正解だ。
レミアルからもメルディアナからもクロゥインに彼女ならぬ妻ができたことをメッセージで告げられていた。
「バレてたか…だっていきなり二人一緒にいるところみるのは辛いかなって思ってさ。結局、すぐにクロゥインが、跳んできたんだけど」
カルティアは一気に杯をあおって、息をはいた。
結局、避けていたはずが二人そろって仲良くしているところを見るはめになった。
日ごろの行いの悪さだろうか。
「騒ぎの件は片付いたのか?」
ダグラスに問いかけられて、そういえばクロゥインの助力を請えなかったことを思い出した。
「クロゥインが魔法を使ったらヤバい相手だと察してすぐに大人しくなったよ。まぁ、最初から戦闘目的じゃなかったのも大きいかな。いくつかアドバイスしてなんとか帰ってもらったよ。彼がいればもっと話は早かったんだけどね」
「あんまりアイツにばかり頼るなよ」
ダグラスが、呆れたように苦笑するのを眺めながら昔から何かあれば二人に頼っていたことを思い出した。
圧倒的なクロゥインと面倒見の良いダグラスは年下だけれど、いつも自分の味方でいてくれた。安心できる存在だ。
それなのに。
「どこで間違ってたんだろう? もっと早く会っていれば良かった? それとも、人だからダメだったとか? まさかクロゥインに好きな人ができるなんてさ…」
「こればかりは他人がどうこうできることじゃないからな」
それはわかっているけれど、やはり現実としてあのクロゥインが誰かを好きになるとか、いまいちピンとこなかった。実際見てしまえば、自分の入る余地はないんだなと知らしめられたけれど。
マヤは小さい可愛らしい獣人の女の子だった。
それは認めるけれど、クロゥインが横に並べばそれだけで犯罪のような雰囲気になるのはお互いの外見が悪い方に作用しているからだろうか。
自分の隣だったらと考えて、ファンクラブの会員たちが誹謗中傷をクロゥインに向けていたのを思い出した。どこに滞在しても親衛隊のような存在が出来上がって、自分たちの行動をそっと見守ってくれるのだが、クロゥインは外見からものすごく嫌われていた。一部にクロゥインとの仲を押す奇妙な愛好者もいたが、本当に一部だけだ。
ダグラスと並ぶとナンパの成功率が上がるのだが、クロゥインと一緒にいると恐ろしいほど勝気な女の子たちから守られるように連れ去らわれることが多かった。
「分かってるけど、あのときああしていればな、とか思うだろう?」
「心当たりが多すぎてどれのことを言ってるのかわからないけど、どれも結局は伝わらないとは思うけどな」
以前に一緒に冒険者をやっていたときに、カルティアとクロゥインが二人で、攫われた貴族の令嬢を助け出したり、ダンジョンの罠にはまったり、呪われたカルティアがクロゥインに迫ったりと色々あったことが脳裏をよぎった。
確かに、クロゥインに告白めいたことをしても伝わらないだろう。どれもすごく怒られて終わったような?
「そもそも、いつもナンパした女の子の自慢話をクロゥインにしてる時点で、あいつから羨ましがられて恋愛は対象外になってるんだろ? 揉め事が起こればすぐにクロゥインに押し付けてたしな」
「それとこれとは話が違うんだ! ウサギちゃんってのは愛でて楽しむものだろう? 僕のライフワークなんだ」
決してもてないクロゥインを馬鹿にしていたつもりはない。ただ、もてないクロゥインを見て安心していただけだ。実際は、パーティメンバーをはじめとして、各種方面にそれなりにもてていたのだが、積極的にアプローチするものは少なかったので、カルティアは傍観を決め込んでいた。
「カルティアにとってはそうかもしれないけど、クロゥインには伝わらないから。もう27歳なんだし、そろそろその格好もやめたらいいんじゃないか?」
「年の話はするなよ?! 永遠の二十歳だって言ってるだろ!」
カルティアは右ストレートの拳をダグラスの鳩尾に叩きこみながら、だからダグラスはもてないんだと心の中で喚くのだった。
お読みいただきありがとうございました。




