72.北部冒険者ギルド長会議の午後の部
作業の都合上、2話アップになります。
よろしくお願いします。
昼寝を終えて、北部冒険者ギルド長会議室に戻ると、ダグラスがベルクとレンスに攻め立てられているところだった。
「なんだ、取り込み中か?」
「クロゥ、交代してくれ!」
のんびり声をかけると必死な形相のダグラスが振り向く。
「どうしたんだ?」
「前回の会議でお前が出した魔道具だ」
「どれだ?」
正直魔道具など、思いつきと素材の都合で作るので、何が何やらさっぱりわからない。1年前の会議に出した魔道具など記憶にあるはずもない。
「小僧、前回改良したものを持ってくると豪語したこと、よもや忘れたわけではあるまい?」
「私もしかとききましたよ」
忘れたか忘れていないかときかれれば、忘れているが、口に出せる様子はない。
「ああ、アレだろ、アレ。あれはちょっと時間がかかる、かな?」
「やはりそうだろう。そのような非常識ななものが簡単に出てくるはずがない」
マグワイアが大きく頷いているのを、レンスがにらみつける。
「お黙りなさい、この男の非常識さをろくに知らないくせに」
擁護されているのだろうか。批難されている気もしなくもないが。
レンスの言葉に、横にいたベルクが頷く。
「たとえ、完成していたとしても戦争に使われそうなものを易々と出すほど考えなしではないはずだ。なあ、小僧」
「ん? ああ、そうだな」
戦争? なんだ?
魔道具の話ではなかったのか?
俺が作る魔道具は通信ができたり、ちょっと早くお湯が沸いたり、ものすごく明るくなったり、ちょっと痛みを感じにくくするといった生活で少しだけ快適に過ごすことを目的にしたものが多い。
それを戦争に使うとはどういうことだ?
頭の中ではハテナが乱舞しているが、神妙な顔を作って頷けば、ベルクもレンスも勝ち誇ったような顔をしている。
マグワイアが低く唸る。
「今日の話は陛下にも報告させていただくからな」
「もちろん構わない。叱られるのはどちらかもわかりきっていることだがな」
「ええ。そうですよ。それより、本人が来たのならちょうどいいですわね。そろそろ、北部地域にアレが到達する時期ですので、警戒を怠らないようにとの国王陛下からのお達しです」
『俺がいない間になにがあったんだ?』
『本当に大変だったんだからな!』
こっそりダグラスに通信を飛ばせば、ものすごい勢いで怒鳴られた。
詳細など聞きたくもないので、レンスの言葉に耳を傾ける。
「今年は5年目になりまして、予兆も見られているとのこと。それで、今年は北部を代表してキップ(仮)冒険者ギルド長に一任しようという話になりまして…」
「待て待て、なんの話だ」
突然名前を挙げられて、任せたと言われても、はい任されたとはならない。
「5年ぶりというと、まさか『黒塵』?」
「そうですね」
「これまでは、北部一丸となって対応してきただろうが。どうして、今年は俺に一任になるんだ?」
「そりゃ、小僧がバグロード市とサンダルキア市の冒険者ギルド長を撃退したからだろう。そのうえ、ドルトミン市は新しい冒険者ギルド長だから、黒塵が何かも知らんしな。儂のところは、来年の『青のダンジョン』のスタンピードに備えなければならんから、人手をさけん」
「来年だろ、まだ起こっていないのに、なんの準備がいるんだよ」
「ちなみに私は失踪事件で忙しくて、手が出ません。なんなら、失踪事件を代わりにあなたが調べてくれても構いませんが」
犯人が調べて報告するとはどういうことだ。
できる限り関わりたくないので、レンスの提案は却下となる。
「消去法で小僧しか残らんだろう?」
ベルクが神妙な顔で告げるが、腹では笑っていることなどお見通しだ。
状況は確かに俺が引き受けるべきだが、力添えなしでアレに立ち向かうのを無条件で引き受けるのも癪だ。
「そのコクジン?とはなんだ?」
マグワイアが不思議そうに首をかしげている。
「北部地帯を5年に一度横断する怪鳥だ。万単位で行動している渡り鳥なんだが、飛ぶのに魔力を使うらしくて、飛行している間、下にいる者たちから魔力を奪っていくんだ」
「なんだと?」
「ドルトミン市に来て長いんじゃないのか、話くらい聞いたことはないか?」
「いや、しらんな」
「そうか。だいたいは魔力切れのような症状を起こすから、冒険者ギルドに大量に依頼が入るんだが、聖者職の上級魔法くらいしか回復の手立てがない。もしくは神官の魔力結界をはって魔力を奪われないようにするかのどちらかだ。神殿に駆け込むものも多いな。魔力欠乏症で死にたくなければ、それなりに備えておけよ」
「それは厄介だな」
「厄介なんだよ、それをフェーレン市におしつけようとしてるんだから、大した話だな」
盛大な嫌味をのっけると、ベルクはふんと鼻を鳴らした。
「何も協力せんとはいうとらんだろうが。ただ、お前に一任したので、よろしくということだ」
それを押し付けているというのでは?
俺ははあ、と息を吐いて対策について考えた。
といってもできることはしれている。
俺一人で行うことなど、一つだけだが今回は殲滅が難しい。
なにせ、吉兆を運ぶ怪鳥だ。字面だけみれば、真逆に見えるがあの鳥は昔から無事に過ぎれば幸運をもたらすと言われているのだ。
殲滅したなんて報告したらこの国どころか大陸中から批難される。
だが、怖いことだろうか。
最悪、そちらでも構わないのでは?
その方が遥かに楽だ。
危ない方向に思考が回りだしたときに、不意に言葉をかけられた。
「そういえば、小僧、面白い話を聞いたのだがな」
心底、愉快だと言いたげにベルクが肩をゆすっている。その横で、レンスが思い当たったように、ああと声を漏らした。
「貴様、『残念市長』と呼ばれているそうじゃないか?」
はあ、なんだって?
お読みいただきありがとうございました。




