69.ダグラスの苛立ち(ダグラス視点)
よろしくお願いします。
「あの小僧は力を好き放題使って、すぐに会議を蔑ろにしおって」
「申し訳ありません、急な案件が入ったようで」
転移魔法を使って自由に行き来するだなんて誰もができるわけではないことなので、苦々しげに口にされてもどこか許されているような空気が漂う。
ダグラスにとっては、クロゥインの非常識が日常なので、周囲の様子を見つつ、宥めるという役目になる。調整役も楽ではないが、破天荒な幼馴染をもってしまった宿命と思えば、諦めもつく、ような気がする。
「会議中に、中座だと? 許されるわけがない! 今すぐに呼び戻せ」
怒りに打ち震えているのは、デイツ・マグワイアだ。
融通の利かなさそうな男は、やはり見た目通りのようだ。憤りを顕わに、拳をテーブルに叩きつける。
「それとも、戦争に参加しないという意思表示なのか?!」
「意思表示も何も、先ほども言ったように彼は戦争には参加しませんよ。国王の許可も得ている」
ダグラスが静かに答えれば、睨むよりも鋭い視線が向けられる。
「その国王からの要請だと言っているだろう」
「ですから、できる限りの協力はしますが、強制的な参加はあり得ませんし、キップギルド長は参加しません」
「前国王の死因も知らないほど無知ではあるまい?」
「前国王は病死だろう? 俺は辺境が長く中央の政治はよく知らないが大々的に公表されている」
ベルクの助言に何の衒いもなく答えたマグワイアに、ダグラスは思わず呻いた。
まだ国内に、クロゥインの怖さを知らない人間がいるとは思わなかった。
魔王を斃したクロゥインの強さは語り草になっているが、それは冒険者の間では、だ。魔王の被害にあった都市などはありがたがられているが、被害のないところは魔王の恐ろしさ自体理解されない。身近な魔物よりも数倍強い、程度で済まされている。
一方で、冒険者以外のクロゥインの強さは国王筆頭に、貴族の位の高い者ほど、実感している。前国王との確執は有名で、クロゥインへの嫌がらせは度を越していた。それに我慢がならず爆発したクロゥインの所業を表立って責める者もいたが、前国王と同様に消されている。
後は、クロゥインを恐れる者だけが残った。
だからこそ、公になっていないがクロゥインの恐ろしさは根付いていると思っていたが、まさかこんな身近に知らない者がいて、さらに火種を起こそうとしているとは。
ダグラスの胸の内に、仄暗い炎がともる。
貴族も冒険者も、勘違いした人間どもに心底腹が立つ。
昔からクロゥインは出来る限りの力で戦ってきた。異質で孤独。突出した力はそれだけで人を遠ざけ争いを呼ぶ。大陸を巡った3年間に自身の力の強大さを実感した後は生まれた国のために尽くすと決めて、すぐに捧げたものから裏切られて。
傷つきながらも理想を目指し進んだ結果、10年経ってーーーようやく形作ってきたものが見えてきた今になって、こんな頭の硬い愚か者に出会うとは。
力を持っているからそれを使うのは当然だといわんばかりの態度に、さてどう言いくるめようかと浅く息を吐いた。
『ダグラス、クロゥインをそっちに戻さなくても大丈夫だよね?!』
『バカいうな、俺は会議中だって言っただろう!』
頭の中にカルティアとクロゥインの声が鳴り響いたのは、まさにそんな時だった。
『カルティア? なんでクロゥと一緒にいるんだ?』
『レミアルからマヤが攫われたと言われて追いかけたら犯人はカルティアだったんだ。そのうえ、こいつのよくわからん事情に巻き込まれた』
『だから、しばらくクロゥインを借りてもいいだろう』
『よくない、俺は関係ないって言ってるだろ』
ぎゃーぎゃーと頭の中で声がこだます。
ダグラスは思わず額に拳をあてて盛大に呻いた。
「あーもう。ごちゃごちゃ、うるさい」
思わず声に出ていたらしい。
ベルクは無表情、レンスがぎょっとした顔をして、マグワイアはますます顔を赤らめた。
今のは自身が悪いとは思いたくないダグラスだった。
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